その三十 黒の魔法使いの真意
敵意、いや疑いの目を向けられている。
完全に敵としては見られてないけど、返答を間違えればすぐさま敵と見なして攻撃してくるだろう。
ギリギリのライン、慎重に答えよう。
「味方だ」
「その根拠は?」
「皆が証人になってくれる。俺はずっとこいつらと進んでいた、だから俺が村を襲ってないことも分かってる」
「仲間もそちら側だとしたら信用出来ないな。嘘を付く可能性もある」
やっぱりそう簡単には信じてくれないか。
「ではその村を襲った人がなぜかつさんだと分かるんですか」
「質問をしているにはこっちだぞ」
「その質問を答える為の質問です」
リドルそんなに攻めて大丈夫か。
サザミの反感を買いかねないぞ。
するとサザミは睨みながらもその質問に答える。
「襲われた村の人達は一様に絶対かつと名乗っている男が襲って来たと言っている」
「っそれってわざわざ名前を名乗って襲ったってことか。そんなことしたら正体もバレるし、こんな所に来ないだろ」
「分からないだろ。もしかするとうまく言いくるめてこちらに加わろうとしている可能性もある」
「ならそ奴らの人数は何人だったのじゃ」
デビが質問をするとサザミはより一層警戒心を抱く。
そして一拍置いてデビの質問に答えた。
「人によっては違ったが大体は二人だ」
「なら僕達ではありませんね。先ほども言った通りかつさんとほとんどを一緒に過ごしていました」
「寝ている時にこっそりと行っていた可能性があるが」
「寝ている時は交代で見張っておったからそれはないのじゃ」
「それでも疑うというのなら来た道と襲われた村を見比べてください。道中通った村もあるのでその村に行けば僕達がちゃんとそこに居た証言も取れると思います」
「ああ、それが根拠だ」
言えるだけの事を言った、これだけあればこちらが疑われることはないはずだ。
最も嘘で片付けられたらもう打つ手はないけど。
サザミは少し考えてから皆の方を見る。
「どう思う?」
「どうってかつがそんな陰気臭いことするわけねえだろ。あいつは俺のライバルだからな」
「がっはっはっ!ライバルか良いじゃねえか!たしかに今の様子とかつの性格からして俺も信じていいと思うぜ。まっ敵に操られたりしていたら話は別だけどな」
「あたいも良いと思うよ。特に疑う要素も無いしね」
「何言ってんの!嘘に決まってんじゃない!騙されてんじゃないわよ」
「信じるにはまだ早いと思うわ。既にガイスと接触しているし、エングの言う通り操られてる可能性はある」
「確かにお姉さまの言う通りですね。まだ信じるには早いと思います」
「そうかな?俺は全然大丈夫だと思うけどね」
「俺もかつを信じるよ。島王選の時も精一杯戦ってたし、今のかつを見ても操られてるとは思えないし」
「私も……信じる……」
「賛成6反対4で賛成が多いか。仕方ない、今は信じるか」
その瞬間、俺達を睨んでいた魔法陣が一斉に消された。
どうやら信じてくれたみたいだな。
「何じゃ人騒がせな奴じゃのう。散々疑っておったくせにあっさり開放とは」
「おい、デビ信じてもらえたんだからいいだろ」
「がっはっは!すまねえな、色々あって俺達もピリピリしてんだよ。不安要素は少しでも排除したいのさ。こいつの苦労も分かってやってくれ!」
「うるさいぞエング、耳元で騒ぐな。後背中を叩くな」
そう言ってバシバシと叩いて来るエングを嫌そうにサザミは払いのける。
「とにかく信じた所で情報交換と行こうか。それじゃあまずピンカからよろしくね」
「ちょっと何でマイトが仕切ってんのよ!」
「別に誰が仕切ったって変わらないよ。ほら、早くピンカの番だよ」
「うるさいわね!あんたの指図を受けるわけないでしょ」
そう言ってピンカはマイトを指差す。
するとイナミがゆっくりと手を上げる。
「それじゃあ、俺が代わりに報告をするよ」
「やっぱりイナミはピンかと違って空気が読めるなぁ」
「ちょっとそれって私が空気を読めて無いみたいじゃない!」
「いい加減にしなよ。話しが一向に進まないじゃないかい。イナミ、早く情報を頼むよ」
「分かった、それじゃあ俺からウォームウッズについて。現在もシンラ様を名乗る王が城で仲間集めをしていた。それ以外は特に目立った動きはしてない」
「そうかい、それじゃあ次はあたい達だね。キンメキラタウンは今もムラキ様が治めてるよ。町の人達は何とか外に出ないようにしているけど、すでにガイスの件を知っている者も何かいて不安に思ってる人が増えて来たね」
「偽物の王が居ない町の人達は何処からその情報を仕入れてるんだろうね」
「おそらくわざと情報を流している者が居るんだろうな。ガイスの差し金だろう」
そう言ってマイトの疑問をサザミは確信するかのように言い切った。
どうやらムラキはちゃんと町の人達を守っているみたいだな。
