その二十二 隠れる者
「裏切り者……」
ブライドから発せられたその言葉の重みがどれほどの物なのか、俺には分かる。
信頼していた人たちが自分で花に別の人を信頼している。
それが例え敵だとしたら、そいつも俺達の敵となってしまう。
「そうだ、裏切り者が居る」
今度は確実にそう言い切った。
冗談ではない、本気でブライドはそう思ってるんだ。
「本当に俺達の仲に裏切り者が居る可能性はあるのかよ。裏切り者ってことはブライドに組している物ってことだよな」
「そうだな、裏切り者をそう言うのならそうだ。だがまあ、今の所は可能性の範疇を抜けられねえんだけどな」
「てことは確実じゃないのか?それなのにどうしてそんな事を疑うんだよ」
「今回の事でその疑惑が出てきてな。正直言うと今回のキンメキラタウンの奇襲が情報が漏れた事で起こった可能性があるんだよ」
今回の奇襲、キンメキラタウンに多くの奴隷の人達が襲い掛かって来た。
たしかにあのタイミングは連戦を終えて復興を始めようとした時の夜、油断したところを狙ったかのような奇襲でタイミングが良いと言えばいいかもしれない。
「それは分かるけど、でもその前にシンラがこの街に奇襲していたはずだ。あいつが止めを刺すために送ったことは考えられないのか」
「その可能性も無くはないな。だけどシンラのあの去り際の言葉を考えるとわざわざそんな事をするとは思えねえ。だったらシンラも来た方が町を破壊するなら手っ取り早いだろ」
「そうか、そもそも今回の奇襲が街の破壊目的だったのかも不明だな。ブライドたちも居るんだし、いくら疲弊してるって知ってても奴隷たちだけじゃ無理なことは分かり切ってたはずだしな」
もし、本当に裏切り者が居てこの状況をガイス達にも伝えて命令されてきたとしたら、確実性を持たせるためにも奴隷以外にも最低でも王が来るはずだ。
それをせずに奴隷とザック達のみを送って来た意味って何なんだ。
「今回の奇襲の目的自体はもう分かってんだろ」
「へ?何だよ」
「目の前で見たはずだぜ」
「目の前……あっムラキか!」
その言葉を聞いてブライドは大きく頷いた。
そう言えばニュートがムラキの事を最初から狙っていたような感じだった。
「俺は最初からムラキを狙ってキンメキラタウンに居る奴らを奴隷に加えようとしてたと予想する。ここが最後の砦のような場所だからな。そしてそれが裏切り者が居る可能性を浮かび上がらせる」
その言葉を聞いて思わず背筋が凍りついた。
もし、俺が考えてることがブライドの考えていることだとしたら、本当に裏切り者が居る可能性が出て来る。
「それって、ムラキが一人になったタイミングってことか?」
「そうだ、あの時ムラキがそのまま飛び出していき、一人になったタイミングで門が襲われた。最初からムラキを使って町の人々を奴隷にしようとしてたなら、これ以上ないタイミングだと思わないか?」
「だけど……まあたしかに、完全に否定することは出来ないよな。あの場に居たのは俺達だけだったし……あっ外に誰かいた可能性はどうだ!」
「外で俺達の事を監視してムラキが出てきたタイミングで報告したって?それだったらすでにムラキを捕まえた方が効率がいいだろう。それでムラキを洗脳するなりして町の人々に仲間になるように命令した方が確実だ。時間はかかるけどな」
ブライドの言う通りわざわざ奇襲をするためにこの街に侵入させるならもっと確実性のある方法を取るはずだ。
あいつらがやった事はまるで情報だけを伝えられたような感じだった。
「だがその可能性がなくなったわけじゃねえ。引き続き怪しい奴が居ないかの調査も行うさ。だけどまずは確実な安全性を求める為にもそして信頼する為にも調べさせてもらった」
「でもいなかったんだろ?」
