その三十二 破滅の洞窟の再侵入
「ごめんねかつ、力になれなくて。本当なら一緒に戦いに行きたかったのに」
「別に大丈夫だよ。謝る必要も無いし、今のミノルにしか出来ないことをすればいいだろ」
「アイラも無理はしないでくださいよ。常にミノルさんの側に居てください。ミノルさんはともかくアイラは戦闘経験がありませんから」
「うん、分かった……」
「ちょっとリドル、まるで私が生身で戦える野蛮な人みたいじゃない。私だってそんな肉体派じゃないのよ」
「そ、そうですねー」
そう言ってリドルは目を泳がせる。
分かるぞその気持ち。
「ちょっとその目は何よ!ちゃんとこっち見て言いなさいよ」
「ちゃんと見てますよー」
「見てないじゃない!ねえ、アイラちゃんは私が武闘派じゃないの分かるわよね」
「そ、そうだね」
そう言ってアイラは苦笑いをする。
分かるぞアイラ、あの見事の足蹴りを見れば誰だってその反応をしちゃうよな。
「そろそろ無駄話は終わった?」
そんな冷たい言葉を放ちながらミズトがこちらに向かってくる。
「無駄話とは無粋な奴じゃのう。仲間通しの別れの言葉に水を差すのか?」
「あなた達は今から死に行くつもりなの」
「そんなわけないだろ」
「なら別れの言葉は不要。今はそんな事よりも研究所に向かう方が先決よ」
「そうですが、これくらいは自由にさせて欲しいですね」
そう言ってリドルがミズトに静かな睨みを利かせている。
何だか一触即発の雰囲気だな。
「ごめんなさい皆さん!お姉さまはお別れを言わなくても私が守るから大丈夫安心してと言ってるんです!遠回しの表現になるのはいつもの事なので気にしないでください」
「ナズミ、私はそんな事を……」
「そうですか、でも心配はいりません。僕達は守られるほど弱くはありませんから。何なら僕達が守って見せますよ」
「っ!そうか、なら心配いらないな。自分の身は自分で守るようにしよう。行きますよ、ナズミ」
「はっはい!お姉さま、皆さんも早く行きましょう」
不機嫌そうにミズト達は先に行ってしまった。
「安心しろ。ミノル達が俺が守っておく。お前らは安心して破滅の洞窟に向かってくれ」
そう言ってハイトが頼もしい言葉で親指を立てる。
「そうか、ハイトはここに残るのか。それじゃあ、2人の事任せたぞ」
「ああ、任せろ!」
「そろそろ行かないか?あやつらはもう城を出たぞ」
「本当に先に行きやがったのかよ。それじゃあ、俺達も急ぐか」
こうして俺達は破滅の洞窟へと向かって行った。
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「にしてもここに来るのは久しぶりだな」
「そうですね。初めて挑戦した時はまだパーティーも結成されたばかりでしたから」
「そうじゃのう、懐かしいのう。あの時の妾はまだ未熟だった。精神的にまだまだ子供じゃったからな」
「今でも子供だけどな」
「何じゃと!」
「冗談だよ、そんなに怒るなって」
そんな話をしているとミズトが冷たい言葉で切り伏せた。
「それ以上無駄話をするなら置いて行くわよ」
「だから妾達の会話に入り込んでくるでない!かまってちゃんか、お主は!」
「何ですって」
「ああ、お姉さま落ち着いて!今は仲間なんですし、協力していきましょうよ!」
ナズミは今にも切りかかろうとしてくるミズトをなだめる。
馴染みも色々と大変そうだな。
「とりあえず中に入るか。昔と変わってないのかも気になるし」
「確かかなりの階層がありましたよね。現時点で最高5階層でしたよね」
「そんな事よりも早く行こうなのじゃ!体がうずいて仕方がないのじゃ!」
「あなた達は後ろに下がってて全て切るから」
「お姉さま、なるべく協力していきましょうね」
そしてついに俺達は破滅の洞窟へと再び挑戦した。
中に入って行くと薄暗くわずかな光を頼りに進んでいく。
そう言えば中はこんな感じだったな、異様な気配と不気味な雰囲気が辺りを包む。
様々な生物の息遣いが聞こえてくる、当然モンスターともすぐに遭遇する。
「見つけたぜー!」
「ぶっ殺してやるよ!」
「来たぞ、みんな——————」
「魔剣水式、水面水飛沫!」
「キルトルネード!」
「ライジングサンダー!」
「うぎゃあああ!」
その瞬間、3人の魔法によって目の前のモンスターどころかここら一体のモンスター全てが巻き込まれる。
それにより洞窟内はしんと静まり返ってしまった。
「おいおい、一体についてやり過ぎだろ。まさかここに居るモンスター全部やっちゃったんじゃないのか」
「私一人で十分よ。下がっててって言ったでしょ」
「それは事地らのセリフですよ。僕達の方がここについて詳しいですから、僕が対応しますよ」
こいつらまだ喧嘩し合ってるみたいだな。
するとナズミがこちらに近寄ってくる。
「あのう、リドルさんでしたっけ?あの方はいつもあんな感じなんですか?」
