その二十六 島の大犯罪者
「人間が攫われてるってどういうことだよ」
突然のガルアの発言に俺達は動揺を隠せなかった。
今の言い方的には人間というのは半獣の力を持ってない普通の人ってことだよな。
その人達が攫われてるって一体どういう事なんだ。
「実はこんな物を見つけたんだ」
そう言うとガルアは一枚の紙を取り出す。
それはこの世界では情報誌と呼ばれる新聞紙のような物だった。
その一部をガルアは俺達に見せて来る。
そこにはデカデカと俺の顔が出ていた。
「本島最悪の犯罪者、キンメキラタウンを占領!?ちょっと待ってくれよ。これって俺の事か?」
「この内容を見る限りそうだろうな」
「そう言えばかつ、村の人達に犯罪者圧化されちゃってたわよね。もしかしたらまた同じ手段を講じてかつを犯罪者に仕立て上げたんじゃないかしら」
「これを見て見なよ。町の破壊や村を襲った事、他の街の連中を集めてキンメキラタウンに籠城している事とか今まで起きた事件を全てかつのせいにしてるね」
「この新聞を作った奴は誰だよ!」
「十中八九ガイスだろうね。あたいらが大きく動けないことを良いことに好き勝手やってくれるね」
「かつも犯罪者か。随分と悪妙な上げたな」
そう言って何故か嬉しそうにブライドが俺の肩を叩いて来る。
「全然うれしくないって!ていうかこんな事して何になるんだよ!」
「これは何処で手に入れたの?」
「村の近くさ。シアラルスの見回りを終えて少し辺りを散策知ってたんだよ。そしたらちょうど村が見えたんだが様子がおかしくて、村が破壊されてたんだ。そこにその情報紙が落ちてた」
「村の人達が襲われたんなら、攫われたのは人間じゃなくて村人じゃないの?襲われて人っ子一人居ないのならそうとしか言えないでしょ」
「違うなピンカ。サラ、この街で人間は見かけたか」
「見てないよ」
人間を見ていない。
この街には人間が居ないってことなのか。
「シアラルスでのあの事件で大勢の犠牲者が出た。俺は今でもそれを悔しく思っている。その犠牲者の中に人間が居るのならこの街に人間が居ない事は納得できる。だが俺はそうとは思えない。人間の立場から考えると記憶を取り戻した直後からあの町は危険だった」
「どうしてそう断定できるのよ」
「それは人間の立場になって考えれば分かることね。あの頃の人間達は私達と同じく共に過ごしていた。だけど記憶を封印されガイスによって改善された歴史により、迫害されることになった。かと思ったら記憶を取り戻し正しい歴史を思い出した。さあ仲良くやりましょうって言われても仲良くできるかしら」
「絶対に無理ね。散々馬鹿にしたくせに今まで通りで居られるわけないでしょ」
「なるほどな、つまり人間はすでに町を離れてたってことか?」
「てことは人間達は街が閉鎖されるよりも早く街を出たってこと?」
「もしくは人間は外に出すようにしていた可能性はあるな。思わず殺さないようにな」
たしかに大規模な破壊をしていたし、さすがおガイスでも街を半壊させる魔法を使って人間以外を殺すことは無理だろう。
そうなると人間達は街を出て村に向かったのか。
「あっだから人間が攫われたってことか!」
「ああ、そうだ。人間は村に避難したと考えるのが妥当だろう。そして村の人達は襲われた、恐らくガイスは戦力強化のためにもまだ情報が行き渡っていない村に目星を付けたんだろう」
「何も分からないことを利用してのこの新聞か。確かに何も知らない村人にとっては信じざる負えないな」
「俺達の時も似たような手口を使ってた。村を襲ったのはモンスターだろうな。それをあたかも助けに来たかのように倒す。そうすることで信頼を勝ち取りやがったんだ」
「ムカつく奴らじゃのう。姑息な手段を取りおって」
「だけどどうして人間を襲うんだよ。あいつら弱いだろ。仲間にしたところで意味ないじゃん。まあ半獣に出来るなら話は別だけどよ」
ガイの言う通りだ。
たしかに仲間にするメリットはあまりないだろう。
魔法を使えない普通の人間を仲間にしたところで戦力にはならない。
だけどそれはその状態のままでの話だ。
俺は知っている人間を半獣にする方法があるのを。
「出来るわ。人間を半獣することは出来る」
「っ!なぜそう言い切れんだ?」
「私がそれを実体験してるから」
ミノルは少し顔色を悪くさせて自らそう言った。
「ミノル」
「良いの」
大丈夫かという言葉が出る前にミノルに言葉を遮られる。
どうやらミノルはすでに覚悟を決めているようだ。
「私は元々人間である人に薬によって無理矢理半獣にさせられたの。私がそれを証明できる」
「今は半獣じゃないが?」
「俺達がそれを知ってる。それにあの時の戦いにもミノルは参加していた」
「てことは本当に人間を半獣に出来る薬があるんですね。恐ろしいです」
「あの薬はとても危険なの。皆が怒った実験での半獣化ではないから、それ相応の苦しみが伴う。最悪の場合死ぬかもしれないし、成功しても感情を失うかも何かしらの後遺症は残るわ」
「ガイスにとってはただの奴隷だろうしな。そんなの気にも留めてないだろう、やるぞあいつは」
「その薬って大量にあるのかしら?」
「分からない。もしかしたら大量に持ってるかもしれないし、これから作るのかもしれない。そもそもその人とガイスに接点があるかどうか……」
「ちなみにそいつの名前は分かるか?もしかしたら俺の知り合いかも」
「名前はシントよ」
するとブライドは少し考え込むと首を横に振った。
「知らない名だな。もしかすると隠れてたのかもしれない」
「そうなのね。でも会うのは難しいと思うわ。もう会わないって決めてるし」
「そっちの都合はどうでもいい。それを何とかしなければまた犠牲者が増えるぞ」
「どうでもいいとは何じゃ!妾の仲間を馬鹿にするな!」
「事実を言ったまでだ。そいつを止めない限り、お前のような犠牲者が増えるぞ」
「おい、そんなこと言わなくても——————」
「みなさーんお待たせしました!」
その時リドルが満面の笑みで広間へとやって来る。
だがリドルはその微妙な空気を察して。
「あとにしますか?」
「「「「今食う!!!!」」」」




