その七 堕落した王
「イナミ!?どうしてお前がこんな所に居るんだよ!」
「かつ!それに皆も、よかった無事に街を出られたんだね。あれ、ブライドは何処に行ったんだ」
「ブライドは今用事を済ませに行っている。それにしても帰って来れたな。俺はてっきり捕まってしまったのかと」
「何言っての馬鹿ハイト!弟がそう簡単に捕まるわけないでしょ!なめんじゃないわよ!」
そう言ってピンカはハイトに文句を言いながらもイナミと腕を組む。
あれ、ピンカとイナミってあんなに仲良かったっけ姉弟だから当然なのか。
「てっ何腕組んでんのよ!それとお姉ちゃんって言うな!」
「腕を組んだのはピンカだし、お姉ちゃんとも呼んでないよ!」
「それにしても驚いたな。まさか傷一つもなく戻って来るとは、ガイスは絶対に生き残りを許さないはずだ。まさかお前、ガイスと何か交渉したわけじゃないだろうな」
「ちょっとガルア!人の事疑える立場だと思ってんの!あんたの方が裏切るかもしれないじゃない!」
「俺は裏切らない!かつ共に戦うことを決めた!」
「分かったから二人とも落ち着いてよ。俺の事でそんな喧嘩しないで」
「あんたの為じゃないわよ!」
「えーそうなの!?」
「ふふっなんだか賑やかになったわね。それじゃあ、無事に仲間も戻ったことだしすぐにでもキンメキラタウンに向かおうかしら」
クリシナのあの余裕っぷりは何なんだろうか。
荒れが俗にいう大人のお姉さんの包容力か。
「まあ確かにそうだな。これ以上ここに残り理由もないだろう」
「どういうことだ、街はこんなにめちゃくちゃになってるし他の皆の姿も見えないし、かつ達の姿が見えるまでガイスの手によって全滅させられたのかと思ったよ」
「そうだな、この街に戻った時俺もそう思ったさ。でもピンカの言う通りならこれをしたのはシンラらしいぞ」
「え!?シンラ様が!そんな、どうして」
「どうしたもこうしたも無いだろ。今の王たちは全員ガイスの操り人だ。平気で人も殺すし街一つ壊す」
「ハイト!これ以上シンラ様の悪口を言ったら許さないぞ!」
イナミは怒りのままにハイトの胸ぐらを掴む。
何だ、イナミどうしてあんなに怒ってるんだ。
たしかにシンラはイナミにとって大切な人だが今のシンラはイナミの知ってるシンラとは違うはずだって分かってるはずなのに。
「イナミ、もういいわよ。それ以上にしときな。確かにシンラの悪口は私も聞きたくないわ。だけどこれは事実なのよ」
「っ!だけど俺はシンラ様を馬鹿にされて黙っているわけには」
「もうそう言う状況じゃないのよ。今後現れるシンラは敵よ!戦う事も覚悟に入れなさい!分かった」
その言葉にイナミはただ黙っておくことしか出来なかった。
ピンカの方がシンラに対して想いが強いと思ったけど案外イナミの方がその節があるのか。
「話は終わったかしら。二人の姉弟愛を見ているのも微笑ましくていけどいつまでも足止めってわけには行かないわよね。それじゃあ、みんな!私の魔法陣の中に入って」
クリシナはすぐさま魔法陣を展開させると俺達もその上に乗る。
「ちょっと待って!俺はまだ詳しい事を聞かされてないよ!仲間たちはどこに居るんだよ。それと街のみんなも!」
「それを確かめにこれからキンメキラタウンに向かうんだよ。これ以上はここで足止めてる場合じゃないぞ。キンメキラタウンも無事かどうか怪しいからな」
「ちょっとガルア!それってどういう事よ」
「お前らはガイスを舐め過ぎだ。ここまでやったんだ、この街まで追手が来てるってことは更に逃げた場所まで追いかけてるかもしれない。早急に確認すべきだぜ」
「それなら早く行かないとね!テレポート!」
そして目の前の景色が一瞬にして入れ替わるとそこには信じられない光景が広がっていた。
「な、なんだこれ……どうしてお花畑に来てるんだよ!」
「あれ?ここがキンメキラタウンじゃないの?宝石のように美しい花畑のことを言ってるんでしょう」
「ちょっとお花畑は頭の中だけにしときなさいよ!私達が言ってるのは町よ!さっきからそう言ってるでしょ!」
「でもそんな街の名前聞いたことがないのよね。可憐な私にぴったりな素敵な名前だし忘れるはずないんだけど」
キンメキラタウンを知らない?
それってクリシナの時代よりも後に出来たってことか。
「昔の奴らが知らなくて当然だ。街を分けたのは王が複数人居たからな。その為に新しい街を作ったんだ」
「そう言えばそんなこと言ってたな」
「ていうか今はそんな話どうでもいいでしょう!場所が分からないのなら最初から言いなさいよ!」
「それじゃあ……私がやる……」
「へ?ツキノってちょっ!」
ツキノはすぐに魔法陣を展開するとそのままテレポートをする。
そして目の前には大勢の人が見え、きらびやかな街並みが視界に覆いつくされる。
「ようやく着いたわね」
「よし、すぐに仲間たちを探そう。恐らく城に居るはずだ。イナミ、城への道は分かるか」
「へ?いや、俺もここの地理はまだきちんと把握できてなくて」
「城の場所なら俺が分かる!みんなついて来い!」
俺は先頭に立ってすぐに城へと向かった。
するとその道中で街の人達が恐怖におびえながら走って行くのが見える。
「何だか街の様子がおかしいなぁ」
「ガルア様、俺嫌な予感がして来たんですが」
「それ……当たってるかも……」
「っ何だよあれ……」
城に着いた瞬間、そこには植物のツタが絡みついた城とそしてそこには巨大な花が咲いていた。
さらにその近くにはボロボロになったサザミ達が居た。
「サザミ!!」
俺はすぐさまサザミ達の元へと向かう。
既に血だらけでボロボロになっていた。
「ひどい、皆ボロボロじゃないか!」
「どうしたんだよ!何でこうなった!そうだ、ミノル達はどこに居る」
「こうしてまじかでお会いするのは初めてですね、皆さん。申し遅れました私はウォームウッズの王シンラそして現在はガイスの部下として働いております。本日は裏切り者である皆さんを抹殺しに馳せ参じました。どうか抵抗せずに死んでくださるとありがたいです」
そう言ってシンラは和やかな笑みをこちらに向けた。




