その十二 王の生死
シンラが町を去ってから住民の安全と街の復興に力を入れることにした。
幸い多大な被害を受けた建物は城のみで城の中にいた人達も既にミノルたちのおかげで避難済みだった為、実質怪我人はだれ一人おらずみんな自分の家へと帰って行った。
別の街からやって来た人々は近くの宿で一時的に泊まることとなった。
その事をよしと思ってなかった街の人々だったがサラとガイの言葉で渋々納得した様だ。
未だに王であるムラキは人々の前に出てはいない。
そして各々の状況を冷静に話し合うために結婚式場として使われていた建物に集まることにした。
「かつー!」
「あっみの——————うぐっ!?」
突然ミノルが真っ直ぐ突っ込んでくるとそのまま勢いよく抱きしめるというよりぶつかって来た。
「もおばか!心配かけるんじゃないわよ!突然シンラが来て失敗したって言うのを聞いたのに全然帰って来ないし、謎に街の人達も増えるしで色々訳分かんなくて」
「わ、分かったから……強く締めすぎ、息が……」
「ミノルさん、感動の再会が感動のお別れになってしまいますよ」
「へ?あっごめん……」
「ぶはっはあはあ、マジで死ぬかと思った」
ミノルが離れたことで息を確保し何とか呼吸を整える。
あんな危機を脱したのにこんなしょうもない事で死にたくはないからな。
「かつー!心配したのじゃー!」
「ちょ、待て待て!ふがぐっ!?」
やばい、さらに追撃が来て完全に意識が……
「ちょっと、デビ。このままだとかつが死んじゃうよ、離れて離れて」
「アイラよ、妾のかつがこれしきの事で死ぬわけないじゃろう」
「いや……もう死ぬ」
「ありゃ?」
「デビちゃん!早く離しなさい!!」
「何じゃ、ちょっとした冗談じゃろう」
デビはそう笑いながら俺を解放する。
冗談で殺されかけそうになった俺の身にもなってくれよ。
「おい、お前ら!一度集まれ、情報収集がしたい」
サザミの呼びかけでバラバラに話し合っていた皆が一か所に集まり始める。
「俺達も行くか」
俺は皆が集まっている場所に少し後ろに立つ。
今回起きたことの情報収集をする目的のために集まった。
そしてこれから何をすべきかもだ。
自然とサザミがリーダーの様にこの集まりの中心に居るがまあ、それを指摘したら話が進まないし誰も文句は言わないだろう。
と思いたいがそう言うことを言う奴が一人居るんだよな。
「さっさと話し合いを始めて、時間がもったいないから」
あれ?ピンカがサザミのリーダーポジションを指摘せずに話をするように促している。
珍しい光景もあるもんだ、でも確かにこの状況はすぐにでも話し合いをすべきだしこれはこれで良いか。
「ああ、分かってる。今回集まってもらったのは他でもない。これから現在の状況の整理とこれからすべきことの話し合いをするためだ。そしてその話に入る前に先ずは新しく入った仲間を紹介する」
そう言って手招きをするとブライドとクリシナ、そしてガルアが前に出てきた。
「まあもう既に知っている物や話してる物も居るだろうが、改めて自己紹介をしてくれ」
「はーい、可憐な美少女クリシナよ。どうぞよろしくね」
「美少女って言うかおばさんじゃねえか?」
「ひどいわ、ガイ。女の人におばさんなんて言葉言っちゃ駄目よ。それに私はまだおばさんと呼ばれるような年じゃないのよ」
「まあ、クリシナの自己紹介はここまでにして次は俺だな。俺の名前はブライドだ、この中で一番強いと思うから何でも頼ってくれ」
「何それ、私達に喧嘩を売ってるの?」
「おお、目つきが怖いな。クリシナじゃないが女の子がそんな怖い顔してちゃ男にモテないぞ。まあ、そういったツンデレ系も俺は好きだけどな」
すると苛立ちを見せながら魔剣を引き抜こうとする。
「お姉さま、抑えて抑えて」
それをナズミが何とか制止させる。
たしかにあの2人は性格的には合わないかもしれないな。
「それじゃあ次は俺か。まあ自己紹介も不要だと思うが、一応ガルアだ。かつに誘われて一緒に戦うことを決めた。お前らとも出来るだけ仲良くしていきたいと思ってる、よろしく」
だがその言葉に対して誰も応えるわけもなく静かな時間が流れ明らかに空気が重かった。
「ああ、よろしくな」
いや、ガイ以外はだった。
単純なバカはお気楽で羨ましいな。
「がっはっは!よろしくなお前ら!来てくれて嬉しいぜ!」
「ああ、歓迎させてもらうよ。だがその前にガルアに聞きたい事があるんだ」
「ん?なんだ——————っ!」
そう言ってサザミがガルアに近づいた瞬間、思いっきりガルアをぶん殴った。
