その三十五 スライムの女王
「さすがだなミズト。まさか霧すら切れちまうなんて」
「大したことじゃないわ。あのモンスターは実体がないようで魔力を体に流していた。一か所に集めれば魔力の塊となり実体が出て来るわ。後はそれを切ればいいだけよ」
「なるほど、ですが集めた所で魔力が集まっている箇所を切るのは難所ですよ。どちらにしろミズトさんにしか出来ない芸当ですね」
ミズトは魔法を解除して残った柄の部分を懐に仕舞った。
「さすがですお姉さま!この調子で残りの階層も突破しましょうね!」
「もちろんよ、ナズミ。それじゃあ、早く行きましょう。先頭はあなた達が行くんでしょ」
「分かってます。それじゃあ、ナズミさん行きましょうか」
そう言って2人は先頭を歩き出し、次の階層へと向かう。
次は六階層だったな、しかも今回はモンスターは一体だけだった。
もしかしてあの霧のせいで他のモンスターは全員死んでしまったのか?
それか、他のモンスターは逃げるようにして他の階層に移動したとかかな。
だとしたら、他の階層がモンスターだらけなのも頷ける。
ていうかそもそもこいつらはどうして生きてるんだ?
「どうしたのじゃ。難しい顔をして何か気になることでもあるのか?」
「いやあ、何かここに居るモンスターって普通と違うような気がしてさ。そもそもこいつらは共食いもせずにどうやって生きてんだ?」
「確かにそうじゃのう。ここの奴らは飯を食わずに生きていけるのかのう」
「それはないわ。生物は必ずエネルギーが必要になる。なにも食わずに生きていけることはない」
「つまりミズトはここのモンスターは何かを食べてるってことか?」
その問いに対してミズトは頷いた。
「それはマナよ。奴らのエネルギー源はマナその物よ」
「なるほどのう。やけにここはマナであふれかえってると思ったらそういう事じゃったのか」
「いやいや、マナは確かにエネルギーだけど身体的な栄養とは程遠いだろ?」
「そう?マナで体を構成しているモンスターだったら十分な栄養でしょ」
「てことはここのモンスターは外のモンスターと違ってマナをエネルギーにしてるのか?」
「あるいは送信化したか、ね。どちらにしろモンスターについてはよく分からないことが多いのが現状。この問答も専門家じゃない限り無意味よ」
「皆さん、見えてきましたよ!」
「かつさん、警戒してください。どうやらここの階層のモンスターは異質の様ですよ」
そう言ってリドルは前方を警戒する。
何だまた何かいるのか。
俺も慎重に前へと進んでいく。
そして目の前の光景はまさしく異質だった。
「な、何だこれ!?」
そこには大量のスライムで埋め尽くされていた。
「第6階層はスライムだらけか。何か拍子抜けだな」
「いえ、スライムという生き物は侮れませんよ。それにここに居るモンスターは強力ですからね」
「リドルさんの言う通りです。ここのスライムはただのスライムじゃありません!皆さん気を付けましょう」
すると目の前のスライムたちは一斉にこちらに突っ込んできた。
すぐさまナズミは魔法陣を展開する。
「アイスロック!」
ナズミの魔法により数匹のスライムが凍り付いた。
「キルトルネード!」
そしてリドルの魔法により凍ったスライムが細切れにされた。
そしてそのままスライムは死んだ。
「氷漬け状態だとスライムは死ぬのか」
「このまま全員倒しちゃいましょう!」
「おかしいですね。明らかにレベルが落ちています。何かまだある可能性がありますね」
「ちょっとちょっと!何してくれちゃったんのよ!私の可愛い子分たちおさ!」
その瞬間部屋の奥から声が聞こえてくる。
この声は別のモンスター!?
