その三十一 ガイス暗殺計画
その言葉を発した瞬間、異様な静けさが辺りを包んだ。
こうなることは何となく分かっていたが、皆黙るとは思わなかったな。
数秒間の静けさを最初に破ったのはエングだった。
「がっはっは!中々面白い冗談を言うじゃねえか!まさか、本気じゃねえよな」
独特の笑い声が響き渡る直後にエングの睨みつけるような視線は普通なら言葉を発する事すら、困難な圧を感じる。
だけどここで引くわけには行かない。
「本気だ。俺は本気でガルアを助けたいと――――――」
その時、長机にひびが入るほどの拳を叩きつける。
それを行ったのはミズトだった。
「いい加減にして、そんな事認めるわけないでしょ」
「そ、そうですよ!私達の気持ちを考えてください!」
「同感ね。あいつは私達の敵よ。そいつを助けたいなんて、やっぱあんた敵なんじゃないの?」
「確かにお前らにとってガルアは憎むべき相手かもしれない。でも俺にとっては大事な友達なんだよ」
「友達だから助けたいなら一人でやればいい。私達には関係ない、話はこれでおしまい。作戦の内容を話しましょう」
「でも――――――っ!」
その瞬間、冷たい水の刃が俺の首に触れた。
これはミズトのオリジナル魔法か。
「おしまいって言ったでしょ。これ以上私を怒らせない方が良いわよ」
鋭い殺気これは本気で俺を殺すつもりだ。
でも俺は。
「罪を犯したから見捨てるのか。ひどい事をしたから殺すのか!俺はそうは思わない。友達だからこそあいつには罪を償ってほしいんだ。一番非道なのは何も償わせずに殺す事だろう!俺はあいつを助ける、そして罪を償わせる。それが友達としてすべきことだから!」
俺はミズトの刃を握りしめる。
鋭い刃で血が出るがそれでも俺はこの手を離さなかった。
離してしまえば殺されると思ったから。
「ミズト、オリジナル魔法をやめろ」
「どうして?」
「そいつを殺すつもりだろ」
「だから?たった今敵になった奴の心配をするつもりじゃないわよね」
「敵じゃねえって言ってんだよ」
サザミはミズトを睨みつける。
そしてミズトは一つため息を付くとオリジナル魔法を消して後ろに下がって行った。
「お前の言いたい事は分かる。だが、その算段は整ってるのか?」
「まだ考えてない……」
「考えてないのにえらそうに語ってたわけ?呆れたわ、こんな奴の話を聞くだけ無駄よ無駄」
「だけど、ガルア様が仲間になれば強力な戦力になるのは明らかだぞ」
「ハイト……」
「僕達もかつさんの意見に賛成です」
「ガルア救出作戦なら妾に任せろ。ぱっと行って助けて来るぞ」
「はあ、良いだろう。勝手にしろ、その代わり俺達は一切協力しない。そしてその件でお前らがいくらピンチになろうとも助けには行かない。これで良いなら、その作戦行動を許してやろう」
「本当か!」
「はあ、あんた本気で言ってるの!?」
「落ち着けよ。怒ってるだけじゃ話し進まねえのが分からないのかよ」
「ガイ、あんた今何て言った!私に喧嘩売ってる」
「仕方ねえな。その喧嘩買ってやるからかかって来いよ」
「何で私が売ったことになってんのよ!?喧嘩売って来たのはそっちでしょ!」
「はいはい、そこまで。2人ともいい加減にしな」
そう言ってサラが2人の間に入り何とか喧嘩を鎮める。
「ただし、あくまでもこっちの計画が本命だ。こっちを優先的に参加してもらうぞ」
「分かってる」
「がっはっは!これでようやく話が進められるな!」
「いやあ、ここに来るまでに長かったね。それで先ずはどの話から進めようか」
「もちろん、ガイス暗殺計画でしょ」
イナミの言葉を聞いて皆の表情が変わる。
ガイス暗殺計画、そんな物を立ててたのか。
「ガイス暗殺計画、それって本当に実現できるの?」
「そうだね、今のところ成功確率は二割ってところかね」
「かなり低いな」
「これでも高い方だ。真正面から戦うよりも断然な。今の所暗殺の方法は二通りだ。毒か武力か」
