その三十五 奴隷か仲間か
さてと状況は劣勢、シュエラたちも一筋縄でいかなそうだし本気で相手するにも皆の状況が分かってない以上それはあまり得策じゃないよな。
かと言ってこの人数差をどうにかするにはそれなりの覚悟が居るだろうし、ていうかそもそもどうしてこの人達を止めさせているんだ。
連携の訓練をしていないからか、たしかにこの半獣は機械のような行動しかとらないしな。
でも、何かが引っ掛かるんだよな。
「もうそろそろ終わらすわーあたい達の任務達成のためにもこれ以上無駄な時間を過ごしたくないんだよね」
「そうよそうよ、男子何かに構ってる場合じゃないんだから」
「任務?それって源魔石の事か、もしかしてお前ら未だに源魔石を手に入れてないのか?」
「もしそれが任務だとしてもかつお兄さんに話すわけなくない?それじゃあ、その人達と仲良く遊んでてよ」
そう言うとシュエラは糸を壁に張り巡らせてそれの上に乗って洞窟の出口に向かおうとする。
「待て!」
「いやだー」
するとシュエラは指を弾き止まっていた半獣たちに動けるように指示をする。
「くっじゃまだ!」
あいつらの目的は源魔石だろう、一斉に端末から緊急信号が来たのはあまりにもタイミングが良すぎる。
てことは未だに任務が達成できてない、つまり源魔石はミズト達が持ってるってことか。
この考えが正しかったとすればあいつらが危ないここで何とか食い止めないと。
今あいつらは糸を伝ってこの上を通って行こうとしている。
インパクトで吹き飛ばすか?
いや、糸の配置が上手く掴めないかえって追い風になってしまうかもしれない。
それなら
「ワープ!!」
「そう来ると思ったー」
シュエラは目の前に俺が現れるのを予言していたかのように、瞬時に糸を飛ばしてくる。
だがそれを俺はカウンターで防ぐ。
「奇遇だな、俺もだよ」
「ちょっ!?」
シュエラは瞬時に糸から落ちて跳ね返される糸を回避する。
あの近距離で避けれるのかよ!
「シュエラちゃん、ここはまずいよ」
「分かってるつーの、すぐに停止させ——————」
「インパクト!」
俺がインペクとを放ったことでシュエラは体が吹き飛ばされる。
近距離ではないから威力はそれ程だろうが相手の動きを止めるのには十分だ。
「ちょー邪魔しないでくんないかな、うわっ」
その瞬間、俺を狙っていた半獣たちが落ちてきたシュエラに向かって一斉に向かって行く。
「やっぱりそう言う事か。ずっとシュエラの行動に違和感を感じてたんだ。わざわざ半獣たちを止めたりしてな、こいつらを連れてきたのは数で押すためだろ。でもお前は半獣を動かす時には上に言って傍観し、下に降りれば半獣たちを止めた。明らかに半獣と一緒に居る状況を避けていた。つまり、お前等も俺と同じように攻撃対象なんだろ」
「お兄さんさーそう言う妄想やめてくんない」
「妄想かどうかは今の状況を見れば分かると思うけどな」
シュエラは苛立ちを見せるかのように顔をしかめる。
にしてもおかしなことだ、指示を送れるのにその指示をしている奴も攻撃の対象になる何て。
もしかして完全な主じゃないのか。
「どうするシュエラちゃん!このままじゃ男子の思う壺だよ」
「ちょーうぜえ、もういいや。どうせ使い物にならないしもういらないや」
「何だ、何をするつもりだ」
その時先程まで受け身だったシュエラが殺気を放ちながら大量の糸を作り出していた。
まさか、あいつ仲間を殺すつもりなのか。
「おいやめろ!何やってんだよ!!」
このままこいつら全員を殺させるわけには行かない。
俺はすぐさま糸から飛び降りてシュエラの元に向かう。
空中じゃ足に踏ん張りがきかない、インパクトでスピードを乗せるしかねえ。
「うごっ!?」
瞬間、目の前に魔法陣が出現する。
これはリカコの魔法!
まずい体が固定されて動けない、声も出せない!
やめろ、やめろーーー!!
