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半分獣の俺が異世界で最強を目指す物語  作者: 福田 ひで
第二十一章 八つの源魔石の行方
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その三十八 姉としての覚悟

突然の告白信じたくない事実、それらが波のように押し寄せて来てミズト達の思考を停止させる。


「イナミ……さん?何を言ってるんですか?」


ナズミはほとんど無意識にその言葉を発していた。

目の前の出来事が信じられないとでも言うように、体がその事実を拒否していた。


「分からない?ブライトが言っていたようにあの中には本当に裏切り者が居たって事、そしてそれが俺だって意味だよ」

「そんな、そんなわけないじゃないですか。だってイナミさんは私達の中まで——————」

「仲間だと思っていた人が敵だった、それを裏切り者って言うんだよナズミ」

「どういうつもり、まさか私達の情報をガイスに流していたの?」

「その通り、それが俺の役目だからね。だけど裏切り者についての話が出てきちゃったし、皆の警戒心もかなり高くなったしもうこれ以上隠し通せないかなと思って正体を現したの。一番危険な場面は皆が居る前で正体がバレちゃうところだったからね。そうなる前に引き上げたかったのさ」


平然と自分の正体を明かした理由をよどみなくしゃべるイナミに対してミズトは不快そうに顔をしかめる。


「その下の奴隷の印は自ら入れたの?」

「そうだよ?体とかに入れたらすぐにバレちゃうでしょ?自分でもいいところに入れたと思うんだ。一番近くに居たピンカですら、それが分からなかったしね。舌もあんまりでないように注意してたし」

「でも、そんな……そんなことが。それじゃあピンカさんは一体どこに?」

「さあ、何処だろうね」


イナミは不気味な笑みを浮かべると夜空を見始めた。

それを見てカッとなったミズトが魔剣でイナミを切りつける。

だがそれをひらりと交わしてイナミは二人から距離を取る。


「冗談だよ、あれでも一応家族だ。殺しはしないよ。それにしても本当にボロボロみたいだね。全快のミズトに勝てる自信はないけど今なら余裕かもしれない」

「お姉さまを傷つけさせない!」


そう言ってナズミはミズトの前に立ち戦う姿勢を見せる。

だがナズミの体も既に満身創痍だと分かっていたイナミは特に臆することなく余裕の笑みを見せる。


「源魔石を入手するのが俺の役目だ。既に回収は済ませてるから、俺は二人を傷つけたりはしない。それにブライドたちは皆の事を助けてるんだろ?本当だったら先回りさせてた刺客に皆が疲弊したところをやるつもりだったけど、まさか緊急信号なんてものがある何てね。おかげで計画は多少狂ったけど問題なかった」


イナミは端末を取り出して源魔石の状況を確認する。

その間にナズミがミズトの耳元で喋る。


「ねえお姉さま私どうすればいいの?私、イナミと戦わなきゃいけないの」

「やらなくていいわよ。やった所で負けるのがオチ、今の状態じゃ万全の状態のイナミをどうにかすることは出来ない」

「でも、このままじゃ源魔石が取られちゃうよ。お姉さま私は皆の役に立ちたいの」

「ありがとう、でもチャンスはあるわ。少し休んで魔力は回復した、ナズミオリジナル魔法は使える?」

「あと一回だけなら」

「それなら私が合図をしたら、その魔法を使って?後は私が上手くやるから」

「脱出の相談?それとも俺を倒すための算段でも整った?どっちにしろ源魔石の同行を見るかぎり助けは来ない。有象無象はさすがにやられちゃったけど、これだけ取れれば十分だしね。何もしなきゃ俺も何もしないよ」

「自分の立場が優位になったと感じがいしない方が良いわよ。あなたは私達と共に戦って来た。それは紛れもない事実、手の内はある程度知ってるわ」


ミズトはそのままゆっくりと立ち上がりまっずぐイナミを見つめる。

その瞳には明らかな闘志が宿っていた、まだ死んではいない。


「やる気って事?望みは薄いと思うけど、そんなのも分からないほど馬鹿じゃないでしょ?」

「そうね、でも私も元十二魔導士としてのプライドがあるの。やられっぱなしはごめんだわ」

「元十二魔導士ね。確かに今のミズト達にとってプライド何て、ボロボロだろうね。大切な主人も守れずに命令された物すら取れないなんて。本当だったらさ、二人にチャンスを上げようとしたんだよ。ミュウラを会わせてあげようとしたんだけど、二人の居場所を知る前に俺は出て行っちゃったからさ。ごめんね、死ぬ前に会いかったでしょ——————」