「毒は当然魔法じゃねえぞ!ガイスの魔力レベルは当然限界を超えてるだろうし、魔力抵抗によってほとんど意味ねえからな!」
「そっだから毒は天然の物、つまりモンスターから頂くんだ。一番強力な毒を持っているリザードペインドの体から出る毒の体液に少量でも触れれば一瞬にして命を落とすんだ。でも幻のモンスターと言われていてその姿を見た人は少数しか居ないんだ。未だに見つかってないんだよね」
何てえげつない事をマイトはさらっと言ってるんだ。
「確かにそれなら殺せるかもな」
「まっ問題はその毒を触れさせる方法だけどな。食べ物の中に入れようとしてもその強力さゆえにすぐに腐ってしまうし、そもそも俺達は奴に近づけない」
「がっはっは!つまり考え中ってことだな!」
「それが第一候補ですか。それでは第二候補の武力は何ですか?」
「これは記憶を取り戻して思い出したことだが、俺達の体をいじくりまわしやがった研究者たちは他にも並行して別の研究を行っていた。それが兵器の開発だ。魔力には劣るがどれも強力な兵器だ。魔力抵抗がある現状ではこの兵器が奴の体にダメージを入れられる方法だろう」
「その兵器は何処にあるんだろう」
「研究室に保管されている。まあ、過去には破壊してしまう動かない物や動かし方が分からない物もあるかもしれないがな。これは実際に見て見ないと何とも言えないな」
サザミの説明を聞くに実現可能なのは今の所毒による暗殺か。
「でも兵器の場所はある程度絞れてるんだろう?」
「そうだね、後はその場所を調査しに行くだけだ」
「ガイスが仲間集めをしてから五日が経った。そろそろ期限に迫ってきている。奴が動き出す前に計画を実行させるぞ。ピンカ、イナミ、サラ、ガイお前らは引き続きリザードペインドの探してくる」
「任せな」
「頑張るよ」
「見つけたらぶっ飛ばしてやるぜ!」
「あんたバカ!?殺すんじゃなくて体液を取るのよ!」
そう言って四人は早速リザードペインド探しに行くために部屋を出て行った。
「その他は未だに調査していない研究室に行くぞ。かつ、お前らにはここの研究室を調査してもらう」
「っ!?おうおう、サザミ本気かよ。そこは断トツでやばい所だろ」
サザミが地図を広げて指を指す場所はかつて挑みそして、諦めてしまった場所だった。
「ここって破滅の洞窟か!」
「破滅の洞窟懐かしいわね」
「そうですね、かつて挑んだ場所でしたね」
「行けるか?行けないのなら無理はしない。別の場所を任せる」
「大丈夫だ。行けるさ、でもミノルとアイラはここに残ってくれないか。あそこは危険な場所だから」
「そう言えば、お前からは全く魔力を感じねえな。もしかして人間なのか?」
「そうよ」
アイラはさっきから怯えているのかリドルの後ろに隠れてしまっている。
まあ、こいつらを前にしたら普通に怖いよな。
「なるほどな、それじゃあお前らには実務を任せる。3人で行くことになるがそれでお前らは大丈夫か?」
「それじゃあ僕達が着いて行くよ。ね、ツキノ」
そう言ってマイトが手を上げながらこちらに向かってくる。
「確かにマイトとツキノが来てくれるなら安心だな。それじゃあよろし……」
その時俺達の前にミズトが立ちはだかる。
「私が行く」
「え?」
「何じゃお主、まだ妾達を疑っておるのか」
「何か起きた時、私だったら対処できる。私達が同行する」
「え、はっはい!お姉さまがそう言うなら」
「いいだろう、それじゃあお前らには破滅の洞窟を任せたぞ。それじゃあ、解散だ!」
そう言って他の人達は各々の任務を達成する為に動き出した。
「ねえ、ミズトもしかつ達に何かしたら許さないからね」
「そうか、肝に銘じておく」
「行こっかツキノ、かつも頑張ってね」
「うん……じゃあね」
そう言ってマイトたちも行ってしまった。
「それじゃあ私達も行こうか」
ああ、何か変なことになってしまった気がする。




