その二十八 王不在のカルシナシティ
「起きるのじゃー!朝じゃぞー!」
デビの声が聞こえてきて思わず目が覚める。
ああ、もう朝か。
起き上がろうとした時肩に重い物が乗っかっている感覚がしてそちらを向くと、そこにはミノルが寄りかかっていた。
そういえば、あのあと2人で色々と話してて気が付いたら寝てたのか。
「おやおやおや、どうしてここで寝てるんですかお二人さん?」
「え?リドル!あ、いやこれには色々とあってだな!」
「ん?ふあーあれもう朝になったの?」
俺が動いたことにより衝撃でミノルが目を覚ます。
寝起きだからか数秒呆けていいたがその後状況を理解して俺と同じように慌て始める。
「ちょっと待ってリドル、これには訳があって」
「何のわけじゃ。2人でこそこそと寝ていたとは、羨ましいのじゃ」
「違うのデビちゃん、理由を説明させて」
「そうじゃのう、説明してくれないかお主らの関係性を」
「っそうね、私達付き合うことになったの!」
そう言ってミノルは俺の腕を掴んで寄り添ってくる。
余りにも呆気なくミノルが言ってしまった事で俺は驚いてミノルの方を見る。
「おい、そんなさらっと言っていいのかよ。もうちょっと何かあるだろう」
「別にいいでしょ。どんな風に言おうが内容は変わらないんだから。それに仲間なんだしね」
「そっか、そうだな。まあそのまんまだ、俺はミノルと付き合うことになったからそれでもこれからも冒険は続けるつもりだぞ」
「はあ、そうかお主とミノルがか残念じゃとても残念じゃ。お主がうだうだしている所を突いて既成事実を作ろうと思っていたのに」
「お前何しようとしてたんだよ」
「まっ仕方ないのう。さすがの妾も付き合ったとなれば手は出せんのじゃ。やりおったのうミノル!」
そう言ってデビは何故か嬉しそうにミノルの頭を乱暴に撫でる。
「ふふっありがとうデビちゃん」
「おい、恋敵にありがとうとはどういう煽りじゃ」
「へ!いやそう言う意味で言ったわけじゃなくて」
「おいデビ、ミノルをからかうなよ。ミノルもそんな動揺するな、あいつはちゃんと分かってるだろうし」
「もう、デビちゃんの意地悪」
そんな二人の様子を見てリドルが満足そうに微笑んだ。
「これでもう目標に集中できますね。かつさんもここからは真剣な場面が多くなると思うのでいちゃいちゃはほどほどにしてくださいね」
「しねえよ!」
「うーん、何か気持ち悪い……」
そう言ってアイラがフラフラとした足取りで起きて来る。
「大丈夫ですか?体調が悪いんですか?」
「頭が痛いのそれに吐き気も」
「それは大変ですね。もしかしたら病気かもしれません。すぐに薬を調合してきます!」
「ちょっと待ってリドル。昨日気になることがあったの。何故か酒を飲んでないのに酔ったように体がポカポカして気分が高揚したのよね」
「え?お酒は出した覚えがありませんが。あっちょっと待ってください、もしかすると人間だけにしか作用しない成分があったかもしれませんね。僕達は特に変化はありませんし、昨日使った食材の中に人間が食べると酒を飲んだような酔ってしまう物があったかもしれません」
「じゃあアイラのその症状は二日酔いってことか?」
アイラは気持ち悪そうにしながらも空をぼーっと眺めていた。
「人間と半獣は似ていると思っていましたが、もしかするともう別の生き物なのかもしれませんね」
「まあ、まだ断定は出来ないけどたしかにそうかもしれないな」
「今後は食糧もしっかりと厳選した方が良いみたいですね。僕たち半獣にとっては無害な物も最悪の場合人間が食べれば死んでしまう可能性もありますから」
「そうだな」
リドルはアイラを介抱をするために寄り添っていた。
俺達は旅立つ準備をするために荷物をまとめ始める。
そして持って行く荷物をまとめ終わるといよいよ洞窟を出ようとしていた。
「カルシナシティまであと少しです。皆さん最後まで頑張って行きましょう」
「「「「おーーーー!!!!」」」」
こうして俺達は再び歩き出した。
その間に着々と俺達は追い詰められていると知らずに。
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とある村