「ガイスに操られてる可能性は消えた。つまり自分からガイスに従ってる奴が居る可能性が高くなったという事だ。確実に消えたわけじゃねえんだよなこれが。まあ、先ずはイナミとピンカを最優先で怪しむ。一応奴隷の印は発動されてないから大丈夫だろうが、念のためな」
「それはもっといやだな。あんまり仲間を疑いたくはないんだけど」
「それは俺も同じだ。だが疑う事こそで信用を勝ち取れることもある。疑う事は信じることだ。まっこの話を誰に言うかの口留めはしねえよ。だけど俺は疑い続けるぜ」
疑う事は信じる事、ここで俺が皆にこのことを言ったとしてもそれは正しいことなのか。
それは信じるという事になるのか、それはただ単に考えを放棄して逃げたっだけなんじゃないのか。
信じよう仲間を、疑おう仲間を、俺の中で整理できるようになるまでは。
「分かった、誰にも言わないよ。俺も仲間を信じたいからさ」
「そっか、なら戻るか。あいつらがゲームをしたいって言ってるしよ。気晴らしになるだろうさ。今は仲間を疑うとか忘れて、パーッと楽しもうぜ!」
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「お前が偽魔法使いだろ!」
「何言ってるのサザミ?そんなわけないでしょ、俺は善良な一般魔法使いさ」
「なあ、とりあえず俺の以外の奴全員殺せばよくないか」
「殺すって言ったぞ!こいつが偽物の魔法使いだ!王の命令でこいつを処刑せよ」
「王なんて役職はなかったはずだぞ。はっはーん、お前協力者か?」
「こういう時は冷静に話し合いましょう。それでは先ずは偽魔法使いの方は手を上げてください」
「おいおい、そんなこと言って手を上げる奴は居ないだろ」
「がっはっは!呼んだか!」
「何やってるのエング!ちゃんと説明聞いてなかったの。それは黙ってるんだよ」
「何だ、もう終わりか。あんまり楽しめねえなこのゲーム」
何か、人狼してるんですけど。
いや、正確には魔法使いの一夜ってゲームらしいけど内容はほぼ人狼なんだよな。
疑う事をせずに純粋なゲームをしようとした時にかぎって何でこんなゲームなんだよ。
「ちょっと待ってくださいガルアさん。もう一人偽魔法使いが居るはずですよ」
「そ、そんなわけないだろうが!あいつを殺せば俺達の勝利だろ!」
「どうしたムラキ、やけに終わらせようとしてくるな。もしかするとお前が偽魔法使いなのか?」
「俺は偽魔法使いではなく王だ!」
「そう言う問題の話をしてるんじゃないんだよ」
ハイトは呆れたような声を漏らす。
というかブライドもノリノリでやってるな。
どうにも先程の話からこのゲームを楽しむ気分には慣れない。
疑う時に別の犯人を捜してしまいそうだ。
「かつさんは誰が偽魔法使いだと思いますか?」
「へ?あっそうだな……」
この中で誰が裏切り者なんだ。
リドルはメリットはないだろう、そもそもガイスとの接点はないわけだし俺と会って居ない間にガイスと仲間になった訳はないだろうしな。
ハイトも無いだろう、元々はガルアの護衛みたいなポジションだし、ガイスよりもガルアの方をしたってそうだ。
そうなるとガルアも無いだろう、害すとは完全に敵対したしあれが演技だとは思えない。
ラミアの事もあるしガルアは信用できる。
ブライドはそもそもその剣を持って来た張本人だしありえないだろう。
ムラキも自分の街が襲われたし、そもそも狙いはムラキの訳で裏切り者の訳がない。
ガイ、あいつはただ純粋に戦闘を楽しみたい男、裏切り者みたいな高等なことが出来るとは思えない。
マイト、ガイみたいな考え方で行くとマイトは頭も回るし裏切り者だとしても仕事は出来るだろう。
だけどその理由が特には見つからない、奴隷ではなく自分から行くとなるとその動機が不明だ。
イナミ、奴隷の印を付けられてはいるがそれは発動していないとブライドが言っていた。もし本当にガイスに忠誠を誓っているのなら奴隷の印を残すのか?
