その五 奴隷印
かつ達が地下に入る少し前、ピンカとイナミは城の前に居た。
「よし、行くわよ」
「ええ、こんな真正面から行くの?」
「当たり前でしょ、この城の構造なんて全く分かってないんだから」
「でも今は警備も厳しいし、さすがに真正面からは無謀だと思うんだけど」
「良いからつべこべ言わずに私に付いてきなさい」
そう言ってピンカは自信満々に堂々と真正面から城に入ろうとする。
それを見てイナミは不安に思いながらもピンカの後ろをついて行くのだった。
そしてピンカが城の中に入ろうとした時、当然近くにいた警備の人に止められる。
「ちょっと待て、貴様何者だ」
「私はここに用が合って来たのよ。通して頂戴」
「用だと?お前のような奴が来るとは聞かされていないが」
不穏な空気を感じ取り、イナミはピンかに耳打ちをする。
「さすがに厳しいって、一旦戻って体制を立て直そう」
「良いから見てなさいよ」
「えー……」
「ん?用が合って来たと言っていたな。もしかしてガイス様と共に夢を叶える仲間になりに来たのか」
「あーそんな感じよ。だから早く中に入れてよ」
「そう言う事なら良いだろう。おい、お前こいつらを案内してやれ」
「は、はい!」
警備の人は近くにいた人を案内人に指名すると城の扉を開いた。
それを見てイナミは感心した様にピンカを見る。
「それではこちらです」
「ほらイナミ、私に任せてって言ったでしょ」
「まさか中に入れるなんて」
イナミは驚きつつもピンカの後に続き城の中へと入って行った。
「おい、今の奴らどっかで見たことないか?」
「あ?見間違いじゃないのか、そんなこと言ってないで仕事に戻れ。今日はガイス様の仲間募集の最終日だ。良からぬことを考えてる奴らも居るだろうしな」
「分かったよ」
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「こっちだ」
「ああ、分かってるぜ」
エングとサザミは謎の人影の後を追って路地裏を動き回っていた。
「それにしても逃げ足が速いな、何者だ」
「とっ捕まえればわかることだろう。だが、ここの構造を俺達はあまりよく知らねえからな。土地勘がある逃走者にそのうち逃げられるぜっ?おい、これって」
エング達が曲がり角を曲がった先は行き止まりとなっていた。
そしてそこには人影の姿が無かった。
エングは壁に近づくと壁に残った足跡を見る。
「がっはっは!どうやら壁を上って逃げたみたいだぜ、中々やるな!」
「褒めてる場合じゃないだろう。ふぅ……エングこっちだ」
「おっ何だ奴が逃げた場所でも分かるのか?」
「土地勘があるのはあいつだけじゃないってことを教えてやる」
そう言ってサザミは早速来た道を戻って行く。
その頃サザミ達から逃げている男は余裕の笑みを浮かべていた。
「ふう、危なかったぜ。危うく見つかると事だったな。だがおかげで良い情報を入手できた。これだから情報屋はやめられないんだよな」
「ほう、良い情報かそれは興味深いな」
「なあ兄ちゃんよお、俺達にも教えてくれよ」
サザミとエングは情報屋、サキトの肩に手を置いて不気味な笑みを浮かべた。
「な、何で……」
「油断したな、俺がここの町を何も知らないと思ったか?」
「俺の経験上、このパターンはボコボコにされる流れか?」
サキトは恐怖のあまり首を動かすことが出来ずに背筋をピンとさせて事の顛末を見守る。
だがサキトはすぐに手を出さずに優しい口調で話し始める。
「乱暴にするつもりはない、ただお前が何者かだけ教えてくれないか」
「元十二魔導士のエングとサザミにそう言われたら答えないわけには行かないか」
「がっはっは、分かってて俺達の話を盗み聞きしてたのかよ。中々根性あるじゃねえか!」
「情報屋だからな、あんたらが密かにガイス暗殺計画を企ててることも仕入れ済みだぜ」
