その二十四 森で泣いている少女
「おい待てよミノル!」
「来ないでよ!」
「いや、来ないでって今のお前を一人にするわけには行かないだろ」
「今は一人になりたいの!放っておいて!」
そう言ってミノルは俺を突き放そうとしてくる。
だがそれでも俺はミノルの元に近づいてその手を掴んだ。
するとミノルは俺の手を振り払おうとする。
「離してよ!」
「離さない。ミノル落ち着け、今の状況を考えてみろ。単独行動は危険だ、お前らしくないぞ」
「分かってるわよそれ位。今はそう言う事を考える時じゃないし、勝手な行動をするべきじゃない。全部分かってるけど、それでもこれだけは譲れなかったの!」
「ミノル……」
「いつもだったら皆の為にも気持ちを押し殺せた。だけどさっきの事はどうしても抑えきれなくて、気持ちが溢れてしまったの。分かってる。分かってるんだよ。こんなことしてる場合じゃないってでも、心が落ち着かないの」
今のミノルはいつものミノルとは違う。
感情が先走って自分でも制御できないんだ。
その原因は何となく分かってる、分かってるからこそどうするべきか分からない。
「ごめんなさい、もう大丈夫。目的地に向かいましょう。それが今最優先にするべきことだから」
「そうだな……」
「かつさーん!」
声のする方を見るとそこにはすでに荷物をまとめていたリドルたちの姿があった。
「おーい、ここだー!ほら、行くぞミノル」
「うん」
俺達はすぐにリドルたちと合流する。
だがミノルは先程の出来事があり少し気まずそうにしていた。
「それでは改めてカルシナシティまで行きましょうか」
「あの、皆さっきはごめんね。デビちゃんもね」
「私は全然気にしてませんよ」
「僕もです。まあデビさんは少し頬を膨らませていますが」
そう言ったりドルの視線の先には言った通り頬を膨らませているデビの姿があった。
「妾がその言葉だけで許されると思っておるのか。許してほしかったら行動で示すのじゃ!」
「おいデビ!」
「ミノルよ。お主が本気じゃないのなら妾が本気で行くぞ。覚悟するのじゃ!」
そう言ってデビはそのまま先に進んでいく。
「ミノル気にするなよ。あいつ引くに引けなくなっただけだろ」
「そうですよ。今はそれよりも優先すべきことがありますよね」
「分かってるわ」
何か微妙な空気になっちまったな。
少しの不安を抱えながら俺達は砂漠を抜ける為に歩き出す。
道中モンスターと戦いながらも何とか砂漠を抜けることが出来、ネッパニンスの服が熱くなってきたのでいつもの服に着替えて森の中を歩く。
「急に森の中に入ったわね。カルシナシティに近づいてるって事かしら」
「そうですね。このままのペースだとあと二日か三日で着きますね」
「ていうか道中の町に寄れたらこんなに疲れることも無いのにな」
「今は町に入れませんからね。私も足が付かれてきました」
「それは行けませんね。おんぶしましょうか」
「そう言う意味で言ったわけじゃないから、だからじりじりと近付いてこないで!」
と何気ない会話をしつつもあの2人はピりついてるんだよな。
デビとミノルは未だに仲直りしていないのか、二人の間には中々の空気感が漂っている。
「かつ、足が付かれてないか?妾もおんぶしてやるぞ」
「へ、いや大丈夫だよ」
「良いのじゃいいのじゃ気にする出ない。これを出来るのは妾くらいしかいないからのう」
「かつ!喉乾いたんじゃない、ほらこの木の実は果汁たっぷりで美味しいわよ。これくらいの気遣いが出来てこそよね」
「何じゃと!」
「何よ!」
そう言って2人はお互い睨み合う。
あーまずいな何とかしないと行けないんだろうけど女の喧嘩に巻き込まれるとろくな目に合わないって昼ドラで誰かが言ってたしな。
「ねえリドルあの2人止めなくていいの?」
「まあ、僕が介入したところで解決は難しそうですからね。かつさんに任せましょう」
「おい人任せにするなよ!」
「かつはどっちの方が助かるのじゃ!」
「かつ選んでよ!」
「いや、えっとそれは……」
「きゃあああああ!!」
その瞬間、森中に響き渡るほどの声が聞こえてくる。
「た、大変だ!誰かモンスターに襲われてるんだ!」
「ちょっかつ!」
俺はすぐさま声が聞こえてくる方へと走り出した。
たしかこの先に聞こえたような気がする。
その時森の中でその場で泣いている女の子の姿が見えた。
「君大丈夫?」
「っ!」
その場にいた少女はこちらを見て怯えている。
どうやらかなり恐ろしい目に合ったみたいだ、見たところ怪我はなさそうだな。
「大丈夫だよ、君を助けに来たんだ。俺の名前は絶対かつ君は?」
「わたしは……」
「見つけたのじゃ!」
その時上空からデビの声が聞こえてきた。
するとデビは翼をはやして俺の近くに着地した。
「いきなり走るんじゃないのじゃ。お主を見失うところじゃったぞ」
「ああ、ごめん」
「それでどうしたのじゃ?お主転んでおるが大丈夫か?」
デビが目の前で倒れてる女の子に手を伸ばそうとした時、何か視界の端っこで光った気がした。
今のは何だ?
「きゃああ、悪魔だああ!!」
「何じゃと?」
「助けてーーーー!!」
「あ、ちょっと待て!」
女の子は泣き叫びながら森の奥へと走ってしまった。
「まずいぞ、森の奥に行かれたらこっちも探せなくなる」
「あの娘、妾の事を悪魔と呼んだぞ。地獄の王なのに」
「そう言う問題かよ。早く追いかけるぞ」
そう言って俺達はすぐに走って行ってしまった女の子を追いかけて行った。




