その十 王としての立場
「ガルア……お前……」
先程までの心を許した笑みとは違い、こちらを疑うような視線で睨みつけて来る。
墓穴を掘った、いやガルアを甘く見ていた。
ツキノの話では手を握られている時魔力はほとんど出ずに感知するのは不可能だといっていたからこそこれが可能だと確信した。
だけどガルアは普通じゃない、たとえどんなに些細な痕跡だろうと決して見逃さない。
特に今はそれが最も敏感になっているだろう。
「これは……違くて……」
「ツキノは黙ってろ。俺はかつに聞いてるんだ。なあかつお前は一体何をしようとしているんだ。ツキノを使ってどんなことを俺にさせようとしたんだ」
「誤解しないでくれ、俺は別にお前を傷つけたいわけじゃない」
「ならお前が先程言っていたお父様を止める計画に俺に魔法を使う事と何の関係があるんだ。それも無断で」
今のガルアはこちらに警戒心をもって話している。
話を逸らそうとしたり誤魔化そうとすれば容赦なく魔法を放ちそうだ。
素直に言うべきだったのか、だけどこの事はあまりガルアには言いたくない。
「かつ、今のこの城には俺の味方は居ないんだ。全員お父様の顔色を窺って生活をしている。いざと言う時に俺について来てくれる奴はいない。だからこそお前が俺の事を友達と呼んでくれて嬉しかった」
「ガルア……」
「今の時期は誰が敵か味方かをはっきりとさせたいんだ。そんな時に裏切りはごめんだかつ。だからもしお前が俺に何かしらの嘘を付き騙そうとしているのなら、何も言わずにこのまま立ち去ってくれないか。そしてもう二度と俺の前に現れないでくれ。お父様にはこの事は言わないでおいてやる、だから俺抜きでやってくれ」
そう言ってガルアは苦しそうに唇をかみしめる。
ガルア自信も誰かを疑うのは辛いんだな。
だとしたらもうガルアを騙すことなんて出来ない。
こいつに必要なのは信じあえる仲間だ。
「分かったよ、ガルア。今からお前には俺達が何をしているのか全て教えるよ」
「かつ!」
「大丈夫だハイト。ガルアはそれを全てガイスに伝えるような薄情な奴じゃねえよ。俺はガルアを信じる、だからお前も俺を信じて聞いてくれ」
「ああ」
どうなるかは運次第だな。
「実は俺達の本当の目的はガイスの暗殺だ」
「っ!お父様の暗殺……」
「ああ、俺達はそのためにこの城に侵入したんだ。そしてガイスを暗殺する為に使う物はこの毒だ」
俺は懐から毒の入った瓶を取り出す。
その中にはガイスを殺すための切り札がたっぷり入っている。
「毒の暗殺か、たしかに魔力抵抗でほとんど魔法によるダメージが通らないお父様に対してはそれが一番かもしれない。だけどそれだけじゃお父様を殺せはしない」
「ああ、だからガルアに協力をしてもらおうとしたんだ。ツキノのオリジナル魔法でもう一人のガルアを複製させて本物だと油断させて毒を掛けようとしたんだ」
「なるほどな、握手をすればもう一人の俺を作り出すことが出来るのか。その為にツキノが俺と握手をするために誘導した」
「そうだ、それが俺達がしようとしていた計画と隠していた事実だ」
「何で俺に黙っていた」
「いくらガルアでも実の父親の暗殺を知ったら計画に賛同できないと思って、もし駄目だった場合の事を考えると隠した方が良いと思ったんだ」
「なるほどな、騙そうとしてたわけじゃないのか。俺の事を思って言ってくれたんだ」
ガルアは俺が裏切ろうとしてたわけじゃないことを知る安心するように息をつく。
「止めるか?」
「止めはしない、そうされてもいい事をして来た。それに殺さなければこれからさらにお父様の勢力は大きくなっていく」
「どういうことだ?」
「今、お父様は自らの野望を果たすための仲間集めをしている」
「ああ、この島中に呼びかけてるよな。そいつらが全員ガイスの仲間になったら確かにやばいよな」
「問題はもっと深刻だ。お父様は純粋な仲間集めをしている訳じゃない。今回の事で誰が敵か味方を判断しようとしてるんだ」
「俺もそれは思ってた。てことはもし仲間にならなかったら」
「ああ、問答無用で潰しにかかるだろうな」
やっぱりガイスは仲間にならない奴を殺していくのか。
だけどそれは仲間になる人達に伝えてあるのか。
いや、伝えてるわけがないかそんな理不尽な虐殺を聞いて仲間になりたいなんて思うはずがない。
「今集まってる人達にはその事は隠されてるんだろ。でもそれが分かった時そいつらはもしかしたら裏切るんじゃないか。結果的に仲間を減らすことになるぞ」
「普通ならそうだろう。だけどお父様は念には念を入れている」
「どういう意味だ?」
「俺はお父様が純粋に仲間集めをしているとは思わなかった。だから本当は何をしようとしてるのか調べたんだ。するとあることが分かった」
ガルアは拳を強く握りしめてその言葉を放った。
「お父様はここに集まった人たちを奴隷にしようとしている」
「え!それってどういうことだよ!」
「仲間になるためにこの城に訪れていた人たちの体を見てみたんだ。するとそこには奴隷の印が刻まれていた」
「奴隷の印ってどういうことだよ。その人達は自ら奴隷になったって言うのか?」
「いや、その人達には仲間の印と説明されてるみたいだ。つまり騙されてるんだよ」
「そんな、ガルア様はその事実を知りつつもその仲間集めを止められなかったのですか」
「止めようとしたさ。でもお父様に逆らうことは出来なかった」
ガルア自信も悔しいはずだ。
町の人達が奴隷に変えられるのを知りつつもラミアの為にも我慢し続けなければいけなかった。
その苦しみは計り知れないだろうな。
「それでもガルア様は止めるべきでした。この町の王ならこの島の人達を守るためにも戦わなきゃいけないんです」
「ハイト、ガルアの気持ちも考えてやれよ。あいつだって苦しんでるんだ」
「それは分かってる。だけどこのままじゃいけないって俺は言ってるんだ。このままガイスに王の座を取られたら俺達は誰を敬えばいいんだ!俺の王はガルア様ただ一人だ。皆だってそうだろう」
「ハイト……ありがとうな。確かに俺は王として恥ずべき行為をしていた。王ならば自分ではなく島の人達のために行動をすべきだ。自分の事しか考えられてなかったな」
「ガルアそれはそうだけど、だからといってラミアを見捨てるわけには行かないだろ!」
「だからこそ俺は王としてお前らの計画に加わるよ」
それは確かな覚悟を持って発せられた言葉だった。
「本当か!?」
「ああ、俺は王としてガイスを暗殺する」
「分かった、お前の覚悟受け取った。それじゃあ早速ツキノと握手を」
するとガルアがその握手を拒否する。
「いや、それよりももっと確実な方法をやろう」
「え?どういうことだ?」
「念には念を入れるんだよ。俺が加わったことで計画は百パーセント成功する」




