その四十三 奇襲作戦
「みなさーん、ご飯出来ましたよってあれかつ帰ってたの?」
そう言ってミノルは荷台を押しながら部屋の中に入って来る。
そこには大量のご飯が乗せてあった。
「おっミノルとアイラか何やってなんだ?」
「見て分かるでしょ。雑用してるのよ」
「他にも部屋の掃除とか身の回りのお世話とかしてるの」
「雑用とは言ってくれるじゃねえか。お前らがやりたいって言うからやらしてやってんだろ。よっかつ無事に戻って来れたみたいだな」
先程まで掃除をしていたのかハタキを持ってハイトが顔を出す。
「ああ、なんとかな。でもミズトは腕を失っちまったけど」
「ああ、それならさっき部屋にご飯を届けたばかりだよ。まさか本当に腕を失ってるとわな。正直言って実際に見るまでは信じられなかったぜ」
「おい、話をしているばかりでちゃんと仕事をしてるのか。おいそこのミノルと言ったか。俺のご飯は部屋に置いておいてくれ。後で食べるからな」
「俺はここで食うぜ。腹減ったからな!」
「はいはい、分かりましたよ。それじゃあお部屋に置いて行きますね。それじゃあ、かつ私は仕事があるからお腹が空いたら行ってね。デビちゃんはもう既にたくさん食べてるけどね」
そう言ってミノルは荷台を引きながらその場を後にした。
そして残ったアイラはエングに料理を提供していた。
「がっはっは、うまそうだな!サンキューな嬢ちゃん!」
「それじゃあ、俺は部屋に戻ってるぞ。他のメンバーも集まったらまたここで作戦会議だ」
そう言ってサザミは先に部屋へと戻って行ってしまった。
「アイラ、僕が居ない間何かありましたか?」
「何にもなかったよ。ミノルと一緒に仕事してたから、あっまだやることあるから行くね」
「俺もやらなきゃいけないことがあるから戻るよ。それじゃあ、お前らはしっかり休めよ」
そう言ってマイトとアイラも部屋を出て行ってしまった。
「それじゃあリドル、俺達も部屋に戻るか」
「そうですね、他にやることもありませんし一旦休憩しますか」
「おいおいちょっと待て!俺を一人ぼっちにする気か。せっかくだし話そうぜ」
エングは飯を食べながらこちらに絡んでくる。
「ええ、俺達は疲れたからもう休みたいんだけど」
「まあいいじゃねえか。ほらこっち来いよ」
エングは半ば強引に俺達を隣に座るように指示をする。
仕方なく俺達はエングの隣の席に座った。
「にしてもお前ら、例の作戦は出来たのか?」
「例の作戦?」
「おいおいあんなに大見え切った癖に考えてなかったのかよ。ガルアを仲間に作戦だよ。言っとくがサザミの言う通り俺達は全く力を貸さねえぜ。すべて自己責任って奴だ。うめえなこれ」
話をするのか飯を食うのかどっちかに集中できないのかよ。
だが確かにエングの言う通りだ、その件も真剣に考えないとな。
「分かってるよ。これは俺達の問題だ、俺達だけで解決する」
「ちなみにかつさんガルア様を助けるという事ですが、具体的な計画は決まってるんですか?」
「えーっとそれはまだです……」
「がっはっは!情けねえな!あんだけ言い切った癖にまだ出来てないのかよ!」
「う、うっさいな!今回の作戦は色々と難しいんだよ。そもそもガルアに会う事すら難しいのに」
「ならいっそ諦めることを進めるぞ。正直今のガルアを説得したところでもう無理だろ。何を考えてるか分からねえが、自らの意思でガイスと共にいるのならそう言う事だろうな。ごっそうさま」
エングはご飯を食べ終わるとそのまま立ち上がり部屋を出て行こうとする。
「まっ本気でガルアを仲間に加えるつもりなら、俺達の事も考えてくれよ。何でもかんでも平和に解決なんてことは出来ないんだからよ。じゃあな」
エングはそれだけ言い残すと部屋を出てしまった。
「なあ、リドル俺ってかなり無茶言ってるか?」
「相当ですね。普通なら速攻で却下しますね」
「やっぱりそうだよなあ……」
「でもそれがかつさんらしいですよ。僕は付いて行きますよ、何処へでも」
「ははっありがとな、リドル。それじゃあ、一緒に作戦を考えてくれないか」
「僕でよければ、話を聞きますよ」
「それじゃあ、ガルアの事なんだけど——————」
それから俺達は皆が集合するまでリドルと作戦について話し合った。
そして数時間が経つと大勢の人が部屋に入って来る。
そしてあっという間に全員が集まった。
「ようやく集まったな。それじゃあ、本格的な話し合いを始めようか。サラ、例の毒薬は完成出来たか?」
「ああ、バッチリだよ。一口飲むだけで即死の劇薬さ」
そう言ってサラポケットからその毒が入った瓶を取り出す。
その紫色の液体は何故の泡を発生させてとてつもなく禍々しい物だった。
「これが例の毒なのか」
「そうだ。これを使ってガイスを殺す。だが残念なことに武器の調達は出来なかった。やはりかつての反乱でほとんどの武器は壊されていた。唯一収穫があったのがデビが持って来たこの機械だけだ」
