その二十七 告白
「なあこのきのこ食えるのか?」
「ああ、それはいいですね。スープの材料に使えます、たくさん取りましょうか」
「リドルーこの木に生えてる木の実はどうかな?」
「それもいいですね。実は甘く果汁が多いのでジュースにも出来ますし、たくさん取りましょうか」
俺達は近くに生えている食べられる物を片っ端から取って行っていた。
それにしてもリドルの食べられるものと食べられないものの見極めがしっかり出来てる所をみると、よほどのサバイバルをして来たんだろうな。
俺は両手いっぱいに食料を持ってリドルの元に戻る。
「かなり取れたな。どうせならリュックとか持って行った方がよかったか?」
「普通ならこれで十分ですけどデビさんが居ますからね。でも取りすぎるのも良くありませんからここらへんにしておきましょうか」
「だな、アイラは大丈夫か?そんなにいっぱい抱えられるか、主そうだったら何個か持つぞ」
「ありがとう、でも大丈夫」
「そうですよ、かつさん。アイラの荷物持つは僕ですからね」
そう言ってリドルはすぐさまアイラが抱えている食料を代わりに持つ。
「そう言う意味で言ったわけじゃないんだけど、ありがとうリドル」
「それじゃあ戻るか。あいつら大丈夫だろうな」
「心配し過ぎですよ。仲間なんですからそんな事にはなりませんよ」
「まあそれは分かってるんだけどな」
何かいつもと様子が違うんだよな。
デビがいつも以上にミノルに突っかかってるみたいだし。
まあでもさすがに喧嘩まではいか無いよな。
……行かないよな?
俺達はミノルとデビが待つ洞窟へと戻って行った。
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「おーい戻ったぞー!」
「あの時もそうじゃぞ。妾が辛いときに声を掛けてくれたのじゃ」
「私だってそうよ。本当に辛いときいつも支えてくれた物」
えーっとこれはどういう状況ぞ。
見た感じ険悪な雰囲気はなくなってるな、ていうかむしろ盛り上がってないか。
「ただいま戻りました」
「あ、お帰り!」
「遅いぞ!腹が減って死にそうじゃ!」
「お前、あんだけ食ってもう腹減ったのかよ。とりあえずこれだけの食料は集まったから、後は料理するだけは」
俺は持って来た食料をデビたちの前に出す。
「うーん、ちと少なくないか?」
「お前の基準で取ったら森中の果物やキノコが無くなるよ。今日はこれで我慢しろ」
「安心してください。色々と工夫して作りますから、それじゃあ早速始めましょうか」
そう言ってリドルは早速調理に取り掛かった。
俺達も少しでもリドルの役に立つべく、細かな作業を手伝った。
それにより約一時間後、洞窟の中から美味しそうな匂いが充満していた。
「かんせーい!すごいなリドル、ほとんど変わらない食材なのにこんなに作る何て」
目の前には様々なキノコと果物の料理が並べられる。
「かなり工夫しましたからね。それじゃあデビさんのよだれの量も増えたので早速食べましょうか」
「やっとか待ちくたびれたぞ!」
「それじゃあ、早速いただきます!」
「「「「いただきまーす!!!!」」」」
俺達は腹を満たすために一気のその料理を食べ始めた。
「上手いな!このきのこ焼きも果物甘さと相まって抜群に美味しいぞ!」
「このキノコスープも体に染みわたるわねえ」
「食べられそうな草も使っているのでそれも相性抜群ですよ」
「美味い美味いのう!」
しばらくご飯を食べているとリドルが真剣な口調で話を切り出した。
「先程の出来事ですけど、皆さんは違和感を覚えませんでしたが」
「ああ、村で起きたモンスター事件の事だろ。あれは確実に俺達をはめるために用意された物だろうな。そう言えばあの荷物についてまだ詳しく聞いてなかったな。お前らはどうしてあれを運んでたんだ?」
