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半分獣の俺が異世界で最強を目指す物語  作者: 福田 ひで
第二十一章 八つの源魔石の行方
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その三十六 信じる者は救われぬ

「はあ、はあ、はあ、勝った……」


いや、これは勝ったなんて言えない。

地面に散らばった肉片と血だまりを見れば一目瞭然だった。

助けられなかった、助けなければいけない人たちを守れなかった。


「勝ったなんて言えねえよ」


誰かが死ぬのを見るのはこれで何度目だろうか。

その度にもう誰も死なせないと誓っているような気がする。

結局俺は何も成長していないのか。

誰も守れないのか。

俺はこめかみを抑えて深呼吸をする。


「悲観的になるな。まだ戦いは終わってないぞ」


そう自分に言い聞かせる。

まだ他の所でも戦っているかもしれない。

これ以上の犠牲者を出さないためにも早く向かわないと。


「よし、次はどうするか考えよう。そうだ、こいつらをどうするべきか」


捕えて何かしらの情報を吐かせた方が良いだろう。

こっちはただでさえ後手に回ってる。

どうしてここに俺達が来ることを知っていたのか、源魔石の情報が何処で漏れたのか。

色々と知るためにも連れて行った方が良いだろう。


「何か縛る物があればいいけど、あいつの糸は鋭すぎて縛るのに向いてないな。仕方ない担いで持って行くしか——————」


その時何かが動く音が聞こえた。

咄嗟に振り向くと今にも倒れそうな程ふら付いているシュエラたちの姿が合った。


「まじかよ、まだ意識あるのか」


手を抜いたわけじゃない、もしかして魔法がぶつかる瞬間に別の魔法をかぶせて威力を抑えたのか。

何にせよ、早く気絶させないと、これ以上戦ってる時間はない。


「あたいは……ずっと一人だった」

「っ!」

「何も知らねえんだよ、あたいは。誰もあたいを見ようとしなかった、そりゃそうっしょあたいは他人にとって疎まれる存在、親ですらあたいを産んだことを後悔した」


一瞬、倒れそうになるもリカコがそれを支えて転倒を防ぐ。


「愛なんか知らなかったんだ、この島に来て地獄味わって死ぬだけ。それがあたいの人生だって思ってた、だけどさああの人だけは違った。ずっとこの窮屈な世界で生きていくと思ってたあたいにミュウラ様は手を伸ばしてくれた。愛をくれた、あの人があたいにとってのお母さんってわけ」


その時シュエラが懐に手を伸ばしているのが見えた。

そこには棒状のスイッチのような物が握りしめられていた。


「その人にこういわれたん。『あなたは私の大切な子よ。だからこそ私はあなたを何が合っても守ってあげる』」


リカコもいつの間にか同じものを手にしていた。


「『何かが合った時はそれで呼びなさい』ってね。あたいはあの人の為なら命だってかけられる。だけど甘えてもいいんだとしたらあたいは遠慮なく助けを呼ばさせてもらうわ」


まさかあのスイッチはミュウラを呼ぶための!?


