その三十二 狙われた源魔石
そう語ったブライドに一気に注目が集まる。
あの扉が別の世界に行くための扉なのか?
「そんな話聞いた事ないわ。まあ知らなくて当然何だけど」
「僕も初耳ですね。確かにあの扉は長年島にありましたが、外に島の人々を出さないための装置の役割を担っていると思いました」
俺も何となくそんな役割を持っているのかと思っていた。
だけど実際は父さんが潜った扉でそれで日本に来たのか。
だとするとあの扉を潜れば俺も日本に帰れるのか。
「何じゃ何じゃ、あのとビラを潜れば別の世界に行けるのか。それは面白そうじゃのう。入ってみたいのじゃ」
「やめておいた方が良いぞ。ゼット師匠が成功したのはかつの証言で分かったが、実際はかなりの賭けだったんだ。あのままどこにも行けずに彷徨い続けるのすら覚悟していた」
「それでも潜ったのか。危険と承知であの扉を父さんは使ったんだよな」
その言葉にブライドは頷く。
「戦争の原因はお互いの考えの違いってのは俺も知ってる。だけどそこまで命を懸ける程の事が合ったんだろ。この扉を潜った人たちは何を求めてそんな事をしたんだよ」
「平穏さ、ゼット師匠は平穏を求めてこの島を去った。そもそも原因がゼットがこの島を出ようとしたことから始まった」
「たしか島の外に出るには機械を停止しなきゃいけないんだろ?だけどそうなるとこの島のライフラインが消えてしまう」
「そうね。確かにその意味もあったと思うけどゼット師匠は別の考えが合ってそれを止めたんだと思うの。例えばこの島の人々の身を案じていたりとかね」
「それってどういう意味?」
「装置を止めればこの島を認識できるようになる。ここの海流は確かに複雑だが、来ようと思えば来れる。いきなり現れた謎島何て期待奴が大勢いるだろ。そこに見た事のない種族も居りゃ捕まって実験台になるかもしれねえ。あの日々に逆戻りだ」
たしかにこの島で生み出された種族が半獣ってことは島の外には同じ種族は居ないことになる。
面白がられたり気味悪がられて捕まったり殺されたり実験にされる結果は容易に想像できるな。
だからこそ父さんは何も変わらない日常を求めたんだ。
父さんらしいな。
「そう聞くと確かにかつのお父さんの選択は間違っていないように思えるわね」
「ですがその事に賛同しない者も居るというわけですよね。ゼットさん派が居るようにガイス派も居るんですから」
「そうじゃな、あんな奴に同意するなど頭おかしいんじゃないか!」
「いや、そう言う訳じゃないんだよね。実際当時のガイスの意見にも納得はいっていた」
あんだけ敵意丸出しだったブライドが納得してた何て、一体どういうことだ。
「この島はそれなりの広さはあったが、やっぱり島は島だ。代り映えしない毎日、特に面白みも無い日常、モンスターを討伐して仲のいい人と過ごして一日を終える。そんな毎日に飽き飽きしていた奴は少なくはない」
「なるほどね。刺激のない毎日に飽きてきたって事かしら。そんな中ガイスがこの島を出ようとする話を知ったら賛同をする人も出て来るかもね」
「島を出ようとする者たちの理由は様々だった。最初に言った通り刺激を求める者、自分を売った両親やその人達に復讐を果たす者、自分の故郷に帰りたい者など色々いたがガイスはその全てを受け入れた。奴自身も最初は島の外が今どうなっているか見てみたいという純粋な理由だったろうな」
「でも様々な問題がぶつかった。行きたいから行くっていう簡単な話じゃなかったのよ。実際その噂は広がって行き、段々とことが大きくなって気付いたら派閥なんかが出来ちゃってたわ。しかも思想が違えば家族ですら会うことは禁止されちゃってたの。自由と平穏を求めていたのにも関わらず、それを得るために自らそれらを奪うなんて、皮肉だと思わない?あの時代は私は好きじゃないわね」
