その十七 ミレイの失態
「なっ何だこれ!」
目の前にはあるはずのない光景。
周りを見渡してみるといつの間にか外に出ている、シアラルスからは離れていないがそれでも城から距離はある。
「やられた、まさかあいつがこんな魔法を使えたなんて」
テレポートではないだろう、この距離間でのテレポートは不可能だ。
つまりミレイのオリジナル魔法、対象物を移動させる系の魔法ということか。
「てっ冷静に分析をしている場合じゃない!」
ミレイは俺の誘いを断った。
いや、断ったというよりも危険から守ろうとしたが正しいだろう。
だから俺を城から遠ざけたんだ。
だとしたらミレイはそれだけにとどまらず作戦を止めようとするかもしれない。
俺のせいで作戦に支障をきたせるわけには行かない。
すぐに戻って作戦を立て直さないと!
「待ってろかつ!」
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一方その頃ガルアを飛ばしたらミレイは……
「すみませんガルア様、これはあなたの為なのです」
「あっえっとあのこれは一体……」
ガルア様と交代して目の前には事前に果物屋に行かせた警備隊が呆然と立っていた。
「ご苦労だったな、もう下がっていいぞ」
私はそいつの背中に触れて魔法を解除させる。
「へ?あの私果物屋に居ましたよね。どうして城なんかに」
「気にするな。君は直ちに持ち場に戻れ、もし不審な物が居れば即刻私に伝えろ良いな」
「は、はい!失礼します!」
警備隊はこれ以上聞くなという意思を汲み取ったのか足早にその場を離れた。
「さてと私も動かなければな」
ガルア様の話によるとガイス様を殺す計画をかつと共に実行しようとしていた。
つまりガイス様の近くにはかつが居るというわけだ。
さらに数人の仲間も既にこの城に潜入しているという事か。
これ以上余計なことをさせないためにも先ずはかつの方から止めに行くか。
「ん、そうだ。ガイス様から募集の最終確認をしろと言われていたな。これ以上募集を増やさないように言わなければ」
私はすぐさまあの犯罪者が居る部屋へと向かう。
やはり犯罪者を使うガイス様のやり方には賛同できないな。
何とかしてガルア様を王に戻して差し上げたいが、私では力不足だ。
それにラミア様も行方不明の状況でガルア様に心労を掛けさせるわけには行かない。
一つ一つの問題を慎重に解決しなければ。
私は扉の前に立ち数回叩く。
「返事がないな。入るぞ」
私はすぐに部屋の中に入るとそこには誰も居なかった。
「おい!誰も居ないのか!」
返事がない、もしかして逃げたのか?
いや、それはないだろう。
この警備の中ただの罪人が逃げられるわけがない。
つまり誰かによって連れ出された?
「……これは足跡?」
争ったような形跡が見られるな。
もしかして無理やり連れて行ったのか。
そう言えば奴隷印が無くなっている、もしや闇社会の生き残りが侵入してきた?
かつ達の侵入に便乗して入って来たのならありえるがここにあいつが居ることは知らないはずだ。
つまり犯人はここにあいつが居ることを知っていてさらには奴隷の印を必要としている者か。
「ガルア様ではないとなるとかつ達か?ガイス様を殺すのにそれは必要なのか?もしかして別の目的を持っている者が居るという事か?」
私はさらに頭を働かせる。
もしガイス様を殺す以外の目的を持っていたとしたらそれは何だ。
争った跡に繋がるようにして引きずられた跡もある。
これは恐らく犯罪者の物だろうな。
つまり犯罪者と奴隷の印を持って地下へと向かった……地下には現在ガイス様と共に向かう事を選んだ人たちが居る。
奴隷の印が欲しいのではなくそれを別の目的で使おうとしている。
「まさか……解放?」
犯罪者と奴隷の印を使って集められた人たちに真実を話すつもりか。
そうすることでガイス様の計画を潰そうとしている。
ガイス様暗殺はあくまで建前、本命はガイス様の計画を潰す事が本当の目的だったのか。
「だとしたらまずい。もう既に真実が伝わってしまっているかもしれない。急がなければ!」
私はすぐさま地下へと走り出した。
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そして現在
「みんなーちゅうもーく!」
だがクリシナの言葉に誰も耳を傾けることなく周りの人々は話し続ける。