「うわああああ!やめてくれー!」
「どうしてこんなことをするんだよ!」
村の中では大勢の人々が泣き叫びモンスターから逃げていた。
次々と殺されていき地獄と化すなか村の人達はたしかに聞いた。
「恨め恨め!俺達は最低最悪の極悪集団なんだよ!」
「そうだそうだ!俺達は追われてるんだ、ここの食料を全部貰っていくっす!」
「食料なら渡す!だからこのモンスターを止めてくれー!」
「何言ってるんだ。食料以上に俺達はお前らの叫び声や苦しむ姿が大好物なのさ!それだけでご飯3杯は行けるほどにな」
「極悪すぎて俺までビビって来たっすよ!」
その2人組は叫び声を上げて行く村を見ろしながらも笑いながらそんな言葉を言い放つ。
「俺達が一体何したって言うんだ!お前らは何者なんだよ!」
「俺か?俺の名は絶対かつだ!天下に轟く大悪党、逆らう奴らは皆殺しだ!よーく覚えとけよ!そして逃げてこの悪行をこの島に知らせろー!」
そう叫びながら絶対かつと名乗る男は高笑いを上げる。
「はあはあ、教えないと。早くみんなに伝えないと、あいつを殺してくれる人を探すんだ!」
村から逃げた人々はその男に恨みを覚えながら助けを呼ぶために走り始めた。
数時間後かつ達はようやくこの目でカルシナシティを捉えられるほどに近づいていた。
「ようやく見えて来たなここまで長い旅だった」
「そうですね、これでも早い方ですよ。途中おんぶでさらに早く移動できたのが良かったですね」
「おお、カルシナシティは久しぶりじゃのう。またカジノをやってみたいのじゃ」
「デビちゃん遊びに行くわけじゃないんだからね」
「あれがカルシナシティどんな場所なんだろう」
俺達はそれぞれの思いを胸にカルシナシティへと歩を進めていく。
かなり近づいたところで岩陰に隠れて俺達は様子を見る。
「どうやらカルシナシティに入るための門には警備は居ないようですね」
「ていうかそもそもカルシナシティには王が居ないんだろ。だったら今は誰が仕切ってるんだ」
「現在は元十二魔導士のマイトさんが仕切っています。ですが記憶の蘇りやガイスの件でほとんど無法地帯とかしている様です」
「なるほど、それならこの町に入るのは簡単だな」
「それじゃあ、早く行きましょう」
俺達はすぐにカルシナシティへと足を踏み入れる。
だがそこにはかつての輝かしい街並みとは真逆になっていた。
人々には活気が無く、お店もほとんど営業していなく当然カジノ店も閉まっていた。
「これが王が居なくなった町ですか」
「随分と変わっちゃったわね」
「カジノはもう出来ないのか。残念じゃのう」
「リドル、何処に行けばいいんだ」
「城で待っていると言っていました。こっちです」
俺達はリドルの後を追っていく。
周りを見渡しても俺達に興味を抱く者は居なくみな自分の事で精いっぱいと言った所だ。
「俺達はもうこれ以上待てない!早急に町の外出を許可しろ!」
「ガイス様の思想に我らも賛同すべきだ!」
「ガイス様こそ真の王!僕らを導く王なのです!」
ていうか、変な奴らも出て来てるなマジで無法地帯じゃねえか。
これをマイトは対応しないのか。
俺達は周りを警戒しながらも城の前まで来ていた。
だが城には先程と同じような不満を持った人たちが溢れかえっていた。
「風間さま何処に行ったんですか!」
「俺達は一体どうなるんだよ!」
「ガイス様の仲間になる許可を何故出してくれないのですか!このままでは僕らは途方に暮れてしまう!」
「王が居なくなったことで誰に着いて行けばいいのか分からなくなってしまったのね」
「すごい形相、でもかわいそう」
「アイラ、見なくて大丈夫です。こっちです秘密の入り口がありますから」
そう言ってリドルは人々が集まっている場所とは反対の方向に進む。
そして城の裏側に回ると足を止めた。
「確かここら辺にあった気が……あっありました!」
リドルは草むらをガサゴソと調べていると何かを見つけたのか、それを押した。
するとその瞬間地面が何故か空いた。
「は?はあああああああ!?」
そして俺達はそのまま真っ逆さまに落ちて行った。