それをしないってことはそれ程の信頼があるってことか、でもガイスはそんなに他人を信用するような奴ではない気がする。今の所は様子見だな。
そして残るはエングと……
「サザミ……」
「何だと?」
「やっぱりカツもそう思うよな!俺を急に疑い出して、お前こそが偽物だ!」
エングは簡単に裏切るとは思えない。
だけどサザミはもしかすると裏切る可能性があるかもしれない。
憎き相手ではあるがサザミは頭が切れる。
そう言った人を裏切り者に選びたいだろうし、サザミを利用しようとしている可能性もある。
それは他の十二魔導士にも言えることだが、王を利用されれば従ってしまうんじゃないのか。
いや、でもあのサザミが簡単に応じるとは思えないし、まあそれは他の人にも言えることだが。
「おい、かつ!何で俺が偽物の魔法使いだと思う!説明してみろ、内容によっては俺はお前を処刑してやる!」
「へ?な、何が?」
「疑うも何も今は情報があまりないからね。かつも勘を頼りに選んだんじゃないかな。そうだよね」
「えーっと、まあそう言う事で」
「今の発言は俺は引っかかったぞ!もしかしてどちらかは協力者か!」
「ブライド!俺は協力者じゃないぞ!さっきの話では俺を信用してるって言ってたじゃないか!」
「さっきの話?かつとブライドってそんな話してた?」
「あっ間違えた今のは無しで」
そうだ、今はゲームの話をしてるんだった。
別の方に意識を向けすぎていて変なことを口走ってしまった。
「皆さん、一度冷静になりましょう。この中に高等魔法使いは居ませんか?その人が誰か一人を偽魔法使いかどうか調べられるんですが」
「あっそれ俺だ」
そう言ってイナミが手を上げた。
「何だ、高等魔法使いってすごい強そうだな。俺の一般魔法使いと勝負しようぜ!」
「おい、ガイ!なんでカードを見せた。それじゃあ役職が皆にバレるだろ!」
「あ?役職って何だよ」
「えっとーとりあえず俺はサザミを見てみたけど偽物だった」
「何!?イナミ、嘘を付くな!確定したな、これで残りの偽魔法使いが!投票タイムに行くぞ!」
サザミ 9票
イナミ 1票
「なぜだー!」
「そりゃあサザミよりもイナミの方が信用できるしね」
「サザミと俺は相棒だからな役職も同じに決まってんだろ。がっはっは!」
「エング、お前は早くルールを理解しろ」
「それで結果はどうなったんだよ。俺以外は全員死んだのか?」
「それでは一斉に公開しますか。いっせーの」
リドルの掛け声で俺達は持っているカードを公開する。
そう言えば、俺自分の役職何だったんだろ。
そこには高等魔法使いと書かれていた。
あー俺普通の人じゃなかったのか悪いことしたな。
「お前!偽物だったのか!」
サザミの声が聞こえて思わずそちらに視線を向けるとリドルが勝ち誇った顔をしていた。
「まあ、明らかに動揺してる人もいたので堂々としてたらバレないと思いましてね。案の定成功しました」
「ていうか、ムラキは高等魔法使いじゃねえか。どうして動揺してたんだよ」
「ハイト!俺は何をすればいいのか分からない!こういうゲームは苦手だ」
「それじゃあ、このゲームはエングとリドルの勝ちってことか」
「いや、そうとは限らないぞ。そうだよな、イナミ?」
「うん……」
そう言って申し訳なさそうな顔で協力者と書かれたカードを持っていた。
「実は俺協力者だったんだ」
「何だと、お前裏切り者だったのか!」
「ナイスでしたよ。よく僕の意図を察してくれましたね」
「いやいや、リドルが高等魔法使いの時に僕に視線を送ってくれたからだよ。今回はリドルのおかげ」
どうやら勝ったのは偽物の魔法使いたちみたいだな。
その時ガルアが俺のカードを覗き込んでくる。
「お前、高等魔法使いなのに何で宣言しなかったんだ」
「へ?いやーちょっとルールがよく分かってなくて」
「そうか、次はちゃんとルールを理解しろよ。意外と面白いぞ」
「ああ、そうだな」
そうだ、今は普通に楽しもう。
これから先何が起きるか分からないんだし。
そして俺達はこの後もゲームを楽しんだ。