「やめろ——————」

「男子って本当に馬鹿ね」


ワープじゃ間に合わない。

足の方がより早く着ける。

そう思い、右足を突き出した瞬間体が前に倒れそうになる。

そこには魔法陣が展開されており右足がそれを踏んでいた。


「しまっ!?」


固まった、咄嗟の事で下を見るのを怠った。


「思い知りな、あたいとミュウラ様の想いを馬鹿にした罪をさ」


そう言ったシュエラは赤いボタンを押した。


「え?」


それは一瞬の出来事だった。

似たような光景、だがその衝撃はその何倍も来ていた。

何が起きているのかも分からずに頭が理解するまでに数秒を使った。

爆発した……彼女らはボタンを押したと同時に爆発した。

そこには元々あった半獣の肉片そして血が混ざりあい、もう彼女らがどれなのかも分からない。


「は?……は?何なんだよ、これ」


目の前の命が一瞬で終わりを迎えた。

そのボタンは彼女らにとっては命を救う者だった。

信頼していた物から受け取ったに違いない、あの表情と力強い言葉遣いは嘘ではなかった。

心の底から助かることを願って押していた。


「一体どうなってんだよ、どういうことだよ」


だがその結果、それが彼女らを殺した。

大切な人が来てくれると思っていたそのボタンで、自らの体を爆発させた。


「何でお前らが死ぬんだよ!!!!」


頭の中がごちゃごちゃになり思わず抱え込む。

今日で一体何人の人が死んだ、何人の人が悲惨な最期を遂げた。

半獣たちは自分たちの最後すら知ることが出来ずにこの世を去った。

そしてその命を奪った奴らは信じる者に裏切られて死んでいった。

それを俺は止められなかった。


「俺は一体何してんだよ!!」


後悔と悔しさが心の中で混ざり合い、それらを誰にぶつけるのかすら分からなかった。

いや、それは分かる、誰にこの感情をぶつけるべきなのか。


「ガイス、あいつがあいつがやったのか」


脳裏に浮かんだ名前、そしてあいつがやってきたことを振り返ればこんな所業も出来るだろう。


「人の命を何だと思ってんだ。絶対に許さないぞ!」


誰も居なくなったその洞窟で俺は感情を吐き出すようにして叫んだ。


———————————————

かつがミズトを逃がした時の事——————


「はあ、はあ、外に出られたの?」

「はい、お姉さま。外ですよ。何とか無事みたいです」


ミズトはボロボロの体をゆっくりを起き上がらせる。

自分が予想以上にダメージを受けているのを改めて感じる。

その時ナズミが慌てた様子で周りを見渡し始めた。


「あれ!?絶対さんが居ませんよ!まさか置いてかれたんじゃ、私すぐに戻ります」

「やめなさい」


ミズトに呼び止められたことでナズミは困惑の表情浮かべる。

ナズミ自身も戦えるような体ではなかった、だが彼女の誠実さをよく理解しているからこそミズトはすぐに呼び止めた。


「どうして、あの人数相手じゃ絶対さんも危険だよ。それにあの人は見えない魔法を使う。一人じゃ危険です!」

「私達は今彼の足手まといだという事を理解してないの。だからこそかつは私達を外に出した、そうでしょ」


ナズミは正論を言われたことで口をつぐんでしまう。

この光景はいつもと同じだ、ナズミが無謀なことをミズトが冷静に止める。

ミズトはそのまま「それに」と言葉をつづけた。


「私達には源魔石がある。これがあれば任務は完了」


紫色に光り輝くその欠片をポケットから取り出す。

これを手に入れる為にミズト達はこの滝の洞窟へとやって来たのだ。


「そうですけど、私は仲間を見捨てたくはありません」

「見捨てたんじゃないわ、信じたの。かつならあの状況を突破できる。そう言う力があると見込んだからこそ、託したの」

「っお姉さま。分かりました、託しましょう後は絶対さんに」


先程まで不安そうにしていたナズミの表情がスッキリとした笑みに変わる。

信じるという言葉は彼女からしたら大きな言葉だった。

ミズトはそのままテレポートで帰ろうとするが中々魔法を安定して出すことが出来なかった。


「疲労困憊ね。さすがに疲れたわっ」


思わずミズトは自分の口を押える。

弱音を吐くなんて自分らしくない、ミズトはそう思いチラリとナズミの方を見る。

ナズミはその言葉が聞こえていなかったのか、周りをキョロキョロと見渡していた。

それを見てミズトは少しほっとする。


