その二十四 食糧難と無職
「今帰ったぞー!」
俺は臨時の宿屋の広間に訪れる。
昨日の時点で各々の用事が終わればここに集まるようにしていたからだ。
既に何人か集まっているのか白熱した声が聞こえて来る。
「だから俺はこの城の関係者じゃない!そう言った問題は自分たちで解決しろ!」
「人事みたいに言うなよ!お前等だって飯が食えなくなるぞ!」
どうやらサザミとムラキが何やら口論になっているみたいだ。
俺が入って来たのにも気付いていないな。
するとその様子を見ていたエングが俺に気付き手を振る。
「ようかつ!用事は済ませたのか」
「ああ、ていうかこいつら何で喧嘩してるんだよ」
「どうやらムラキが食糧問題について意見を聞きたいらしいぜ。だがサザミは関係ないって言ってそれを拒否してんだよ。それで今もこうして口げんかしてんだがっはっは!」
「笑い事ではない気がするが、ちょうどいいかもな」
さっきのリツたちの話を聞くに本当にそれは問題になってるし、ムラキもその事について考えてくれてるのはよかったな。
だけど肝心の解決方法は今の所決まってないみたいだ。
「お前は王だろ。自分で頭の考えられないのか。それとも馬鹿だからか!」
「なっ!?今この俺を馬鹿といったな!極刑だ極刑!おい、サラ!ガイ!こいつを捕まえろ!」
「サラとガイなら今は街の見回りに行ってるぜ。ていうかお前が自分で行かせただろ?」
「あっそうだった」
「やはり馬鹿だな」
「お前ー!」
「がっはっは!」
この二人の相性は見たまんま最悪だな。
だがムラキは人を選んだ発言をあまりしないしこういった喧嘩にはよくなりやすい。
昔よりは生意気じゃなくなったけど。
「おい喧嘩ばっかりしてないでちゃんと話し合えよ。ていうかその話結構真面目に俺も気になるんだけど」
「本当かかつ!どうだサザミ!お前と違ってかつはよく理解してるぞ。この話の重要さをな」
「ならお前等だけで話し合えばいいだろ。俺には関係ない」
「良いじゃねえかサザミ!少しは話しを聞いてやれば。どうせもう案はあるんだろ?」
エングの言葉を聞いて先程まで聞く耳すら持っていなかったサザミが諦めたかのようにため息を付く。
「食料に関してはモンスターを狩ればいいだろ。こんな状況でもあいつらはしぶとく生きてるしな」
「それは俺も考えたぜ。モンスターを使った料理もあるしな。食用の動物以外にもそれを使った方が良いだろ」
「この街の連中はそもそも食材や材料も他の街から買い取って賄っているんだろ。そんな奴らに農作をやらせるわけには行かないだろ。どうせできないだろうしな」
「でもモンスターの討伐って言ったって街の外に出るのは危ないだろ。それに誰が取りに行くんだよ。俺達か?」
「馬鹿、それじゃあこの提案をするわけないだろ。俺達にはそんな時間無いんだぞ」
たしかに今の俺達の状況はガイスをどう倒すかだ。
他に時間を割いてそれをおろそかにするわけには行かない。
ていうかこうしてる間にもまたガイスは何かを企んでいる可能性があるしな。
「そう言えば俺の友達が物価が高すぎて仕事がない今の状況じゃ資金が底をつくって言ってるんだ。それもどうにかできないか?」
「おいかつ!お前は街の立て直しをしたいのか!?俺達の目的を忘れるなよ。街の復興は王や関係者に任せておけ、俺達はガイスを殺さなきゃいけないんだぞ!」
「分かってるよ。だけどいうくらいは別にいいだろ。それに町の人々を守るのも俺達の役目だ。それはおろそかには出来ないだろ」
「ちょっと何喧嘩してるの?」
すると広間にミノルとデビ、そして見知らぬ女の人がやって来る。
「あれ?あなたは確か、デビのお友達だよな。目を覚ましたのか」
「あーごめんなさい。どうやら私が眠っている間に大分大変なことになってたみたいで。この街の関係者としてお礼を言わせてください」
「おー無事だったかクレハ。こうやって会うのは初めてだな」
ムラキはそう言うとクレハの前に立ち肩を叩く。
するとクレハ何故か黙ってしまい小刻みに肩を震わせる。
「何だ?なぜ喋らない。もしや地下に閉じ込められすぎて言語を忘れたか?」
「幼児来たー!!」
「うわっ!?な、何だ!」
突然クレハは奇声を発すると目の前のムラキを力強く抱きしめた。
何だ何だ、一体何が起こってんだ!