「そうね、経緯はかつとデビちゃんが居なくなったあとの話よ。2人を追いかけようとした時、重そうな荷物を運んでいる老人と出くわしたの。近くの村までこの荷物を運ばなきゃならないと言ってたから、私達はそれを手伝ったの」
「今思えばあの老人も僕達をはめるために用意した物でしょうね。いつの間にか消えてましたし」
「でもどうしてそんな事をしたの?」
「決まってる。あの2人組ニュートとザックと言ったか?確かネッパニンスから警備で来たって言ってたよな。明らかに胡散臭い、十中八九逃げた俺達を追いかけて来たんだろう」
「あの態度を見るにあの時の老人もそいつらの仲間でしょうね。となると村を襲撃させたモンスターもそいつらが用意した物でしょう」
「つまりあやつらは妾達を非道な集団にさせることが目的なのか?その理由は何じゃ?」
デビは丸焼きにしたキノコを頬張りながら疑問点を口にする。
「まあ考えられる理由としては俺達を悪者扱いすることで俺達を殺すことに正当性を持たせるとか」
「もしくは居場所を無くさせ自由に動けないようにさせるかですかね。カノエ様の偽物がガイスの仲間なら僕達の事をよく思ってないでしょうし、邪魔させないように行動を制限させてるのかもしれませんね」
「厄介な問題を押し付けらたものね、ヒック」
「ん?ミノル大丈夫か?顔が赤いけど」
「え、そうかしら?何だか体がポカポカしてくるのよね」
「疲れてるんでしょうか。もう横になった方が良いですよ、今体調を崩しても回復のポーションをすぐ調達は出来ませんから」
「そんね、それじゃあお先に寝るわね」
そう言ってミノルはフラフラとした足取りでテントの中で眠った。
「これから先の行動にもかなり支障が出ますね。このまま誤解を解かなければもしかするとお尋ね者にされるかもしれませんよ」
「まあ実際に無断で町から出たのは事実だしな。でも今は先に進んだ方が良いだろう。一秒でも早く仲間を増やしたいからな」
「そうですね、相手は強大な分心強い仲間が必要です」
「妾が居ればすべての問題は解決じゃぞ」
「それをしてくれたら楽だけどな。まあでも実際お前らが居てくれて心強いよ。ありがとな」
「いまさら何を言ってるんですか、そんなの当たり前ですよ。だから感謝を言う必要はありません」
「そうだったな、あれ?」
その時リドルの横に居たアイラがリドルの肩に寄りかかる。
寝息を立てているところを見ると、どうやら寝落ちしてしまったようだ。
「今日は色々ありましたからね。僕はアイラを寝床に寝かせてきますね」
「おう」
リドルはアイラをお姫様抱っこする。
するとリドルが突然足を止めてこちらに振り向いた。
「僕は今幸せです。皆さんと会えて、そしてアイラともで会えた。だから僕はこの幸せを命がけで守ります。この世界は後悔する事ばかりですが、だからこそ後悔しないように生きようと思いました。かつさんもそうでしょ?」
「そうだな」
「それじゃあ、寝かせてきますね」
そう言ってリドルはテントにアイラを連れて行った。
後悔しない生き方か、そうだなリドルの言う通りだ。
俺はいま迷っているこの幸せを守るべきかそれとも今までも幸せを取り戻すのか。
どちらも俺にとっては大切な場所になってしまった。
「妾も後悔しない選択をするつもりじゃ。だからここに戻って来たんじゃぞ」
「デビ?」
「お主は目の前の幸せを掴まないのか?妾はお主と一緒に居られて幸せじゃ、じゃが今はそれ以上を望んでいる。お主はこれ以上を望まないのか?」
「今の幸せ以上……デビもしかしてお前」
「それ以上言う出ない。言葉で言わなくてももう答えは分かっておる。だから言葉にはしないでくれ」