「ああ、仲の良かった友達とも会えなかったからな。やることなすこと制限されて息苦しかったぜ」
本当に辛かったのかブライドたちは思ぐるしいため息を吐く。
「父さんもみんなの事を規制したのか?」
「ゼット師匠はそう言う事は自主的にはしなかったが、相手側が何をするか分からなかったからな。仕方なく安全のための策は取ってたさ。だがどちらにしろ誰かの為を想っての行動だ。あいつとはそこがちげえ。そもそもガイスがより過激な思想に走ったのはゼット師匠に負けたからだと俺は思う」
「そう言えば父さんて強かったんだっけ。あのガイスすら倒す程に」
「ああ、まず間違いなく最強の半獣だった。元々ゼット師匠はガイスとよく張り合っていた。最初はライバルみたいな関係だったんだろうな。だが派閥が出来始めてからは明らかな敵になって行った。ゼット師匠に負けた後その恨みが募り募って今のような行動を起こしてんじゃねえかと俺は思う」
「どちらにしろ身勝手な行動には変わりはありません。全力で阻止しましょう、かつさん」
「ああ、当たり前だ」
父さんとガイスとの関係、こうやって聞いてみると因縁深い物があるのか。
俺の事をもう既に父さんの息子だって理解している可能性はある。
もしかしたら今はまだ気を待っているだけで俺だけを狙いに来るかもしれない。
その時俺はガイスを倒せるのか。
「人間は……」
「ん?なんだ」
アイラが突然言葉を発すると少し手が震えているのが見えた。
「人間はその戦争に巻き込まれたんですか」
「それは——————」
「あのー話の腰を折るんだけどちょっといいかしら」
しばらく口を開いていなかったクレハが恐る恐る手を上げる。
「どうしたんだ、クレハさん」
「いやあ、私は今起きてる状況を正確に理解出来てるわけでは無いし、話に突っ込むのは行けないと思ってたんだけどさっきからその機械赤く光ってるわよ」
「え?」
俺は自分の端末を見てみるとクレハの言う通り端末の一部分が赤く光っていた。
「な、何だこれ?ブライドこれってどういうことだ」
「この赤い信号は端末に何かしらの症状が起きた時と緊急要請の時にしか光らねえ」
「それってつまり、何かしらの問題が起きたって事?」
「そう言う事になるな。っ!ちょっと待てよ……」
その瞬間、一か所からしか光っていなかったのに次々と赤い点滅が増えていた。
源魔石がある場所の全てが赤い点滅が表示される。
「これはどういうことですか」
「何かやばそうじゃのう。あやつら大丈夫か」
「ちっ!やっぱり慎重に動くべきだったか!クリシナ、俺はサザミ達の所に行く!お前はピンカを頼んだ!かつ達も支給応援に向かってくれ!」
そう言うとすぐさまテレポートを使ってブライドたちはその場から消えてしまった。
「これってあいつらが誰かに襲われてるってことだよな。よし、俺達もすぐに向かおう」
「それじゃあ残り四つだけどどう行く?正直私は戦力として数えられないから」
「分かってる、俺はミズト達の所に向かう。あいつはかなり疲弊しているからな。王が来てたらまずいだろ」
「分かりました、僕はピンカさんの元に向かいます」
「よし、デビは可能な限り残った人たちを救ってくれ。恐らくガルアは大丈夫だろうからガイかツキノの方を優先に向かってくれ」
「分かったのじゃ!」
俺達はそれぞれの持ち場を決めて急いで行動に移る。
「ミノルたちはここで待っててくれ。何か合ったらすぐに逃げるんだ」
「ええ?分かったわ」
「アイラ、顔色が良くないですけど大丈夫ですか?」
「う、うん大丈夫」
そう言えばさっきもアイラの手が震えていたような気がした。
もしかして何か合ったのか。
「アイラは私達が見てるから心配しないで」
「分かりました、ミノルさんアイラを頼みます」
「それじゃあ行くぞ!」