「はあーこの肌の柔らかさと腕に収まる小ささがもう最高!すべてを包み込んであげたくなっちゃう!」
「く、苦しい、何をする。俺は王だぞ、ぶ、無礼な奴だな……」
「あーん、よくある生意気なことを言っちゃう性格なのね。そう言うザッ子供みたいな性格ドストライクよ!デビちゃんで癒せなかったロリコン成分を吸収できる~」
「おい、クレ。そろそろそ奴を許してやるのじゃ。あの世に行きかけておるぞ」
デビの言う通りクレハによって思いっきり抱きしめられているムラキが口から泡を吐いて気絶していた。
「え?ああ!ごめんなさい!つい興奮しすぎてやりすぎちゃった。感情が爆発して我を失っていたわ」
「クレハさんってもしかしてやばいやつなのか?」
「妾は自信をもってやばい奴だと答えるぞ」
「違うわよ、デビちゃん。わたしはただの健全なロリコンなだけだから」
「健全なロリコンって自分でいう所がもう怖いな」
「とにかく、改めて私はクレハって言うの。城の地下の管理者をしていたわ。今もう瓦礫の下敷きになっちゃってるけど。とにかくよろしくね。それとムラキ様は何処に居るのかしら。会うのは初めてだからあいさつしたくて」
「それならもう目の前に居るだろ」
サザミの言葉に対してクレハ不思議そうに首をかしげる。
「目の前ってどこかしら?」
その言葉に対して俺達は無言で伸びているムラキの方を指差した。
それを見てクレハは表情をこわばらせて抱えているムラキを見る。
「じょ、冗談よね?だってこの街の王様よ。こんな子供なわけがないわよ」
「クレハさん、すごく言いにくいんだけど、それがムラキなのよ」
ミノルの言葉で嘘ではないと察したのか顔を青ざめてムラキをそっと床に寝かせると。
「私用があるのを忘れてたわ!それじゃあ、皆また後で!」
物凄い早口言葉でその場から勢い良く逃げて行った。
「クレハさん気持ちは分かるよ」
「うるさいのが静かになって俺は助かったけどな」
「そうだ!あなた達どうしてさっき騒いでたのよ。何か合ったんでしょ」
「いやあ、それがよ。さっきリツ達に会いに行ったんだよ」
「ああ、そう言えば行くって言ってたわね。リツたち元気にしてた?」
「ああ、お茶会を開いてたぞ。今度みんなで一緒にやろうって言ってたな」
「妾も行きたかったのう。リツとも改めて会うのは久しぶりじゃし」
「また今度な。でその時にリツたちがこの街の物価が高すぎてお金が過ぎに無くなるって言ってたんだよ。あいつら他所の街から来てるから仕事が見つけられないんだよ。だからすぐに十分な生活が出来なくなるんじゃないかと思ってな、その事について相談したんだけど」
俺は未だに関心を示さないサザミの方を向く。
「こいつがそんな暇ないだろって言って話を聞かねえんだよ」
「実際そんな事に時間を割いている暇はない。お前らも分かるだろ。あのガイスを殺すという目標を立てている以上時間はいくらあっても足りない。そう言ったことはムラキに任せるべきだ。適材適所ってものがあるだろ」
「そりゃそうだけど提案位は別にいいだろうが」
「なるほどね。サザミの意見もかつの意見も分かったわ。ようは自分のやるべきことに集中しろって言いたいのね。でもかつの言う通り提案位は聞いてもいいんじゃない。かつだって自分のしなきゃいけないこと自体分かってるでしょ」
「もちろんだ。だから俺はムラキに仕事を紹介してやってくれってただそれだけを伝えたかっただけだ」
「がっはっは!中々白熱した議論だが確かに今はこんな事で喧嘩している場合じゃないだろう。それにその話を一番に聞かなければいけないムラキが気絶しているしな」
「あっそうだった。こいつ起こさないとな」
俺は未だに気絶しているムラキの元に歩み寄りその場でしゃがむ。
気絶するほどの締め付けってクレハさんどんだけ強く抱きしめたんだよ。
あれで健全なロリコンはさすがに無理ありすぎるのでは。
「おい、ムラキ起きろ。俺からも提案したい事があるんだけど」
俺はムラキの頬をぺちぺちと叩き起こそうとする。
するとようやく意識を取り戻したのか閉じた瞼が動きゆっくりと目を開いた。
「ん?あ……あー!あいつどこに行きやがった!」
「うおっ急に起き上がったな」
ムラキは突然飛び上がるとその場でキョロキョロと辺りを見渡す。
「あの人ならもういないわよ。ていうかムラキ、かつから話があるって」
「ミノル!何で来ていたのか、それなら一緒に食事にしよう。腹は減ってるだろ?」
「私の話聞きなさいよ」
「お主は王なのじゃからもっと威厳を持たぬか。なめられたままじゃとこの街もなめられるぞ」
「はっ生意気なことを言うな。俺は立派な王としてこの街に日々尽力してるんだぞ。そりゃあ皆からの尊敬は抜群だ」
「その話は置いとくとしてこの街にやってきた人達に仕事を与えてやってくれないか?」
「仕事?もしや生活に金を使ってるうちに無くなると言ってるのか?」
「まあそう言う事だ。何とか仕事を紹介してやってくれよ」
「その前に食料問題が残ってるだろ!金どころか買う物自体が無くなりかけているのにそんな事に構ってる暇はない!それともお前がモンスターを狩ってくれるのか?」
「うっ!それは……」
流石にこの街全員の食料分のモンスターを狩ってる暇はないよな。
それこそサザミの言う通りの自分のやるべきことをちゃんとしろになっちまうし。
「一番の解決方法があるだろうが」
「え?何だよそれ。何かいい案があるのか?」
突然サザミがそんなことを言うなんて、さっきまで話に関わらないようにしてたのにどういう風の吹き回しだ。
「魔法協会をこの街に作ればいいだろうが」