「妾とかつとリドルとミズトとナズミで持って来たのじゃ!」
「だそうだ、だが起動方法も使い方も分からんためそれは使わないことにする」
「つまりその劇薬を使ってガイスを殺そうってことだね。でっその作戦はもう出来てるの?」
「その毒はガイス自身に触れさせなければならない。その為、ガイスの城に潜入する必要がある。そして潜入する役はツキノとハイトとかつお前らだ」
サザミはそう言って3人を指差した。
それに対して俺も含めた3人は驚いた反応を示す、もしかして事前に言われてなかったのか。
「俺とツキノとかつが?」
「そうだ、ハイトは元々ガルアの十二魔導士だろう。裏切り者だとバレていなければ潜入することも可能だ。そしてツキノ本命はお前だ、かつは後程説明する」
「ちょっとどうしてツキノが本命なのよ!」
「それはツキノのオリジナル魔法によるものだ。ツキノ見せて見ろ」
サザミがそう言うとツキノが前に出て魔法陣を展開させる。
そしてその魔法陣からはもう一人のツキノが姿を現す。
「ええ!?あんた何それ!」
「へえ、もう一人の自分を作れるのかい。確かにすごいオリジナル魔法だけど、それで潜入が出来るのかい。ん?」
「手……出して……」
「手かい?構わないけど、何するつもりだい?」
サラは少し警戒しながらもツキノに向かって手を出す。
そしてツキノはその手を握りしめた。
その時また新たな魔法陣を展開される。
そしてそこから出てきたのはツキノではなくサラだった。
「なっ!?あたいかい!どうしてあたいが目の前に……」
「それはこっちのセリフだよ。狸が化けてるのかい。あたいの真似をするのはやめて欲しいね」
「あんたは偽物だよ。あたいが本物さ、勝手に本物みたいに振舞わないでおくれ」
「すごいね。完全に自立できるのかい。興味深い魔法だね!」
「ツキノお前いつの間にそんなこと出来るようになったのかよ」
「頑張って……修行した……」
「ツキノもういいぞ。話が進まないから消してくれ」
「分かった……」
ツキノはすぐにサラの分身を消した。
サラの分身はきれいさっぱりと消えて行った。
まさか他人すら作れるようになるなんて。
「これが切り札だ。ツキノにはガルアの分身を作ってもらい隙を突いて毒をガイスに掛けてもらう。これがガイスを殺す奇襲作戦だ」
「そっか、ガルアに化ければガイスも油断するから不意を付けるのか」
「ちょっと待ちなさいよ。ガルアの分身って言ってもそんな簡単に作れるの?みた所握手をしないと駄目なんじゃない?」
「その通りだ。ツキノの魔法は作りたい相手と握手をしながら出ないと上手く作ることが出来ない。相手の魔力を感じ取り正確に分身を作るためには握手が必要不可欠だ」
「じゃあなおさら無理じゃない」
「だからこそ握手を迫られても不自然じゃない者に任せる。どうやらガルアと仲が良い奴が居るみたいだしな」
その言葉を聞いて一斉にみんながこちらを見て来る。
「え?まさか俺?」
「そうだ、先ずは絶対かつの分身を作りそのうえでガルアの分身を作る。そうすればガイスの元にガルアの分身を持って行ける」
「ちょっといいかな。それだとガルアと握手をするのがかつの分身になるけど、それはまったくもって問題ないの?」
「確かにそうだよな。分身が握手したところで本人が握手しなきゃ意味ねえよ。おいサザミ、お前間違えてるぞ!」
「何もまちがっていない」
「そうか、分身は分身を作れるんだったな!」
「何だ、知っていたのか。その通りだ。ツキノの分身も同じように分身を作れる。これで何の問題もないだろう。そしてその計画をするためにはかつの分身を作らなければいけない」
「だから俺も一緒に行かなきゃいけないのか」
「そう言う事だ。これがその作戦だ、何か質問がある奴は要るか?」
たしかにいい作戦だ。
奇襲作戦で言えばこれ以上ない物だろう。
まあ誰にもバレずにスムーズに行けることを前提としたものだけどな。
「ガルアとの握手は分かったけど、握手しながら分身を作るのには流石のガルアも疑問がるんじゃないかん」
マイトが鋭い質問をする。
たしかにその通りなんだけど多分サザミはその事を考えてないんじゃないかな。
「それは絶対かつに何とかしてもらおう。あいつとは仲が良いんだろ。上手く言いくるめてくれ」
やっぱりそう言う事だよな。
「少し穴はあるけど時間もないしあたいはこれで良いと思うよ。少数精鋭での奇襲作戦としては文句は言えないね」
「がっはっは!中々大胆ではあるけどな、それと俺がいけないのも残念ではあるが今はもうそれしかなさそうだしな」
「それでは、全会一致という事で良いな」
その言葉に皆が頷いた。
「それでは明日作戦を決行する。各々最終準備を進めてくれ、それでは解散!」