「っ!お前……何者だ」
「サキト、ただの凄腕情報屋だ」
その名前を聞くとサザミはニヤリと笑みを浮かべサキトの肩から手を離す。
「凄腕情報屋か、で誰に頼まれて俺達の情報を売るつもりだ」
「いや、これは誰にも売らねえぞ。いや、まだ買い手が居ないって言うのが正しいな」
「何だ、お前誰かに頼まれて俺達の事探ってたんじゃねえのかよ」
「これは完全に俺の趣味で、個人的な情報収集をしていただけだ」
「今時足で情報集める奴も珍しいけどな」
「これが俺のやり方なんでね。それで口封じのために俺を殺すのか」
「確かにお前には恨みはないが、仕方ないだろう」
そう言ってサザミは右手に魔力を込め始める。
それを見てサキトは先程までの余裕っぷりとは真逆で焦ったように命乞いをする。
「ちょっと待ってくれ!まさか本当にやる何て、俺の経験上こういう場面は見逃してくれるんじゃ。どうかお許しを!」
「がっはっは!冗談だよ、サザミの悪ふざけだ。俺たちそんな非道な奴らに見えるか?」
「え?冗談……あ、ああもちろん分かってますよ」
「そう言いつつまだびくびくしてっけどな」
「とにかく、お前が何者かまでは分かった。ガイスの仲間でもないこともな、だがお前は良いのか?仲間にならない奴は何かしらの報復が来ると思うが」
「ああ、募集の奴か。いや、あれは仲間なんかじゃねえ、奴隷だよ」
サザミとエングはその言葉に引っかかり眉をしかめる。
「奴隷どういうことだ?」
「おいおい、友達じゃないんだ。そんな貴重な情報、そう簡単に教えるわけないだろう。情報が欲しければ、相応の報酬が必要だぜ」
サキトはニヤリと笑みを浮かべると中指と親指で金のマークを作る。
「がっはっは!いいねえ、その商売根性!嫌いじゃねえぜ。確かにサキトの言う通りだ、報酬は支払うべきだな。いくらだ」
「そうだなあ、特別価格でこれくらいだな」
そう言ってサキトは五本の指を取り出す。
「五万か?」
「違う!五十万だ!」
「かあー五十万ときやがったか。どうするサザミ」
「今は情報が先決だ、それ位払ってやれ」
サザミの言う通りにエングはすぐにポケットから五十万ガルアが入った袋を取り出してサキトに手渡す。
サキトはそれを受け取るといち早く中身を確認した。
「おお、本当に五十万入ってる。よし、それじゃあ教えてやる。表向きでは理想を共に追いかける仲間集めをしているが実際は使い勝手のいい駒を集めてたんだ。それも奴隷印を使ってな」
「奴隷印だと!」
「それって確か闇社会で売られてたもんだよな。確か言う事を聞かせる魔道具だっけか」
「そう、ガイスはそれを大量に仕入れている。つまりそれを使って仲間だと思わせた奴らを操ろうとしてるってことだ。奴隷印は貼られても効果は発動しないが、貼られた状態で忠誠を誓えば一生そいつ命令を聞くことになる」
「ちょっと待て、もしガイスの仲間になるために集まった奴が全員それらの奴隷印を付けられていたとしたら、今日この日は最終日で集まった仲間が全員集められる日」
「そこで一斉に忠誠を誓わせれば奴隷兵の誕生ってことかよ!」
「因みに奴隷印をガイスの仲間と示すしるしとして伝わってるらしいぞ」
「なるほどな、奴が急に仲間を集ったのはこのためか。絶対に裏切ることのない奴隷たち、たしかにそれは強力な駒として使えるだろう」
サザミは事の重大さに気付き思わず拳を握る。
「おい、どうする。この事奴らに伝えるか」
「いや、今は伝えたところで意味ないだろう。それもガイスの暗殺が完了すれば解決する話だ。今は待つしかない。サキト情報提供感謝する、お前は優秀な情報屋だな。いくぞ、エング」
「ああ、また頼むこともあるだろうし何か分かったらここまで来てくれ。高値で買ってやるよ」
エングは自分たちの隠れ家を書いたメモを渡すとその場を去って行った。




