その四十一 狙われてる意味
「くそおおお、いてええ」
2人は先程リドルに受けた傷を庇うようにしてこちらを睨みつけて来る。
「それ以上の戦闘は無駄ですよ。諦めて降伏することをおすすめします」
「降伏?誰がそんな事するっすか。隙を突いて攻撃を当てられたからって調子になるのも大概にしろよ!」
「ザックの言う通りだ。俺達は未だに本気になっていない」
「だからその本気になる前にお前らはやられるって言ってるんだよ」
「っ絶対かつお前は本当に人をイラつかせるのが得意だな」
「そんな特技憶えたおぼえないよ」
「なら天性のイラつかせ屋だな。ぐっ」
相手は余裕のふりをしているがかなりのダメージになっているはずだ。
リドルの魔法が思ったよりも高威力だったんだろうな。
このまま戦えば楽に勝てると思う、奥の手でもない限り。
問題なのはこいつをどうすべきかだ。
わざわざカルシナシティに持って行けばアジトを突き止められてしまうかもしれない。
極力ここで情報を絞り上げておきたいな。
「ザック、あとどれくらいだ?」
「これくらいかな」
そう言って何故のサインを送り合う。
何を確認しているんだ、分かることは何かしてくるという事だけ。
俺はリドルの方に視線を送る。
リドルも何かを察したのか頷き目の前の2人を警戒する。
「行くぞ、ザック!」
「おうよ、ニュート!」
「「合体魔法!スモークスケープ!」」
「何!?」
その瞬間、ザックは炎と水の魔法を使い水蒸気を発生させるとそのまま姿を消した。
「じゃあな、お前らとの決着はまた今度にしてやるよ!」
「首を洗って待っているがいい!」
「テメエ、逃げるんじゃねえよ!インパクト!」
「逃がしませんよ!ラノストーム!」
2人が居ると思われる場所へと魔法を放ったがその煙が晴れた頃にはもう既に奴らの姿が無かった。
「くそ、逃げられた!いや、あいつらは怪我をしているすぐに追えば間に合うか!」
「無駄ですよ。傷があろうとテレポートですでに逃げていると思います」
「ああ、そうか!くそ、チャンスだったのに」
「良い方に考えましょう。これで明らかにカノエは敵であの2人組も敵です。そして何かを企んでいることも確実でしょう」
「だな、でもその企みがとんでもなく嫌な方向に進んでいる気がする」
「そこら辺も含めて一旦カルシナシティに帰りましょう」
「だな」
リドルはすぐさま魔法陣を展開させてテレポートでカルシナシティまで飛んだ。
目の前はすでにカルシナシティの敷地内に入っており、俺達はすぐに城へと急いだ。
「おい、居たぞ!」
「マジで嫌がったのか!おい、マイト様に報告してこいつを殺してもらえ!」
俺の事を指差して突然暴言を吐いて来る。
こちらを見てくる人たち全てが暴言を吐き嫌悪感をその目に抱いていた。
一体何が起きてるんだ。
「この町でも大量虐殺をする気かよ。殺人鬼!」
「俺達を殺したらマイト様が黙ってねえぞ!」
「小さな村だけを狙う卑劣な野郎だ。ガイス様はこいつを殺さないのか!?」
「話の内容を聞くにどうやらかつさんが次々と村を襲っている犯人にされているみたいですよ」
くっ最悪だ。
本人じゃないのにもう既にこの噂が立ってる
恐らく名前が独り歩きして本人かどうかの判別が出来てないんだ。
そして名前を言わずに俺が絶対かつだと分かった人物、それは明らかに島王選を見ていた物だろう。
「おい、たしか絶対かつって前回の島王選に出てたよな」
「ああ、ガルア様の十二魔導士で出場したがその後やめたみたいだ」
「もしかすると王に恩を売って悪だくみをもみ消してもらってたのか?」
「それってガイス様が復活して思い通りに行かなくなったから腹いせに人殺しってことか」