その瞬間、一振りですべての半獣たちが一斉に細切れにされた。
それはあまりにも呆気なく、あまりにも一瞬の出来事だった。
鮮血が舞い、赤い血の池がそこには出来ていた。
「あーちょっと顔についちった。洗わないと駄目だこれ。さてと、ゴミ掃除も住んだことだしそろそろ——————がっ!」
気が付けば俺は無理矢理魔法陣を破壊してシュエラの元へと一直線に突っ込んでいた。
「ちょっシュエラちゃん大丈夫!?男子って本当に最低、女の子に手を上げる何て」
「人を殺すのは最低じゃねえのかよ」
「今のは効いたわ。ていうか、ちょームカつくんだけど、顔に傷負ったしどうしてくれんの」
「今度は顔だけじゃ済まねえぞ」
俺は地面に散らばった肉片を見る。
先程まで人間の形をしていたそれらを見てさらに心が締め付けられる。
「仲間なんじゃないのかよ、どうしてそんな非道なことが出来るんだよお前!!」
「は?意味不なんですけど、どうしてあたいらがこいつらの仲間にならないといけないの。奴隷だよ、奴隷。対等じゃない、そう言うの分かんないかな」
「お前の腹にも似たような印があるじゃねえか」
俺はシュエラの腹を指差して、そこに刻まれた印を確認する。
少し形は違うが似たような印だった。
するとシュエラは何故か嬉しそうな笑みを浮かべて、その印を撫でる。
「ああ、これ?これはね、選ばれた者の印だよ。あたいらはミュウラ様の右腕として選ばれたって事。そこら辺のただの奴隷と一緒にしてもらっても困るんだけど、不快だから」
「選ばれただって?俺にはただの使い勝手のいい駒の印にしか見えねえな。だってそうだろ、中途半端な支配権しかもらえてないもんな。奴隷たちの制御もままならないってことは、ミュウラはお前らの事敵とも味方とも思ってないんじゃないのか。お前らの事なんてそもそもどうでもいいんじゃないのか!」
その瞬間、鋭い糸が俺の頬を切り裂く。
威嚇して投げたのだろう、当てるつもりはないのは分かってた。
「何、言ってんの。ミュウラ様をさあ、馬鹿にしないでくんないかな。ザコに癖に!」
「それはお前らの方だろ!!」
「リカコ!」
「う、うん!」
ミュウラが糸を繰り出し、それを俺は避ける。
するとその避けた方向に魔法陣が展開される。
このパターンはもう慣れた。
俺は風の魔法を使って空中で身を翻し、それを避ける。
そして俺はミュウラたちが視認できないほどの速度で壁を蹴って行く。
「は、はや!?」
「お前何て所詮有象無象の一人だよ。奴らはガイスにしか興味が無いんだ!使い勝手のいい駒として目を付けられただけ、それ以上の感情なんて無いんだよ!!」
「うるさい!」
「どれだけ失敗しようが、お前等の事なんてとがめないと思うぜ。だって最初から何の期待もされてないんだからな!だから安心してミュウラの所に帰れよ!」
「うるさいっつってんだろ!!」
校則で移動している俺に向かって白い糸を無数に飛ばしてくる。
だが俺はそれを次々と避けて行く。
そして集中力を欠いたシュエラの懐に呆気なく入ることが出来た。
「インパクト!」
「——————っ!?」
そのままシュエラは勢いよく吹き飛ばされ壁に激突する。
「シュエラ!!」
「次はお前だよ」
「ひっ!」
俺は右手に魔力を込めてインパクトを放とうとした瞬間、腕に激痛が走った。
見てみると薄っすらと糸が腕を貫通していた。
「いいやつ入ったんだけどな、まだ起きてるのかよ」
「マジで許せない、こんなに痛いの初めてなんですけど。マジでぶっ殺す!!」
すると先程よりも魔力が込められた糸が出現する。
それはさっきよりも太く、そして鋭く凶悪になっていた。
「死の蜘蛛糸!」
それはとても速いスピードでこっちに向かって来ていた。
「男子禁制領域!!」
「しまっ!」
足が固められ動けなくなる。
どうやらこの場で対処するしかないようだ。
俺がカウンターをしようと魔法陣を展開した時、その糸が四方に分裂した。
「なっ!?」
「死ねええええ!!」
一点集中じゃなければカウンターで防ぎきれない、なら。
俺はそのまま体を倒した。
それにより規模が収縮されてカウンターの範囲内に入る。
「カウンター!!」
「しまった、リカコ逃げて!」
「禁制領域!!」
するとリカコの魔法陣に当たった糸がその場で停止する。
まじかよ、あれ魔法にも対応してんのか。
「だけどな、その一瞬の油断が命取りだぞ!」
俺はワープで瞬時にリカコの元へと向かう。
そして魔法陣を出現させようとした瞬間、俺は腹に一撃を与える。
「あっ!」
「リカコ!このっ」
「仲間がやられてるのが嫌なら、あいつ等にも同じようにしろよ!」
俺はリカコを蹴り飛ばしてシュエラの方へと飛ばす。
それによりシュエラはリカコをキャッチすることしか出来なかった。
そしてその一瞬を狙って二人まとめてインパクトを放つ。
「インパクト!!」
それはそれにより2人とも勢い良く壁に激突する。
そして今度こそ動かなくなった。