「俺はお前と出会えてよかったよ」
「そうか、妾はお主以上にそう思っているぞ。何だか腹も膨れて来たしもう寝るのじゃ!」
そう言ってデビは洞窟の端っこで背を向けて寝てしまった。
デビありがとな。
決めたよ、俺。
今言うべきことじゃないと思うけど、明日になったらミノルに告白するよ。
今度はちゃんとな。
「それじゃあ、かつさん僕達も寝ましょうか」
「そうだな」
俺達は焚火の火を消して、そのまま眠りについた。
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「寝付けねえ……」
俺は洞窟で眠ろうとしたが中々眠ることが出来ず、外に出て星空を見ていた。
この先また生きるか死ぬかの戦いが起きるんだよな。
だったら言いたい事ははっきりすべきだ。
後悔はしたくないし、もう誰も死なせたくない。
「かつ……」
「っミノル?どうしたんだよ、お前も寝付け、うわっ!」
その時、ミノルが突然覆いかぶさって来た。
それにより思わずバランスを崩してミノルと顔がくっ付くほど近くなる。
「み、ミノルさん?どうしたのかなぁ」
「私だってやる時はやるのよ」
「へ?何を言ってちょ、まっ!?」
その時ミノルが一気に顔を近づけてきた。
まずい、このままだとキスしてしまう!
僕は全力で顔を逸らして、何とかキスされないように抵抗する。
「何で避けるのよ!私とキスしたくないの!」
「ミノルお前おかしいぞ!顔も赤いし、ていうかお前酔ってないか!」
何となくこのノリはミノルが酒を飲んだ時に見られる物だ。
でも酒なんて飲んでなかったよな。
もしかしてキノコが原因か!
「良いから私とキスしないさいよ!」
「落ち着けミノル!とにかくよい覚ましだ。水を飲め!」
俺はミノルを引きはがすと無理やりにでも水を飲まして、夜風に当たらして。
「ごめんなさい、私とんでもない事をしてたわよね」
「別にいいよ。ミノルの酒癖の悪さは知ってるからさ」
「うう、どうして酔ったのかしら」
「まっとりあえずさ、今日はもう寝ようぜ。ミノルも疲れてるだろうしさ。それにこれからもっと忙しくなるし」
「そうね、そうよね」
俺はミノルの手を取って立たせる。
告白は明日だ、今はこの気持ちを抑えておこう。
「ねえ、かつ」
「ん?どうし——————っ!」
俺が後ろを向いた瞬間、ミノルの顔が一気に近づいて来て気付いた時には唇が触れていた。
数秒間が途方もなく続いたような気がして、唇が離れてからもぼーっとしていた。
「キス、しちゃったね」
「お、おおおおおお前!まさかまだ酔ってるんじゃ!?」
「酔ってないわよ!これは私の気持ち!ずっと抑え込んでたけど、もう我慢できないの!」
「ミノル……」
「両思いだって分かって嬉しくて幸せで満足してたけど、でも今はそれ以上の幸せを求めてしまったの。ただの仲間としてずっと居たいと思う以上にかつの一番大切な人になってこの先ずっと居たいの!だってかつが大好きだから、だから教えてかつ。かつはこの先もずっと居てくれるの?」
「俺は……家族が大切だ。クソみたいな日常だったけど、家族の事は大事に思ってる。育ててくれた恩もある。せめてお礼は言いたいんだ」
「そうだよね、やっぱりかつは……」
「だけどそれ以上に大切な人が出来た世界を離れるわけには行かないよな」
「え?それって……」
俺はミノルと視線を合わせる。
大事なことを言うからだ。
「ミノル俺から言わせて欲しい。俺もミノルが大好きだ。だからミノルこれから先も一緒に居て欲しい。俺と付き合ってくれないか?」
「っうん!こちらこそよろしくね!」
そう言って俺達は満天の星空の中抱き合った。
これが俺の答えだ。




