その十六 ミレイの奥の手
「ここなら誰にも邪魔されないだろう」
俺は人目に付かない廊下の隅にミレイを連れて行く。
さてと、先ずはどう話を切り出すべきか。
強引に言ったせいで少し警戒をされてるな。
先ずは警戒を解くべきか。
「急に呼び出してすまなかったな」
「いえ、ガルア様の為ならどこへでも行きますので!」
「相変わらず忠誠心が高いな。お前が俺にそんなに従ってくれる理由は分からないが、ミレイが居てくれたおかげで色々と助かった」
「そ、そんな!大変身に余る光栄と言いますか、私は護衛として精一杯の仕事をしたまでです!この命はガルア様の為にありますから」
そう言ってミレイは綺麗な姿勢を保ち胸に拳を置く。
相変わらずだがそれでこそミレイは信頼できる。
「お前をこうして呼んだのには、重要な話があるからだ」
「分かっています」
「実はな俺は——————」
「ごめんなさい!」
俺の言葉を遮るようにして何故かミレイを力強い言葉と共に頭を下げた。
これは一体どういうことだ。
今こいつなんて言った。
「意味が分からないんだが」
「私は確かにガルア様を尊敬しております。ですが、尊敬と恋愛感情は別です。ガルア様の気持ちはとても嬉しいのですが私はその気持ちに応えられることが出来ません」
もう一度言おう、こいつは何を言ってるんだ。
話しが全く見えないどころではない、話がかみ合っていない。
どうやらミレイは勘違いをしているみたいだ。
「ミレイ、確認をしよう。お前は俺が何て言うと思っていたんだ」
「え?好きだとおっしゃったのでは?」
「はあ、お前の腕は確かに買ってるがそう言う妄想癖な所はたまにキズだな。俺はそんな事を言うためにお前を呼んだんじゃない」
「っ!も、申し訳ありませんガルア様!早とちりをしてしまった、人気のないところで重要な話をすると言っていたのでそうなのかなと……」
「まあいいや、そんな事よりもミレイ。これから言う事をしっかりと聞け」
「分かりました」
ミレイは先程までの浮かれた雰囲気を無くし、真剣な表情でこちらを見る。
よし、これでようやく本題に移れるな。
「ミレイ、俺は今日ガイスを殺そうと思う」
「っ!ガイス様を殺す?ですがそれは出来ないんじゃ」
「事情が変わった、俺は後悔をしている。お父様はもう少し話し合いが出来る人だと思っていた。だけどもうそれが叶わないと知った。このままガイスに好き勝手やらせれば俺達は完全に奴隷になる。その前に王としてガイスを殺す」
「事情が変わったとおっしゃいましたよね、それはどういった?」
「かつがここに来ている。ガイスを殺すためにだ」
「かつが!?いつの間に侵入したのか……」
「俺はあいつの計画を知って作戦の成功を感じた。そこに俺が加わればより強固なものとなる。さらに数人仲間もいる」
「具体的な成功率はどれくらいですか?」
「百パーだ」
「ガルア様らしいですね」
ミレイはそう言って少し黙る。
考えているのだろうか、その選択が正しい物かを。
「ラミアの事についてはかつと一緒に解決するつもりだ。場所は分かってる、これが終わり次第最短で向かう」
「正直私は賛成できません。ガイス様はそう簡単に殺せる相手じゃない、近くに居たから分かるんです。あれは別次元の強さです」
「魔法で考えればそうだろうな。だけど俺達は違う。魔王で殺すなんてことはしない、使うのは毒さ」
「毒?なるほど、たしかにモンスターなどの毒は魔力抵抗とも関係ないですね。殺すには十分ですけど、そもそもどうやって毒を盛る気ですか」
「その計画も既に考えている。安心しろ失敗はしない。だからミレイ、お前も一緒にこの計画を手伝ってほしい。頼む」
俺はミレイに向かって手を差し伸べる。
作戦は百パーセント成功する、ミレイが協力してくれるならその数字もさらに現実を帯びて行く。
ミレイは必ず仲間になる、そう思っていたが何故かミレイは俺の手を握らない。
「ミレイ?」
「私は反対です。この計画は成功しない」
「なぜだ。相手がガイスだからか?だがここでやらなければいつやるんだ」
「すべてを終わらせてからでも遅くありません。最低でもラミア様の救出を優先してください」
「もし俺が嫌だと言ったら?」
「護衛としてガルア様を危険からお守りしなければいけません。それが私の仕事ですから」
そう言ってミレイは確固たる決意の元魔法陣を展開してこちらに警告してくる。
ミレイ程俺を慕ってくれる奴はいない、だからこそ俺の言う事を聞いてくれると思っていたが逆にその過剰な忠誠心があだになったか。
かつを向かわせれば話はうまく進んだだろうか、いやかつとミレイは仲が良くない。
話しが余計にこじれるだけか。
「護衛が主を攻撃するのか?」
「これは主を守るためでもあります。わざわざガルア様を死にに行かせるわけには行きません」
「俺に勝てると思っているのか?」
「勝てるか勝てないかではなく、やらなければいけないのです」
「お前、ガイスに操られてるのか?体を見せろ、どこかに奴隷の印があるんじゃないか」
「悲しいです、私はいつもガルア様一筋ですよ。全てガルア様の為の行動です。やめないというのなら問答無用で始めます」
好都合と考えるしかないか。
俺ならミレイを一瞬にして気絶させられる。
無駄に暴れまわって騒ぎを起こさせるわけには行かない。
何よりガイスにバレれば計画が水の泡だ。
そろそろ下の連中も動き出し始めそうだし、早く俺も戻らないとな。
ミレイを仲間に引き込めなかったのは残念だけど仕方ない。
ミレイには邪魔されないようにおとなしく眠っていてもらおう。
「ガルア様、もう一度考えを変えてはいただきませんか」
「いやだ」
「そうですか、なら仕方がありませんね」
そう言ってミレイは地面に手を付いた。
その瞬間、俺の真下に魔法陣が展開された。
「っ!?」
「オリジナル魔法は最後まで取っておくべきです」
「しま——————」
次の瞬間、俺の目の前には何故か果物屋があった。