「今よ!」

「霞の中の私!」


ミズトは突如魔剣を引き抜くとその瞬間にナズミに命令する。

それにより剣の軌道が分からなくなり、周りも見えなくなっている。

それに対してイナミは何処かから攻撃が来るのか完全に分からなくなっていた。


「くそ、どっから切りつけるつもりだ!」


『大丈夫だ。ミズトの魔力はあと少し、ナズミはこの魔法で魔力を尽きたはず。魔剣を使ったとしても複

雑な動きは出来ないはずだ。魔力の気配を察した瞬間にカウンターを合わせる』


すぐにでも反撃が出来るように見えない霧の中を警戒して身構えるも、一向にミズトが来る気配はなかった。


「攻撃してこない?こんな絶好の状況で?」


何かがおかしい、そう感じたイナミは急いで風の魔法を使って周りの霧を晴らした。

弱々しい魔力で構成されたその霧はあっという間に飛散し、そして景色がはっきりと見えて来る。


「っ!?いない!何で!」


そこには木々が見えるだけで二人の姿は完全に消えていた。

そして地面には急いで駆け抜けたような足跡が残っていた。


「逃げる為に油断をさせた?そもそも逃がそうとしてたのに、わざわざ戦うふりをしてまで?ミズトにしては何か変だ」


その時不意に自分のポケットを振れる。

その時あるはずの感触が無いのに気付き急いでポケットの中をまさぐった。


「ない!ないない!源魔石がない!!」


————————————————

「はあ、はあ、はあ」

「くっ!」


ミズトとナズミはイナミから逃げるようにして走っていた。

だがその時痛みを感じたミズトが思わず足を止めてしまう。


「お姉さま、大丈夫ですか!」

「気にしないで、それよりも今は逃げることが先決よ。せっかく源魔石を手に入れたんだから」


ミズトは先程イナミから奪い取った源魔石を握りしめる。

それは少し水で濡れていた。


「本当は魔力探知機もどうにかしたかったけど、私の今の魔力量じゃこれを手に入れるので限界だった」

「それでも十分すごいです。でも本当によかったんですか?源魔石を持っていたら探知機で場所がバレちゃうんじゃ」

「そうね。でもそれは私達も同じ、これは一種の賭けよ。これを見て仲間が来てくれるか、イナミに追いつかれるか。とにかくそれまでは逃げるわよ」

「はい!お姉さま無理はしないでください、私が支えますから」


ナズミは体力の限界が来ているミズトの肩を持ち支えながら進んで行く。

それに対してミズトは体を預けるようにしてよろけた足を懸命に動かす。


「立派になったわね」

「え?そんな、私なんてまだまだですよ。お姉さまには遠く及びません」

「本当は戦いは私だけで済ますつもりだった。ナズミは心が優しいからそう言うのには向いてないと思ってね。だから何か合った時は私が何とかしないといけないっていつも思ってた。でももうその心配もないのかもしれないわ」

「えへへ、お姉さまがそんなに褒めてくれるなんて珍しいですね。何だか照れちゃうな」

「妹にこうやって支えてもらう日が来るなんて思いもよらなかった。ありがと」


それを聞いて恥ずかしさのあまり頬を染めながらナズミはそっぽを向いてしまう。

いつもは冷静沈着で必要なこと以外喋らないミズトがこうして自分の想いを何度も伝えるのは珍しかった。


「お姉さま、疲れてるんですか?そんなに私を褒めても何も出ませんよ」

「見返りを求めてるつもりはないわ。ただ覚悟を決めたって言うだけ」

「覚悟?」


そのまま少しの間静寂が辺りを包む。

ナズミも話が続くと思っていた為切り出すことも出来ずただ無言で足を動かす。

すると再びミズトが話し始めた。


「今回はミュウラ様には出会わなくてよかったと思ってる」

「それはどうして?」

「次は会う時は殺す時と決めていたから。ただでさえ守れなかったのに死体を操ってることに腹立っているのにその本人が目の前に現れたら、私は我を忘れてた」

「分かります。私もガイスのやり方は許せません。だから一緒に止めましょうね!私たち二人で!」

「ええ、そうね。でもまだそれは出来ないわ。もし我忘れて戦っても結果死、今は明らかに力が足りない」

「確かにミュウラ様はお強い方です。今のままじゃ勝てる見込みは少ない。だったら強くなりましょう、二人で!」

「ふっそうね。それなら先ずは——————ナズミ?」


突然ナズミの足が止まった。

するとミズトを支えていた力が無くなり二人一緒にその場に倒れてしまう。


「ナズミ?ナズミ!?」


ナズミの胸から何故か赤い血が流れていた。

それを見た瞬間、聞き覚えのある声が聞こえて来る。


「見つけた」


その声にミズトはいち早く反応し、聞こえた方に振り向く。

ナズミは苦しそうにうめき声をあげてあり、その声を聞く余裕すらなかった。


「イナミ、まさかナズミを」

「急所は外したよ。そもそも二人が逃げるのがいけないんだよ。まさか源魔石を持って逃げるとはね」

「逃がしてくれるんじゃなかったの?」

「源魔石を持ってとはいっていない。それを返せ」


イナミの様子が怪しい事をミズトは瞬時に察した。

頬に汗が伝い息も切れている、かなり急いできていた。


『さっきまで余裕そうにしてたのに、急に焦っている。源魔石を取られたからだろうけど、探知機があるのなら見失うことも無いはず。何に焦ってるの?』


「早く渡すんだ。それとももっと傷つかないと分からないの?」

「殺せないわ。あなたは小心者だから。ナズミを殺せないのがその証拠、そしてこの状況でも命を取ろうとはせずに攻撃をするという脅しだけ」

「小心者だと?俺はもう変わったんだ!小心者が裏切りなんかできるわけがないだろ」

「そうね、だから私は驚いてるの。イナミが自ら裏切り者になったのを。元々じゃないでしょ?最初はイナミはこっち側の人間だった。だけど途中から私達を裏切った。その理由は——————」

「うるさいなああああ!」

「っ!?」


イナミの激情と共に風の魔法がミズト達を襲う。

体ごと吹き飛ばされミズトはナズミを庇うようにして転がる。

そしてその衝撃で源魔石がミズトの手から離れてしまう。


「最初から渡しておけばよかったんだ。無駄な抵抗をしやがって、俺はミスるわけには行かないんだ」

「無駄ってわけじゃねえんじゃねえか?」


それは突如現れた、不敵な笑みを浮かべて木の上に立つブライドの姿が。


「時間稼ぎご苦労だったなミズト。後は俺に任せておけ」



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