その二十二 星に願いを
「ごちそうさま!ふぅ食った食った。意外とおいしかったな」
俺は膨れた腹を叩いて満足感に浸っていた。
そしてすぐにリドルは後片付けを始める。
「そうですね。でも他にも食材があればいろいろ工夫出来たいんですけど、さすがにここら辺には木の実も生えてませんでしたからね」
「たしかにそうだな。まっ美味しかったから何でもいいけど」
「リドル私も手伝うよ」
「ありがとうございますアイラ。それじゃあ、かつさんの元に食べ終わった食器を並べてください」
「え?何で俺に渡すんだよ」
「皿洗い係ですから」
そう言うと俺に周りに木の皿を並べて来る。
それはもう既にからっぽで肉残りかすがかすかに残っていた。
「俺の魔法を便利扱いするなよな。まあ別にいいけど」
俺は水の魔法を使って皿洗いを開始する。
何かこういうの昔を思い出すな。
段ボールハウスの時はこうして服とか洗ってたし、魔法って日常で使えたらマジで水道代要らずだから生きていけるよな。
まあ流石に家がないのは辛いけど。
「かつ、これもよろしくね」
「おう、そこに置いておいてくれ」
アイラは持って来た皿を置くとすぐに別の手伝いに行く。
俺は魔法で水を出すとすべての皿を綺麗にした。
我ながらレベル1の魔法は家事用だな。
「そういえば、今日寝る所ってここなの?」
ミノルが指差した方向には普通よりも少し大きめのテントが立てられていた。
「旅をしている時に買ったものですよ。ちょうど値引きしていたので大きめでしたが購入しました。結果的にはちょうどよかったですけどね」
「いやそう言う話じゃなくて、寝るところここしかないの?5人が寝るにしては狭すぎると思うんだけど。ねえ、アイラ?」
「でも詰めれば何とかなりそうかも。私身長低いし、ミノルも細い体してるから大丈夫!」
「そ、そうなのかしら」
心配そうにしているミノルにデビは肩を回す。
「何を心配しておるのじゃ。妾達は仲間じゃぞ、一つの寝床に集まるだけで何か起きるわけないじゃろ」
「それはどうかしら……」
まあミノルも言いたい事は分かる。
同姓ならまだしも異性でぎゅうぎゅうにして寝るのは少し抵抗があるのだろう。
まっ俺はそんな変なことは断じてしないから安心して欲しいがリドル辺りが何かやらかしそうだな。
「そうですよ、デビさんの言う通りです。それに寝る場所もそれぞれ端っこがミノルさんとアイラ、そして真ん中を僕たちに知れば問題はありません。もちろん、アイラの隣は僕でミノルさんの隣はかつさんで行きましょう」
「え!俺がミノルの隣なのか、まあ別に構わないけどミノルはアイラと一緒に寝たかったんじゃないか?」
俺は不安そうにミノルの方を向く。
だがミノルは特に嫌そうな顔をせずに一言呟いた。
「別にそれでいいわよ」
「え、いいの?」
「ちょっと待つのじゃ!妾の事を忘れておるぞ!」
「あ、すみません。デビさんは外で寝てください」
「なんじゃと!この地獄の王をのけ者にするとはいい度胸じゃの!寝床を掛けて勝負じゃ!」
そう言ってデビは鼻息を荒くしながらリドルの元に向かっていく。
だがリドルはいつもの笑みを見せると手をひらひらとさせた。
「戦いませんし、冗談ですよ。見回り要因として数えなかっただけです。僕とかつさんとデビさんで交代して見張りをするので、交代する時は空いてる所に寝てくださいという意味です。先程の話はデビさんが見張りをしている時の話ですから」
「なるほどそう言う事か。なら許すのじゃ」
「交代は2時間ずつにしましょう。デビさん、かつさん、僕の順番で回して行きましょう」
「じゃあ、明日はいつくらいに出発するの?」
「そうですね、太陽が完全に上った時に行きましょうか。その時は見張りをしている人が起こしに来てください」
「よし、それじゃあもう寝るか。デビ、見張り任せたぞ。何かあったらすぐに呼べよ」
「任せるのじゃ。見張りをしている時暇になったらそこら辺のモンスターで遊ぶのはありか?」
「危険なのでやめてください」
こうして俺達は何とか1日を無事に過ごすことが出来た。
そして俺達は先にテントの中に入り先に寝ることになった。
しばらくして寝息が聞こえてくる。
もう既に寝ている人もいるのか、ていうか俺はねられないんだけど!
ミノルの感触を右手に感じて眠れないんだけど!
目がすごくギンギン何だけど、これどうしよう!