「元々は殺人鬼って噂だぜ。記憶が戻ったことで殺人を繰り返してるみたいだ」
やっぱり島王選を見ていた人たちは絶対かつと知ればすぐに俺と結びつく。
対して村の人達は島王選を見ていない者が多いだろう、名前だけ伝えればおのずと俺がやったことになる。
やられた、完璧に俺が悪役されてる、こうなると思うように動けなくなるぞ。
「おい、まだマイト様は来ないのかよ!」
「その前に俺達で押さえつけておこうぜ!」
「ああ、皆で行けば怖くねえよ!これ以上犠牲者を出させないためにもやろうぜ!」
「あの隣の奴も仲間だろ!一斉に捕まえろ!」
そう言って町の人達は俺を捕まえようとじりじりと近付いて来る。
町に閉じ込められた不満がこちらにぶつけられてる。
今のこの人達は犯罪者と思われてる俺の言う事なんて全く聞く気にならないだろう。
つまり説得は不可能、逃げるしかない。
「リドル!秘密基地で合流しよう!」
「っ分かりました!」
「おい、あいつらが逃げるぞ!」
「ウィンド!」
俺はすぐさま地面に風を発生させて土埃を起こして視界を遮った所ですぐさまワープでその場から離れた。
リドルもあの状況ならすぐに逃げられるだろう。
しかし厄介なことになったなこれから俺がすべきことはガイスを倒すこと。
それが正しい事と思い実行をしていくつもりだが、他の人達からすればこちらが反逆者ってことだよな。
そうなると俺が皆の足かせになってしまう。
だけど一人で立ちむかうのはとても不可能だ。
くそ、もしかして俺が仲間と一緒に入れられなくするための狙いでもあるのか。
いや、今はとりあえず戻って情報交換だ。
後もう少しで城に付く。
俺は町の人達に姿を見られない様に向かいながら事前に教えてもらっていた秘密の入り口から城に侵入した。
「ふう、何とか城に戻って来れたな」
「よっおかえりかつ」
そう言って軽い挨拶をしながらこっちに向かってくるのはマイトだった。
「マイト!城に戻ってたのか!」
「まあね、仕事も終えたからさ。こっちは特に収穫なしだったけど、そっちは良い悪いも含めて豊作だったみたいだね」
「知ってるのか?」
「片腕を失ったミズトが医療室に入って行ったからね」
「っミズトは大丈夫だったのか?」
「うん、命には別条はないみたいだ。正直ミズトが片腕を失って帰って来るとは思わなかった。やはりあそこは魔窟だったみたいだね」
「ああ、もっと警戒をしておけばよかった」
俺は悔しさを零すとマイトは俺の肩を掴む。
「じきに皆戻って来るさ。そこで情報交換をしよう。落ち込んでいたところで意味なんて無いんだから」
「分かってる。あっそれと今外で大変なことになってるんだよ」
俺は先程の出来事をすぐにマイトに伝えた。
最後まで話し終えるとマイトは難しい顔をしていた。
「なるほどな。かつ、どうやらカノエにいたく気に入られてるみたいだよ。もちろん悪い意味でだけど」
「それってガイスに持ってことか?」
「ガイスが直接命令を下したのならそうかもね。でもガイスの性格からして傲慢で身勝手で世界が自分中心で動いてると思っている自己中な奴だろうね」
すごいな、めちゃくちゃ悪口言うじゃん。
まあ、当たってると思うけど。
「そう言うタイプは一個人に構う事はないと思うけど、どうせ僕達が何しようたって気にも留めない。羽虫のすることにいちいち構ってられないってね。だけどかつは気に止められてるってことはよほど怒らせたか、気になることがあるのか。どちらにしろ最優先に消されるかもしれないね」
「え、えええ……」
「まっ今の所は大丈夫だよ。そんな不安な顔しないで皆が居る部屋に行こう!」
俺の気分とは裏腹にマイトは明るい声で俺を部屋へと連れて行った。