「いや、いつもはもっと社交的だがアイラとの会話に文句を言ったから怒ってるんだろうな」
「そうだったんですか。お姉ちゃんも強めに言っちゃったのはあれですけど、何とかなりませんか?」
「うーん、何とかしろと言われてもな」
「無視してよいじゃろ。どうせ協力などはなから無理な話じゃしな」
たしかにデビの言う通りだ。
リドルはともかくミズトが協力を積極的にするとは思えないんだよな。
妹のナズミが制御できないなら無理だろうしな。
「しゃあない。とりあえず話すだけ話すか。おい2人ともちょっといいか?」
俺は未だに睨み合っている二人の元に行く。
「とりあえずこの階は完全制覇したみたいだし、一旦作戦会議しよう」
「する必要はないわ、全て切り伏せるから」
お前は剣士か。
「そう言う事じゃなくてな。魔力の無駄遣いになってるだろ。今のだって3人が魔法を撃つ必要なんてなかったし、魔法を過剰に使用してるんだよ」
「確かにかつさんの言う通りです。ここは僕を主軸に行きましょう。ミズトさんは後方支援をお願いします」
「なぜ私が後ろに下がらなければならないの。私が全て切るって言ってるの」
「ていうか、お前のオリジナル魔法の性質をよく理解してないんだけど、今更だがここで情報交換と行こうぜ。お互いの戦力を知った方が良いだろ」
「それもそうですよね!今は仲間なんですから、ねっお姉さま」
「はあ、仕方がないわね」
ふう、ようやく話を聞く気になってくれたみたいだな。
「じゃあまず俺からな。俺の主力魔法はインパクトって言う強力な衝撃波を放つ魔法だ。その他にもカウンターやワープと言った避ける事や跳ね返すのに特化した魔法を持ってる。それ以外はほとんど使い物にならないな」
「確かに絶対さんのインパクトは強力でしたからね。それじゃあ次は誰が行きます?」
「妾が行くのじゃ!すでに分かっていると思うが妾は最強なのじゃ。この場に居る奴らで一番のな。すべての魔法は一撃必殺じゃが、今得られる魔力では数発が限界じゃのう。数に限りはあるが、ピンチになったら好きなだけ頼るが良い!」
よくもまあこんな堂々と言えるよな。
まあ事実だから否定は出来ないが。
「それじゃあ、次は僕ですね。僕は風魔法の熟練度を極めているのでそれらが強力な武器となります。基本的な魔法もある程度覚えてるので対応力はありますよ」
「それじゃあ次は私ですね。私は一応オリジナル魔法を2つ持ってます。一つは霞の中の私という攪乱魔法ですね。不意打ちや逃げる時に便利です。あと踊る人形笑う操り人というのがありますがこっちは相手の魔力が低くないと効果が出ない物なのでない物として考えてくれて大丈夫です」
「じゃあ、次はミズトだな」
「私は水が得意だ」
その一言だけでミズトの説明は終わってしまった。
「え、それだけ!?他に言うことあるだろ」
「今は言わない。まだあなた達を信じてないから」
「まだ疑ってるのかよ。別に俺達はスパイでも何でもないぞ」
「言葉では何とでも言えるわ」
駄目だこいつ、完全に自分以外の意見は聞き入れないつもりだな。
こうなったら何を言っても右から左へ聞き流すだろうな。
「お姉さまのオリジナル魔法は魔剣です。魔法と同じように8つの属性に変化することが出来ます。対応力にも優れてるので様々な敵と戦うことが出来ますよ」
「ちょっナズミ!?」
「お姉さま、今は協力し合う時です。警戒する必要もありませんよ、仲間なんですから」
「忘れたのナズミ。人を簡単に信用してはいけないわ」
「分かってます。お姉さまが今回同行すると言ったのは監視の意味も含まれてるんですよね。でも今は協力しないと前へと進めません。圧倒的な力の前では個人の力など無に等しいです。そうでしょ?」
「はあ、分かったわ。ナズミに免じて今は協力してあげる」
「本当か!?それはよかった」
ナズミのおかげでようやくまとまることが出来そうだ。
「それじゃあ、先人はリドルとナズミが切ってくれ。俺とミズトは後ろで何か起きた時すぐに対処できるようにしよう。デビは奥の手だ。いざって時に活躍してもらうぞ」
「分かりました」
「はい」
「秘密兵器というのも悪く無いのう」
「よし、それじゃあ次の層に行くか!」
そして俺達は階段を降りて2階層目に向かう。
2階層目からはモンスターの数が増えてきた。
ここでは戦闘は避けられないよな。
「ウガァ!」
その瞬間、白銀の狼がこちらに突っ込んできた。
いきなりかよ!
思わず身が目た瞬間、強烈な熱気が近くから感じて来る。
「魔剣炎式、炎の渦!」
ミズトのオリジナル魔法が辺りのモンスターを巻き込んで燃やしていく。
当然シルバーウルフも丸焦げだ。
「お姉さま!さっきの話聞いてなかったんですか!」
「私はただ危険が迫ってたので助けただけよ」
さっそくかよ。
今回も苦労しそうだ。
ミズトに納得してもらうまで10分もかかってしまった。




