その三十八 生きることの覚悟
「とりあえず体調が良くなるまでは休みましょう。ミズトさん、先ずは自分を優先にして体力の回復を図ってください」
「分かってるわよ。休むって言うんだったら素直に休むわ」
そう言ってミズトはナズミに介抱されながら横になる。
「なあ妾は腹が減ったのじゃ」
「戦ってないのにもう腹が減ったのかよ」
「ミズトさんの傷を治すためにもご飯は作りたいところですが、あいにく調理器具どころか食材も無いので」
「だよな、ここのモンスターを食うってなっても外の奴らとは微妙に違うし食べたら毒がありそうだしな。それで体調を壊したら元も子もないし」
「そうですね。今は大人しく睡眠で回復をしましょう」
「妾はもう腹が減ったから食べても良いか?」
そう言いながら物欲しそうにデビはよだれを垂らしていた。
こいつどんだけ腹減ってるんだよ。
「まあデビだったら耐性がありそうだし、頑丈そうだし別にいいかな?」
「やったー!食べて来るのじゃ!」
そう言ってデビはお預けを喰らった犬が良しと言われたかのような勢いで上の階層へと昇って行った。
あいつの胃袋は本当にどうなってんだろうな。
「それじゃあ、俺達も休むか」
「そうですね」
そう言って少しあの間休むために壁に寄りかかり眠ることにした。
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ナズミはそばで眠っているミズトを心配そうに見守っていた。
その視線に気づいたミズトは目を閉じながら口を開く。
「ワタシの事は良いからナズミも早く寝なさい」
「お姉さま私こんな事をするために戦ってるわけじゃないの。ただミュウラ様の敵討ちがしたくてお姉さまをこんな目に合わせたいわけじゃなかった。ごめんなさい、本当にごめんなさい」
「言ったはずよナズミ。私達は逃げるわけには行かないの。ミュウラ様の遺志を引き継ぐのよ」
「こんな事で私達幸せになれるんでしょうか」
「ナズミ、幸せは世の中が決めるんじゃなくて自分で決めるのよ。私達は幸せにならなくちゃいけないの。今はまだその準備期間よ」
「お姉さま……」
するとミズトは優しくナズミの頭を投げる。
「大丈夫よ。私はここに居る。涙を流すのはまだ早いわ。腕は無くても生きていけるそうでしょ?」
「分かってますお姉さま。もう泣きません、泣いても何も変わりませんからだからお姉さまは居なくならないでくださいね?」
「もちろんよ。私はあなたの姉なのよ。妹を置いて居なくなったりしないわよ。だから強くなりなさい、ナズミ。もう誰も失わない様に、一緒に強くなりましょ」
「はい、お姉さま!もうお姉さまに守られてばかりのナズミじゃありませんよ。今度は私がお姉さまを守って見せます」
「ふふっそれは楽しみね。そろそろ疲れて来たから、もう寝るわね……」
そう言ってミズトはナズミを頭を撫でていた手をゆっくりと下ろして寝息を立て始めた。
「おやすみなさい、お姉さま」
ナズミもそう言ってミズトの横で眠りについた。
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「んっふあああ……結構寝たな。何時間経ったんだ。よっと」
俺はゆっくりと体を起こして背伸びをする。
周りを見てみると未だに皆は寝ていた。
どうやら俺が一番の早起きらしい。
それともまだあまり時間が経ってないのか?
閉鎖空間で外の景色も見えない為どれくらい経ったのかも分からない。
腕に付けている時計というかこれはタイマーみたいなもんだし、時間を測ることも出来ない。
ていうかここ最近特に確認もしてなかったしな。
「いい機会だし、周りを見てみるか」
俺は周りを注意深く観察し始めた。
年数が経っているのかほとんど何も残ってない。
薄暗いため炎の魔法を使って周りを見る。
ボロボロだが上の階層と比べて周りが凍り付いたりドロドロに溶かされてるわけもない。
だからこそ何かしらの装置の跡があるが、本当に装置の跡って感じでほとんど原型を留めていない。
全てぶっ壊されていてどんな研究をしているのかも分からないな。
年数が経ってるからかスライムの粘液によるものか固まって壁と同化している物もあるな。
ここからどんな研究所を知るのかは無理だな。
唯一分かるのは中々に広い空洞があるってことかな。
地下にこういった建物を作ったのも何かから身を隠すためとかか?
「どうしたんですか、かつさん」
「おっリドル起こしちゃったか?」
「いえ、普通に目が覚めただけですよ。それよりも何してるんですか?」
「いや、ここはどんな場所なんだろうなと思って。周りを見てみても何も手掛かりがなさそうだし」
「確かに暴れたような形跡もありますし、重要な物もなさそうですね」
そう言ってリドルは壁をゆっくりと触り凹凸を確認する。
「リドルはここでどんな研究が行われたと思う?」
「そうですねえ。わざわざ身寄りのない子や攫っても騒ぎにならない人を狙っている当たり隠れてこそこそするような研究をしていたんじゃないでしょうか。それこそ人体の研究とかですかね?人間の体を使って新たな生物を作るとか?それが半獣なんじゃないでしょうか」
「てことはその過程がモンスターってことか?モンスターを最初から作ったわけじゃなくて偶然の産物?」
「その割には増えすぎですよね。すべてのモンスターの生みの親でも作ってしまったんでしょうか」
「それは想像したくもないな」
たしかにリドルの考えも頷けるな。
バレないための実験だからこそこんな人も住んでいない孤島にしたのか。
しかも外からは視認できないような機械も作ってるしこそこそ何かをしているのは明らかだな。
それが生物についての研究だとしたらまあ確かに日本じゃ間違いなく逮捕だよな。
この世界の倫理観とかよく分からないけど、外の世界だと法律とかあるのかな。
「おはようございます。て、今はまだ朝じゃないですよね」
後ろから声が聞こえて来たと思い振り返るとナズミとミズトも起きていた。
「もう大丈夫なのか?」
「ええ、もう傷は塞がったわ」
そんなわけないだろう。
「まあ、無理はしないでくださいよ。それじゃあそろそろ進みますか」
「ちょっと待てよ。デビは何処に行ったんだ?飯を食べるって言ったきり姿が見えないけど」
「まだご飯を食べてるんでしょうか。上に行って確認してみましょうか?」
そう言ってリドルは上に行こうと階段に向かって歩き出した時、大きく揺れが発生した。
「なっ何だ!?」
「っ今下から声がした」
「本当か!てっミズト1人で行くなよ!」
「お姉さま待ってください!」
ミズトは俺達の制止も聞かずに階段を降りて行ってしまった。
あの人自分が大けがしてること分かってんのか。
俺達はすぐにミズトを追いかけて階段を降りていく。
すると先に降りて行ったミズトがその場で佇んでいた。
「お姉さまどうし……え?」
同じようにナズミもその場で停止する。
そして俺も目の前の光景を見て足を止めてしまった。
「デビ何やってるんだお前?」
「悪魔のなれの果てが居たから退治していたのじゃ」
そう言って目の前には原型を留めていない悪魔?が血まみれで倒れていた。