やばい、明日も歩かなきゃいけないから早めに体力を回復する為にも寝ないといけないのに。
だけどこんなに近くでミノルが寝ているのに寝られるわけがない、ていうかリドルお前よく寝られるなアイラの事好きならもうちょっと意識しろよ。
横向いたらミノルの寝顔があると思うと余計寝られない。
こうなったら伝統的な睡眠方法、羊を数えるか。
羊が1匹、羊が2匹、羊が3匹、羊が4匹……ていうか何で羊なんだ?
こういうのは何故羊じゃなければいけないんだろうか、そもそも羊が睡眠に適している動物か。
よく寝る動物なら猫の方が良いんじゃないか、そっちの方が身近だし想像もしやすいだろう。
そうだ猫にしよう、猫にすればもっと眠くなるはずだ。
よーし、数えるぞ、ね——————
「おい、起きるのじゃ。交代じゃぞ」
そう言って目の前のデビが俺の頬をぺしぺしと叩いて来る。
いつの間にか交代の時間に来ていたらしい。
「あ、そうっすか」
「何じゃその言い方は。とにかく退くのじゃ妾の寝るスペースを作れ」
「分かったよ」
結局俺は一睡もすることなく交代をした。
外はまだ真っ暗だったが妙に生暖かい風が肌に触れる。
やはりネッパニンスの近くだからかまだ気温は高いみたいだな。
「それにしてもモンスターが居ないな……」
見晴らしは良いからいればすぐに分かるしな。
夜だからもうみんな寝てしまっているのだろうか。
だけど夜行性のモンスターも居るだろうし気は抜けないよな。
「にしても暇だな……」
満天の星空を見ているだけしか出来ないし、見張りだからそこら辺をうろうろしていることも出来ない。
マジで暇だな、デビが言ったようにモンスター討伐をして暇をつぶしたい気分だ。
そんな事を考えながら、ぼーっと夜空を眺めていると突然声が聞こえてきた。
「暇してるみたいですね」
「っ!り、リドルか。まだ交代の時間には早いだろ」
「そうですね。ですがデビさんがかつさんの寝ていた毛布の匂いを嗅いでいたのを見て、目が覚めてしまいました」
あいつ俺の寝てた場所でそんな事をしてたのかよ。
するとリドルが俺の隣に座って星空を眺めていた。
「綺麗ですね」
「そうだな」
「こんな綺麗な景色も場所によっては意味が変わって来るんですよ」
「どういう意味だ?」
するとリドルがこちらに視線を向けてきた。
俺もそれに気づいてリドルの方に視線を向ける。
「日本はどうですか?」
「え?」
「空を見上げる時そこに星空はありますか?」
「ああ、さすがにここまでではないけど見えるっちゃ見えるぞ」
「僕が居た島にも星空が見えました。でも僕が星空を見る理由は会いたい人に会いたいという願いです。僕は一度も星空を綺麗だとは思いませんでした」
たしか、リドルは孤児院に居たんだよな。
家事で両親を失っていたとも聞くし、もしかしてその会いたい人って両親の事か。
「この島に来てからもそうです。空を見上げる時はいつも願い事をしていました。会いたい人がまた増えましたから」
「それはサキン村事件の事か?」
「はい、僕にとっては家族ですから」
そう言ってリドルは再び星空を見上げた。
「でもさっき綺麗って言ったよな。それって願いが叶ったってことか」
「そうですね。星に願ったからかは分かりませんが、今はもう私欲ではなく純粋に星空を眺められます」
「てことは会えたのか?」
するとリドルが俺の質問に答えるわけもなく、テントへと視線を移す。
「まさか、お前がアイラを好きになった理由って……」
「はい、妹に似ているんです。年齢こそ違いますがあの時生き延びていればアイラみたいな雰囲気を持っていただろうなと思って。最初見た時は驚きましたよ。思わず妹の名前を呼んでしまって困惑させてしまいました」
「なるほどな、だったら付き合うっていうよりはお兄さんとして守りたいが勝つんじゃないか?」
「最初はそうでした。でも一緒に旅をしていくにつれて次第にアイラと言う人間にひかれて行きました。ですから今はアイラと言う人間が好きです。妹に似ているという事を抜きにして」
「そっか、よかったなリドル」
「はい!」
リドルは俺の言葉に満面の笑みで返した。
「あっもう交代の時間ですね」
「もうそんな時間か。でもいいのか?話に突き合せちまったけど。どうせなら、リドルの見張りの時間も起きてるぞ」
「良いんですか?正直な所そうしてくれると助かります」
そして俺達は次の交代時間まで一緒に話し合った。
そのおかげでリドルの事をもっと知れたような気がした。