「ねえ、お姉さま何か聞こえません」

「聞こえる?」

「おーい、お前らー!!」


その時こちらをまっすぐ駆け寄って来るイナミの姿が合った。

体はあまり傷ついいていなかったが、ここまで走って来たのか息切れをしていた。


「よかった二人とも無事だったんだね」

「イナミさんの方こそ無事でよかったです」

「ピンカは居ないけどどうしたの?」

「俺のとこにも奇襲が来てさ、ピンカは俺を庇って傷を負ったんだ。そしたら応援が来てくれてピンカを先にテレポートで帰らせたんだよ」


イナミは悔しそうに拳を握る。

それを見てナズミは悲しそうな表情をする。


「そうですか、ピンカさんが。でも無事ならよかったです」

「そうだ、源魔石の方はどうだった?ここに居るってことは回収できたのか」

「はい、何とか源魔石の欠片は回収しましたよ。ねっお姉さま」

「ええ、そうね」


ミズトはそのままイナミに源魔石の欠片を見せる。

それを見てイナミは恍惚とした表情を浮かべる。


「すごいや、俺は情けないことに回収できなかった。まだ狙っている人が居るだろうし、俺が代わりにブライドの所に届けるよ」


イナミはミズトから源魔石の欠片を取ろうとした時、ナズミが割って入る。


「それよりも、絶対さんの事を助けてください。一人でこの洞窟で戦っているんです」

「え?そうなんだ、たしかに一人は危険だ。でもかつならきっと大丈夫。俺達がすべきことは源魔石の回収だ。それを優先して行こう」

「え?確かにそうですけど……」

「ミズト、テレポートは出来ないんだよね。それなら僕が二人を送るよ、源魔石はそのついでに渡すから俺が持っておくよ」


イナミは再び源魔石へと手を伸ばす。

ミズトはそれに対して一瞬手を引っ込めてしまった。


「あなた——————っ!」


その瞬間、何処からか魔法が飛んできてミズトの持っている源魔石にピンポイントで当てられる。

それにより大きく弾き飛ばされ空中を飛ぶ源魔石と何処からか現れた半獣が手に取った。


「よっしゃ―ゲットだぜ!」

「しまった、新手!!」

「ちっ油断した」

「二人はそこに居て俺が追いかける!!」


イナミはすぐさま源魔石を持ち去って行った奴を追いかけようとする。

だがミズトはその一連の行動を見て覚悟を決める。


「イナミ、ちょっと待って!!」

「っ!何だ、どうしたの?」


突然大声で呼び止められたことでイナミは思わず足を止める。

ナズミはなぜミズトがイナミを呼び止めたのか不思議そうに見ていた。


「ちょっと聞きたい事があるの」

「そんなの後で良いだろ。早くしないと取られちゃうよ。見失ったら、もう奪い返せない」

「良いから聞いて、イナミは他の人を助けに来たのよね。ここへはどうやって来たの?」

「それは……これだよ」


イナミはポケットから身に覚えのある端末を取り出す。

源魔石の欠片を探知する機械、だがそれには別の機能も備わっていた。


「助けが来たって言ってたわよね。ピンカはイナミを庇ってそれで先に帰ったって、その時イナミは一回も襲われてないって事」

「俺も抵抗したし、ピンカが身を挺して守ってくれたから。ていうかこれ何なの?」

「その端末ずっとイナミが持ってたの」

「じゃなきゃ、壊れちゃうじゃん」


ミズトはそれらの質問を終えるとしばらく考え込む。

ナズミは一連の流れをよく理解しておらずミズトに視線を送る。

だがミズトはナズミを見ることはなく再びイナミの方を見る。


「実は端末には緊急信号という物があるの。それは端末が破損された時に生じるらしいわ。もう一度聞くけど、イナミ達の所にも来たのよね、救援が。それら誰だったの?」

「それはどういう意図の質問?」

「答えて」


イナミはミズトの眼差しを受けて諦めたかのように口を開いた。


「ブライドだったよ。すぐに周りの奴らを倒してピンカを救ってくれた。早く来てくれたから俺もケガをせずに済んだし、動けたから他の皆を救助しに来たんだよ」

「ブライド程の魔法使いなら源魔石を必ず取り返せるはずよ。確かあなたは取り逃がしたって言ってたわよね」

「お姉さま……」


不吉な空気が漂う、話の流れが嫌な方向に進んでいるのをナズミは感じ取る。


「ねえ、あなたは本当にイナミなの?」



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