その二十六 恋のライバル
「はあ、はあここまで行けば追って来れないだろう」
俺達は村から遠ざかり見えなくなってきたところで足を止めた。
するとミノルとアイラが疲れ切ったようにして地面に尻もちを付いた。
「おい、大丈夫か」
「ごめん、ちょっと休ませて……」
「はあ、はあ、さすがに一歩も動けない……」
「仕方ありませんよ。今日の所はここらへんで野宿しましょう。幸い近くに洞窟も見えますし、あの中で夜を明かしましょうか」
リドルが指差した方向には確かに丁度良く空間が空いている洞窟が見えた。
「それじゃあ、中にモンスターが居ないか見て来るよ」
「居た方が食料にもなるので良いんですけどね。よろしくお願いします」
「妾も付いて行くのじゃ。お主に何か合ってはいかんからのう」
「ちょ、ちょっと待って…私も行く」
「いやいやミノルは休んでろよ。ていうか休みたいんだろ?」
「そうじゃ、しっかり休んでおくのじゃ。安心しろ、かつは妾がしっかりぴったりくっついて守るからのう」
そういうとデビは俺の腕に手を回してきてぴったりとくっ付いて来る。
「動きにくいから離れろよ」
「何を言っておるのじゃ。嬉しい癖に」
「な訳ねえだろうが。ほら遊んでないで行くぞ!」
俺はデビの腕を振り払って一足先に洞窟の中へと入っていく。
だがその中は明かりが無く真っ暗だった。
「さすがに暗いな。とりあえず明るくするか」
俺はファイヤで周りを照らすその瞬間、その洞窟の中がはっきりと見えた。
そこにある死体も。
「な、何だこれ!」
そこには食い荒らされたモンスターの遺体が残されていた。
まさか誰かがここでこのモンスターを食っていたのか。
するとデビが臆することなくその死体へと近付いて行く。
「どうやらモンスターに食われたようじゃな。ほら見るのじゃ、乱暴な食い方じゃが上手い所は根こそぎ食われておる。歯形も見えるし、ここでモンスターが獲物を食べたのは明らかじゃな」
「へえ、ていうかよく見れるなお前」
「地獄ではこんなもんじゃないぞ。それよりどうするのじゃ?見る限り食われたのは最近みたいじゃぞ。もしかしたらここはモンスターの巣かもしれん」
さらに周りを火で照らすが、これ言って何かいるわけでもなく。
すぐに行き止まりになってしまった。
「かもな。でもみた所これ以上奥はないみたいだし、そこまで深くはないみたいだ。モンスターが居ないことは明白だ。まっ今は狩りに出ているかもしれないけどな」
「それなら待ち伏せするか?妾なら余裕で倒せるぞ」
そう言ってデビはやる気満々に体を動かす。
「そりゃそうだろうけど、お前魔力大丈夫なのか?魔力消費見たところやばそうだけどな」
「まあそじゃのう。連発して使うとすぐに魔力切れにはなるぞ。じゃがその時は殴ればいいのじゃ!」
「脳筋魔法使いだな」
「お主もそうじゃろう」
そう言われると否定は出来ないな。
「とにかくリドルに聞いてみよう。こういうのはあいつの方が知ってそうだしな」
俺達は一旦リドルに報告するべき、洞窟を後にした。
「どうでしたかかつさん、誰も居ませんでしたが?」
「ああ、でもモンスターの死体があった。もしかしたら巣かもしれない」
「なるほど、その食われていたモンスターは足が四本で角が生えてましたか?」
「えっと……そうだな。折れてはいたけど確かに一本角が生えてた」
「それじゃあ、安全ですね。その死体を処理すれば夜を明かすのには問題ないですね」
「え?どうして安全なんだ?」
「そこは元々その死んでしまったモンスターの巣だったんですよ。恐らく腹を空かせた別のモンスターとたまたま遭遇してしまい、食べられてしまったんだと思います。だからまたモンスターが帰って来ることはないでしょう。それじゃあ、先に死体を処理してきますね」
そう言ってリドルは先に死体を処理しに洞窟の中へと入って行った。
すると地面に座っていたミノルがゆっくりと立ち上がった。
「やっと息が整って来たわ。ところでかつ、デビちゃんに何かされてない」
「いや、別に何もなかったけど。ていうかいい加減に喧嘩するのやめろよ」
「別に喧嘩してないわよ」
「そうじゃぞ、勝手にミノルが嫉妬しておるだけじゃ」
「なっ!?嫉妬してるわけないでしょ」
駄目だこいつら。
するとリドルが終わったのかこちらに戻って来る。
「無事に片付けたのでもう大丈夫ですよ」
「早かったな、ていうか片付けたってどうやって」
「もちろん魔法ですよ」
つまり細かく切り刻んで燃やしたってことね。
「何じゃ妾に任せれば灰すら残らんと言うのに」
「デビさんが魔法を放てばせっかくの洞窟も潰れてしまいますから。それじゃあ早速入りましょうか」
俺達はすぐに洞窟の中に入って行く。
既に焚火がたかれていた為、最初に入って来た時よりも中が明るくなっていた。
「想像してたよりは深くないのね」