すると奥の声に反応するようにしてスライムが声の方に集まって来る。
そして奥から出てきたのはスライムよりかは大きい子供のような姿をしたスライムだった
スライムなのかあれは、人間と同じ形をしているけど。
「妙な物が出てきましたね」
「あれが親玉かしら」
「お姉さま。その剣をしまってください。ここは私に任させてください」
「よくも私の可愛い子分をいじめてくれたな。この代償は高くつくぞ」
「あなたは何者ですか」
「ワタシか?ワタシはスライムの女王様じゃ!ひれふすがいい!わーはっはっは!」
そう言って小さいスライムの女王は高笑いをする。
「何だか昔のお前に似てるな」
「どこかじゃ!」
「スライムの女王ですか。どれくらいの力量か確かめてみましょうか。アグレッシブフルート!」
「いけ、子分ども!」
その掛け声と共にスライムたちが一斉に女王の前に固まりリドルの魔法を代わりに喰らう。
「はっはっは!このワタシをそう簡単に倒せると思ったか!ん?」
するといつの間にか女王の足元が凍り付いていた。
「捕まえた」
「ナズミ、ナイス!」
「なあ!?ずるいぞ、こっそりと魔法を使うなんて!子分ども何とかしろ!は?」
その瞬間、スライムの女王の首が空中に飛んで行った。
そしてすぐ横でミズトが水の剣を出現させていた。
「これ以上遊びに付き合ってられないわ。さっさと次の階層に行きましょう」
「なあ!よくもワタシの首を切ったな!せっかく女王として出て来たのにこれじゃあかっこが付かないじゃないか!て、なあんてね」
「っ!」
「子分ども集まるが良い!」
その掛け声で一斉に首だけのスライム女王の元に集まって行く。
そしてそれぞれのスライムが融合し合い形を成していき、あったという間にスライムの女王の体が出来た。
「完全復活!どうだ、女王は不滅なのだー!」
「あっそ」
すると躊躇なくミズトは再びスライムの女王の首を切った。
「無駄だと言っているのが分からないか!子分ども集まれー!」
「そんなことさせると思う?」
ミズトが一斉に女王の元に向かっているスライムを細切れにする。
だがスライムはバラバラになりながらも再びくっつき合おうとする。
「スライムに斬撃攻撃は無意味なのだ!お前はそんな事も分からないのか」
「そう、それはどれだけ切ったかに寄るんじゃないの?魔剣光式、光輝斬!」
無数の斬撃がスライムに襲い掛かる。
目にも止まらぬスピードで細切れにされたことでスライムはそのまま飛び散って動かなくなった。
「体を動かせないほど細かく切れば関係ないわ」
「な、何だと!?ワタシの子分どもをよくも、この姿じゃ分が悪いな。子分どもあれをやるぞ」
「何かするつもりらしいですよ」
「それを言われて黙ってるわけには行かないよな!」
俺は一気にスライムの元に近づく。
「変身だああ!」
「っうお!?」
その瞬間、一斉にスライムの体がはじけ飛んでいく。
それによりねばねばとしたスライムの液体が体中に張り付く。
「お、お姉さま……何ですかこれ」
「見てくださいあれを!」
リドルが指差した方向では巨大な繭がいつの間にか出来上がっていた。
あれはもしかしてスライムの女王が中に入っているのか。
「早く止めないと!っ!?な、何だからだが動けない」
俺はすぐさま自分の体を見る。
すると体に張り付いていたスライムが俺の体を拘束しようとしてくる。
こいつら動けるのかよ。
「まずい、どんどん体が縛られていく!」
「かつさん、今風の魔法でそいつらを切り刻みます!じっとしていてください!」
「ちょっと待て!さすがに死んじゃうって!俺は後で良いから他の人を任せた」
「その必要はないわ」
するとミズトがいつの間にかまとわりついていたスライムを全て切り取っていた。
そして一目散にスライムの繭へと剣を振り下ろす。
「滝登り!っ!?」
だがミズトの剣はその繭に弾かれてしまった。
「硬い!ミズトの剣でも切れないのか!」
「だったらもう少し早く切るっ!」
その時まだスライムが引っ付いていたのかスライムがミズトの手を固定させる。
「ちっ離れろ!ひゃっ!」
「ひゃ?」
「な、何でもない。くそ、このスライム服の中に……」
「お姉さま大丈夫ですか!リドルさん、私のスライムを振り払ってください!」
「分かりました!」
「くそ、このままじゃまずいな。ワープ!」
俺は繭の近くにワープする。
そしてワープしたことでスライムを引きはがすことに成功する。
このままこの繭を壊す!
「インパクト!」
直接繭に魔法をぶち当てることに成功する。
繭は完全に破壊された、これで何とか阻止できたのか。
「っ!大変だ、この中に何もいない!」
「本当ですか絶対さん!そうなるとスライムは何処に」
「ナズミ、それよりも早くこのスライムをひんっ!」
「ひん?」
「何でもない。いちいち反応するな!」
その時後方から何かが破裂した様な音が聞こえる。
「まさかっ!」
「馬鹿だなお前ら。それは単なるデコイだ。本物のクイーンはここでずっと無防備に籠っていたのに。残念だったな、唯一のチャンスを逃したぞ」
後ろに現れたのは先程よりも成長した姿の女王だった。