ガルアはただ避けることも無くそれをもろに受けて地面に体をぶつける。
「確かに約束は約束だ。お前を俺達は歓迎しよう、だがこれだけはやっておかないと済まねえんだ」
「分かってる、お前らにしたことは申し訳ないと思ってる」
するとガルアはそのまま体を起こすと、立ち上がることも無くそのまま頭を地面にこすりつけた。
「すまなかった」
「っ!こりゃあ驚いたね」
「いいの?仮にもこの島の王がただの護衛に頭を下げて」
「許されないことをしたんだ、王と改善に俺にだってケジメを付けなきゃいけない。本当にすまなかった!」
ガルアはそう言うともう一度強く頭を地面にこすりつける。
その姿を見て先程まで恨みを込めた瞳で見ていたサザミも握った拳を解く。
「やめろ、恥をさらすな。この国の王として恥ずかしくはないのか」
「サザミ……」
「俺はお前がしたことを一生許さない。だからこそお前も王ならばその罪の分だけ民の為に生きろよ。それが王としてのケジメだろ」
「っ分かった」
それだけ言うとガルアはゆっくりと立ち上がった。
「ちょっと待ちなさいよ。私にだってガルアに用はあるわ。本当は聞くつもりなかったし、言わなくても何となく分かるけど、これから本当に戦う時に迷いがあるといけないから」
「そんな回りくどい言い方してないで、さっさと言っちまえよ。何が聞きたいんだ」
「王は死んでるのか、操られてるのかよ」
その言葉を聞いて全員が険しそうな顔をする。
たしかにそれは重要だ、返答次第では戦い方も変わって来る。
それは元十二魔導士の人達にも言えることだ。
取り戻せるのなら取り戻したい、だけどあれを見るに答えは。
「残念だが、王は死んだよ。確実に心臓から魔力を吸い取ったからな。死体は俺が回収した、その魔石の回収なども含めてな。その後の死体をガイスが勝手に使ったんだ」
「そもそもどうやってあいつらを生き返らせたんだ?いや死んだって言うんだからもしかして生きてないのか?」
「分からない、恐らく魔法だと思うがガイスの魔法をすべて把握しているわけじゃないんだ」
「オリジナル魔法だよ」
その声が聞こえると一斉にその声が聞こえた方に視線が移る。
どうやら今の発言をしたのはブライドのようだ。
「おそらく奴のオリジナル魔法死者のおままごとを使ってそいつらを疑似的に生きてるように動かしている。それを使い続ければ魔力を消費し続けるんだがガイス程の魔力があれば四六時中動かすことも可能だろうな」
「なるほど、ですが少し気になる部分があります。その人達は魔法を使っていましたがその魔力はマナで補えるんですか?」
「いや、それもガイスの魔力を使ってる。あのバケモンはそんな激しい魔力消費の魔法を三体もかけてるんだよ」
「あまり積極的に表舞台に出ないのも魔力を節約する為ね。それが逆に私達にも有利に働いてるわけだけど」
クリシナの言う通りだ、奴が本気で俺達を潰そうと思えば簡単につぶせるはずだ。
「ていうか、なんでわざわざそんな事する必要があるんだよ。そいつが本当に最強だって言うんなら一人で全員を相手にすればいいだろ。俺だったらそうするな」
そう言ってガイはニヤリと笑うと拳を鳴らす。
たしかに最強を目指すガイとしてはその考えに至るのはごく自然だ。
俺も最強になったのならわざわざ手下を自分に多大な負担をかけてまで作る必要性が無いと思う。
「一人じゃ意味ないから、だから仲間を作るの」
「なるほど、サラはあのガイスが仲間を欲しがってると言いたいんだね。確かにガイスは勢力を着々と増やしている。俺もそこは気になってたところだ」
「マイト、余計な口を挟まないで。話しがスムーズに進まないでしょ」
「ごめんごめん、黙ってるから続けていいよ、サラ」
だがサラはその話をすることも無く黙ったまま何も言わなくなってしまった。
「ちょっとサラ!行ったんだから最後まで責任持ちなさいよ!」
「ピンカ落ち着いて、サラにはサラのペースがあるだろうし無理に言った所で意味ないよ」
「とにかく話を戻そう、その目的も含めての会議だ。先ずは今の状況説明だ。まず初めにガイス暗殺計画に参加していない物の状況を教えてくれ」
「がっはっは!俺達は途中から来たからまだ現状をきちんと把握できてないからな!」
「それじゃあ、私が話します」
そう言ってミノルが手を上げるとそのまま前に出る。
「良いだろう話せ、俺達が居なくなった後の出来事を」
「分かった、それじゃあ話します。かつ達が居なくなってから何が起きたのか」