「でもみんなで寝るのには十分だよ」
「たしかにそうですね。それじゃあ、先ずは食糧調達と行きましょうか」
そう言ってリドルは洞窟の中に荷物を置いて行く。
「体力を考えてデビさんとミノルさんはここに残ってください」
「え!私!?」
「なぜじゃ、妾にもモンスター狩りをさせるのじゃ!」
「大勢で移動する必要はありませんからね。荷物を見ておく人と何か合った時の為に戦える人が必要なんです。だからお二人に任せましたよ」
流石にこの二人を残すのは危険な気がする。
今はまだ仲直りしてないみたいだしな。
俺はさりげなくリドルに耳打ちをする。
「なあ、デビと俺を交代した方が良いんじゃないか。今の雰囲気を見るにその方が適切だと思うけど」
「どうしてですか?僕は平気だと思いますよ」
そう言ってリドルは満面の笑みを見せて来る。
こいつもしかして楽しんでやがるのか。
「それじゃあ、お任せしましたよ」
「ちょっと待ってよ!本当に私達が残るの!」
「それではかつさん。アイラ行きましょうか」
「う、うん」
「本当に大丈夫なのか……」
少しの不安を抱えながらデビとミノルを残して俺は食糧調達へと出かける。
「この先に食べられるキノコや木の実がある場所があるので行きましょうか」
「おいリドル、本当に良いのかよ。あいつら今険悪だぞ」
「そうなんですか。でも大丈夫ですよ、あの2人なら」
「それってどんな根拠だよ。女通しの喧嘩は複雑だって聞いたぞ。男の俺達には分からないんだよ。そうだよなアイラ」
「へ?いやあ、私はあんまりそう言うことしたことないから分からないな」
「男も女の関係ないですよ。仲間なんですから」
そう言ってリドルは目的の場所へと歩き出した。
仲間だからか、たしかにそうだな心配し過ぎるかもしれないな。
―――――――――――
気まずい、ものすごーく気まずい。
デビちゃんとこんな風にはなりたくないから早く仲直りしたいけど、何でかかつの事になると融通が利かなくなってしまう。
「暇じゃのう。ミノル、ケンカでもするか」
「どうしてそうなるのよ。デビちゃんと喧嘩できるわけないでしょ」
「それもそうじゃな。お主はただの人だしのう」
そう言ってデビちゃんは拳を握りるのをやめると再び焚火の前で足を広げて座る。
たしかにこのままじゃ暇ね、何か話すことを考えないと。
「お主はどうしたいのじゃ?」
「へ?」
「お主はあやつに気持ちを伝えないのか」
「えーっとそれは……」
さすがにもう想いを伝えたとは言えないわよね。
「何を渋っておるのじゃ。言いたい事があるならはっきりせい」
「え、別に何でもないわよ」
「なんじゃそりゃ。隠しても意味ないじゃろ。お主は何事もはっきりせんのう」
「何でもはっきりすればいいって問題じゃないでしょ」
「確かにそうじゃが、隠すという事は後ろめたさがあるという事じゃろ。お主が隠しているそれにはどんな後ろめたさがあるのじゃ?」
「え、そっそれは……」
うしろめたさ、私はこの想いにそんな事を感じてしまっているのかな。
この想いをみんなに打ち明けるのを怖がっているの?
私はでも別に皆の事を信じてないわけじゃない。
でも心の何処かでは思ってしまっているのかもしれない。
この想いをみんなに打ち明けた時、いつも通りじゃなくなるかもしれないと。
もしそうだとしたら私はどうすべきなの。
「はっきりせんのう。妾は真っ向から行くぞ。もしお主がうだうだとしておるのならあやつもそのうち折れてくれるかもしれんのう」
「っ!?それは駄目!」
「駄目と言われても妾は止まらないぞ」
「デビちゃんはどうしてそんな真っ直ぐぶつかれるの?失敗をどうして恐れないの?」
「失敗よりも妾は後悔の方が嫌じゃ。この想いはあやつに届けたい、遠回りではなく真っ向からな。それが大好きな人に対する最大の感謝じゃからじゃ。早々居ないじゃろ?すべてを捧げても良いと思ったやつと出会うのは」
「っ!そっか、そうだよね」
あの日私は満足していた。
両思いだと分かってだからこそもうこれで良いと思ってしまった。
だけどデビちゃんがかつにべたべたし始めてから、妙に胸がざわついた。
そうか、そう言う事だったんだね。
「デビちゃん、私ももう逃げないよ。デビちゃんが本気だからこそ、私も本気になれたの。この想いは誰にも負けたくない!だって私はかつが大好きだから!」
「いまさら言わなくても分かっておるのじゃ。じゃが、妾も負けんぞ。その本気の想いをお主がぶつけるまではな!」
ありがとねデビちゃん。
ずっとそれを教えようとしてたんだね。
本当にかつの事が好きなのにそれなのに私を鼓舞するようなことを言ってくれた。
本当にありがとう。
でもこの言葉はまだ言わないよ、だってデビちゃんは恋のライバルだから!
私は新たな覚悟を決めてかつの帰りを待つことにした。