クリシナは再び注目を集めさせるために魔法陣を展開させて地面を思いっきり岩で叩きつけた。
その音に驚いた人々はそこに注目をし始める。
「ご協力ありがとね。それじゃあ、ブライド後は任せたわよ」
「ああ、分かった」
ブライドは先程クリシナが出した岩の上に立ち人々を見下ろせるようにした。
その奇怪な行動に周りの人々は話すのをやめてブライドの意識を集中させる。
「ここに居る者たちはみなガイスの理想に共感し、そしてガイスを慕う者たちが多いだろう。過去の出来事からもガイスと共に生きて行こうと決めている者たちも居る。だがそれは叶う事はない!単刀直入に居よう、お前らは騙されている!」
その言葉を聞いて周りの人々はざわめき立つ。
中には信頼している人を馬鹿にされてヤジを上げる者も居た。
だがそれはブライドの予想通りでありそうすることでこちらの話をより集中して聞いてもらう狙いがあった。
「その証拠がこれだ!今お前らの肩や腕、首などに付けられているその紋章。付けられる時はこういわれただろう。仲間の印だと、俺はそれを聞いて鼻で笑ったよ。この紋章が仲間の印?馬鹿にするのも大概にしろよ。これは仲間の印なんかじゃない。奴隷の印だ!お前らは奴隷としてここに集められてるんだよ!」
それは一瞬の出来事だった。
周りの人々は怒りを露わにして罵詈雑言をブライドに向ける。
中には頑なにガイスを信じる者、その言葉を聞いて困惑する者、無視する者、疑う者など様々な反応が見られる中ブライドは続けて言葉を放つ。
「こいつの事は覚えてるか?お前らに奴隷の印を耐えていた奴だ。こいつの正体を教えてやるよ。こいつはただの選別係じゃないぞ。こいつの正体は闇社会の住人だ!そしてその印を仕入れたのもこいつだ!つまりガイスは闇の社会とつながりを持ちお前らを仲間ではなく使い勝手のいい駒としてここに集めた——————」
「何だお前!」
その瞬間、突然魔法陣が展開されピンカが吹き飛ばされる。
それを見たいブライドが早急にピンカ達の元に行く。
「随分やってくれたな。私の目を欺いてここに居る者たちを逃がそうとするとは」
「イナミ!?どうしてお前がここに!」
「ハイト?ああ、私は愚か者だな。ハイトがかつと手を組んでここに来ていたことを見抜けなかったとは。ここに戻って来たのは計画を達成させる為か」
「無視してんじゃないわよ!不意打ちの攻撃が当たったからって調子に乗ってんじゃないわよ!」
「私は調子に乗ってなどいない。敵は五人か。少し手間取るな」
「何あんた、まさか全員を敵にするつもり?やっぱり調子乗ってるわね。今すぐ」
「おいやめろ。お前はガイスの護衛か?よく俺達がここに居るって分かったな」
「私を舐めないでもらおうか。五匹のネズミを見逃す程甘くはない。これ以上余計なことはしないでもらおうか、ガルア様の為にも」
「なるほどな、お前はガルア派か。だけど俺はガイスを許さねえ。ガイスの仲間は全員敵だ。つまり今の状況ではお前が圧倒的に不利だぞ?それでも戦うのか?」
ブライドは少し焦っている。
騒ぎを起こせばガイスが来るからだ。
そして人々が逃げなければかつが動き出せない。
つまりガイスはミレイを何とかしつつ人々をこの城から出さなければならない。
ミレイを倒すなどブライドにとっては朝飯前だ。
だが目の前の彼女の異様な覚悟から迂闊に動けないでいた。
そしてまず最初に動き出したのがイナミだった。
「皆の者騙されるな!こいつらはガイス様を妬む者たちだ!全てうそだ!」
「まずい、ブライドどうするの!」
「俺達の話を聞いただろ。これらの証拠が揃っておいてまだ気づかない奴はいないよな!」
「ガイス様に忠誠を使うと言ったはずだぞ!信じるべきものを見失うな!」
「そこまで言うなら、お前はこの印をつけているのか!忠誠を誓う者なら付けているはずだよな!」
「っそれは……」
「見ただろ皆!これが真実だ!ガイスの部下なのにそれを付けていない。それはこれが奴隷を意味する印だからだ!」
騒ぎが大きくなる。
それは止めようのない津波の様に押し寄せて行く。
人々は出口へと一目散に駆け寄る。
「ちょっと待て皆!行くな!行っちゃ駄目だ!くっ!」
「それ以上は」
「行かせないわよ」
「くそ!」
イナミとピンカがミレイの前に阻む。
そして人々は一気に城の外へと走り始める。
「さてと後は任せたぜ、かつ」