「それじゃあ次は私達ですね!お姉さま私からでいいでしょうか」
「ええ、任せたわよ」
「はい、ウォータープラメントでは現在も城では仲間を募っています。それに強力な魔法使いが仲間として加わっていました。恐らくランキング1位の方たちだと思います」
「期限も近づいきてほとんどの奴らがガイスの思想に共感したみたいだな。こりゃ、確定だな!」
「確定?何がだ?」
すると元十二魔導士の雰囲気が一気に暗くなる。
何だ何か変なことを言ってしまったか。
「俺達が記憶を取り戻して真っ先に思った事は奴らは正しかっただ」
「奴らとは誰ですか?」
「黒の魔法使いよ。あいつらの考えに同調するのは癪だけど今思えば今の私達を同じ考えを持ってたの」
「それって半獣を皆殺しにした方が良いってこと?」
「それは言い方が悪いね。別にあたい達は異常者じゃないよ。同じ考えって言うのはガイスの危険性さ」
「ガイスの危険性……でも黒の魔法使いはそんなこと言ってなかったぞ」
「言えなかったんだよ。ガルア様が居たからな」
するとその発言をしたハイトに皆の視線が一斉に集まる。
何だ、ハイトは何かまずい事を言ったのか。
「ガルアの事を様で呼ぶな。あいつはもう敵だ。そう言っただろ」
「待てよ、ガルアは――――――」
「あいつはガイスの側についた。その時点で奴は敵だ。いや、今もガイス側に居るのなら敵だ」
何だ今の言い方、何か含みがあるような。
「実は俺達は元々ガイス側の人間だったんだ。記憶を取り戻した時にそれを思い出したんだよ」
「ガイス側の人間……」
「ていうか、勝手に一括りにされてるが俺は違うぞ。俺は仕方なく入ったからな!」
そう言ってガイは自信満々に言い切った。
そう言えばあいつは途中からだったな。
「まあ一部例外は要るけどほとんどがそうだね。昔の歴史をお前さんらは知ってるかい?」
「確かガイス派とゼット派で分かれてたのよね」
「昔は変化を求めたのよ。ずっとこの島で一生を終えるのは嫌だったし、私を売ったあいつらに仕返ししたかったしね」
そう言ってピンカは拳をぶつける。
そうかこの人達も元々普通の人間で売られたり攫われたりしてここに来たんだもんな。
そりゃあこの人達の性格からしてみればやられたらやり返しを必ずしそうだよな。
「俺達はガイス派でゼット派の奴と敵対していた。何度か戦ったこともある。だがある日ゼット派の連中のほとんどが姿を消した。これの意味、お前なら分かるだろ」
サザミはそう言って俺の方を見て来る。
ゼット派が消えたという事は今この島に居るのは。
「ほとんどがガイス派の人達ってことか」
「え、それってガイスを敵にしたら島の人達と戦うってこと!?」
「そう言う事になりますね。なるほど、だから黒の魔法使いは半獣を殺したかったんですね」
「そう言う事だな!あいつらは俺達よりも先に記憶を取り戻してやがったんだ!」
「ああ、今ならあいつらの言葉の意味は分かるぞ。黒の魔法使いはガイスが復活することですべての半獣が味方に付くのを恐れていた。だからこそ最悪の事態になる前にすべての半獣を殺したがっていたんだろうな」
「その言い方だと黒の魔法使いはゼット側ってことか?」
「確証は出来ないけどそれは大いにあり得るね」
そうか、黒の魔法使いは警告をしてくれていたのか。
たしかにそう考えればあいつらの言葉に意味も理解出来る。
そうなると俺はガイスの手助けをしたことになる。
「だが俺達がガイスを殺せば結果は変わらない」
「そうだよ、俺達がしたことは間違いじゃなかった。それを証明する為に俺達はガイスを殺すと決めたんだから。それに俺達の王が愛したこの町を守るためにも、ね」
そう言ってイナミは力強く拳を握る。
それを見てピンカは突然イナミの頭を殴った。
「いたっ!何するんだよピンカ!」
「ムカついたから殴った」
「そんな理不尽な……」
「ていうかそんな事いちいち言う必要ないのよ。私達はただ自分たちの町を守れればそれでいいの。他の町なんて知ったこっちゃないわよ」
「またピンカそう言う事を……」
「良いんじゃないかな。俺達が変われたのも王のおかげだし、自分たちの王を奪った仕返しはきっちりと返したいからね」
そう言ってマイトは笑みを浮かべながら言葉には決意が込められていた。
そっか、そうだよな皆大切な王を失ってるんだよな。
でも、俺は……
「それじゃあ、情報交換も済ませたことだし早速ここの役割についての説明を――――――」
「ちょっと待ってくれないか!」
「今から重要な話をする所よ。個人的な質問は後にして」
「大切な話なんです」
「いいだろう、話してみろ」
反対されるのは分かってる。
だけど俺は見逃すことは出来ない。
「助けたい人が居るんだ」
「助けたい人ですか、それって誰何ですか?」
「ガルアを助けたいんだ!」




