その十九 王であり男
「かつさん!」
リドルが慌てた様子でこちらに向かってくる。
「おおリドル、今大変なことになってんだ。あの野郎この街に来てたみたいでムラキを捕まえやがった」
「分かってます。ザックは先程倒しました。ですがまさかニュートも来ていたとは。完全に油断していました」
「というか残りの二人は何処に行ったのじゃ」
「分かりません。恐らく奴隷の足止めを行っているとは思いますが」
「とにかく今はニュートを何とかしないとな。だけどムラキが居るから手が出せねえ」
俺達はタワーを頂点に居る2人を見る。
ムラキは完全に戦意を喪失してるのか動こうとしない。
まさか諦めたわけじゃないだろうな。
「この街の救わらない半獣ども!このまま死を待つのは辛いだろう。今はガイス様の時代だ。その仲間ではないこの街の全員の処刑は確定してる。だが、ガイス様はお優しいお方だ。今すぐに仲間となるのなら命は保証される」
「どうやらまだガイスの支配下に落ちていないこの街を落とそうとしているらしいですね」
「町の奴らはこの事を知らないんだよな。正直何も伝えずに不安が積もって行ったらこの誘いも受け入れちまうぞ」
「妾がやっても良いなら。一瞬であやつからムラキを奪えるのに」
「今はチャンスを待ちましょう」
ん、何だムラキに話しかけている。
あいつ何を喋らせる気だ。
「さてと、これだけ言っても判断が出来ない奴らも居るだろう。だがこれが王の意思ならば受けざる負えないはずだ。ムラキ、仮にもこの街の王なんだろ。この街の人々に言ってやれ!お前達、ガイス様の仲間になれってな!」
「あ……うあ」
「まずいですよ。脅されているのでしょうか。精神的にもまだ未熟なムラキ様は従ってしまうんじゃないでしょうか」
「まずいな、このままだとこの街はガイスに乗っ取られるぞ!」
「さあ王よ!高らかに宣言しろ!この街の人々に道を示してやれ」
そう言ってムラキを前へと出す。
少し距離は離れたがまだあの距離じゃ取る前にまた捕まっちまう。
その時待ちの方から声が聞こえて来る。
「王様ー!俺達はどうするべきなんだ!」
「私達戦えないよー!」
「このまま町に居ても良いのか!なんで大勢の人がここに来たんだよ!」
「教えてくれよ、王様ー!」
迷ってる、皆が何も知らないからこそ王を頼っている。
肩書だけは立派だよ。
でも本人がそれに見合うかどうかは別問題。
はっきりってこの決断を下せる程強くはない。
必ず楽方へと流されちまう。
戦いを知らないんだ。
「俺は……」
「分かってるだろうな。死にたくなかったら、この街の奴らを大人しく従わせろよ。そうすればお前だけは助けてやるよ。誰だって痛いのはやだろ」
「っ!」
「おい、ガルア―!脅されてんのか!そんなこと言う必要はないぞー!聞いてるのか―!」
「駄目です、周りが見えていませんよ。どうやら聞く耳を持っていない様です」
「あの様子じゃ、本気でガイスの方に行くと思うぞ」
このままじゃニュートの手のひらの上で踊らされるぞ。
何か、ムラキを正気に戻すようなことが出来ないのか。
「ムラキ―!!」
その瞬間、何処からかムラキの名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
それは叫び声を上げる群衆と同じくらいの声量だが確かに俺の耳に届いた。
「ミノル?」
まさか、説得をするつもりなのか。
「しっかりしなさいよー!あんた王なんでしょ!この街で一番偉いんでしょ!だったらもっとしっかりしなさいよ!」
「ミノル……!」
「ミノルさん、もしかして救おうとしているんでしょうか」
「かもな。あんだけ嫌がってたのに、ミノルは甘いな」
「子供だからって甘ったれるな!今まで散々好き勝手生きて来たんでしょ!もう権力は自分の為だけにあるんじゃないのよ!王ならちゃんと皆を導きなさいよ!意思も何もない男を私は大嫌い!」
「っ!」
「何だあの女、さっきからうるさいな。何を言おうが俺の勝利には変わらない」
「俺はー!」
その時ムラキの声が聞こえた。
ムラキ、決意を固めたのか。
「俺はキンメキラタウンの王だー!この街には指一本触れさせないぞー!誰も奴隷に何てさせるもんかー!」
「なっ!?お前状況を分かってないのか。どうせこの街の奴らは奴隷になるんだよ!お前が否定したところで意味無いんだ!頭悪いのか」
「俺はバカさ!おまけに意気地なしだし夜はトイレいけないし、それでも俺は王だから!頑張らないと、駄目だから。男だから、かっこ悪いところを見せるわけには行かないんだよ!」
そう言いながらムラキは涙を流す。
あいつ、やるじゃねえか。
「もう帰れよー!この街から出て行けー!」
「俺を舐めるなよ。王を殺せないと思ってるのか?ただのガキが粋がってんじゃねえぞ!」
「粋がってんのはお前じゃないのか?」
その時ブライドがいつの間にかニュートの後ろに居た。
「な——————うぐっ!」
何をされたのか見えなかったが突然苦しそうにうめき声をあげるとタワーが崩れていく。
そしてすぐにクリシナがムラキを担いで安全な場所に送る。
「大丈夫小さな王様」
「う、うむ」
「ブライド!大丈夫か!もう奴隷は良いのか?」
「全身鎮静化させた。しばらくは動けねえよ」
「結局拘束じゃなくて気絶させることにしたの。私は可哀そうだと思ったから全部ブライドに任せたわ」
「そうなのか、それはよかった」
「というかあやつは何処に行ったのじゃ」
デビが首をかしげながらそんなことを言う。
たしかにいつの間にかニュートの姿が居ない。
「もしかして!」
すると突然リドルが門の外に出る。
「あっ!ザックが居ません!完全に逃げられましたね」
「奴隷たちは残してるみたいだな。すぐに回収してあいつらに直してもらえるか試してみるか」
その時町の人々がこちらに押し寄せてきた。
「王様!」
「王様!大丈夫ですか!」
「王様、あれは本当ですか!」
一気にムラキの方へと人々が集まり始める。
さっきまで城が壊されそうな時は王なんて気にせずに外に出ようとしてた癖に。
今じゃ尊敬のまなざしを向けてるし。
「こいつらを信用しろ。そうすれば全部うまくいく!」
「分かりましたムラキ様!」
「俺達はどうすればいいですか!」
ムラキの一言で俺達の方へと人が押し寄せる。
それをクリシナが上手くまとめて行った。
「お前にしては男気見せたな」
「俺は男木の塊のような奴だぞ。それに俺は王だ。民を導くのは俺の務めだからな!」
「へっ直ぐに調子になる所は変わらないな。だけど少しは見直した」
こうしてザック達の奇襲は終わりを告げた。




