その一 連行
「あれ?お前こんなところで何やってるんだ」
俺がクラガと別れたすぐ後に知り合いに遭遇した。
「え、あっお前は確かガイか?」
「あ?お前なんで俺の名前知ってんだ?」
そう言ってガイは不思議そうに首をかしげる。
「え?いや、俺とお前は前に会ったことあるぞ。忘れたのか」
「う〜ん忘れた!俺弱いやつは覚えてないし」
「あ……そう」
あんな劇的な出会いをしたのに忘れるのか。
まあ本人が忘れたって言ってるんだから本当に覚えてないんだろう。
「じゃあ改めて自己紹介するよ。俺の名前は絶対かつ。まあ見れば分かるけど魔法使いをやってる」
「そうか、それよりも一体ここで何やってたんだ。ずいぶん荒れてるしそれに人倒れてるし」
「俺の名前には興味ないのねまあ俺的には嬉しいけど。えっと……ここで戦ってたんだよ。魔法使いと」
「魔法使いと戦ったのか!?」
「え、うん」
何だものすごく食い付きいいな。
俺の名前には全く興味になかったのに、何か調子狂うな。
「それでどういう魔法使いだ!」
「ちょ、ちょっと落ち着けって!」
「いいから早く!」
言っていいのかな。
いや別にいいんだろうけど黒の魔法使いってなんかやばい組織みたいだし、言ったら俺がそれに関わってるとか思われないかな。
俺はガイをチラッと見た。
ガイは早く教えろと言わんばかりにこちらをガン見している。
……しょうがない教えるか。
「黒い魔法使いって知ってるよな」
「ああ…」
「そのひとりと戦ってた。名前はトガだ」
「トガだって!?」
「えっそう――ぐえっ!?」
興奮しているのか俺のローブを思いっきり引っ張っている。
「そいつは今どこにいる!」
「ちょ―――首!首締まってる!」
「え、あ、すまん。つい興奮しちゃって」
そう言ってガイは掴んだローブをすぐに離した。
「はぁ……はぁ……殺されるかと思った」
俺は乱れたローブを綺麗に整える。
今後はモンスター以外にも注意しなきゃな。
「それでそいつは何処に行ったんだ」
「分からない。途中でクラガとか言う男が連れ去ったから――――」
「クラガがここに来たのか!?」
「ああそうだよ。ていうかさっきから耳元で叫ぶなよ。耳が痛くなる」
「すまん、ちょっと興奮しちゃって。でもクラガがここに来たのか。ん?待てよもしかして」
「ん?なにか気になることでもあるのか?おい、ちょっと聞いてるのか?もしも〜し、どうした急にぼーっとして」
「…………」
駄目だ完全に自分の世界に入ってる。
とりあえずもうクエストは完了したし、早くこの森を出るか。
俺は寝ているミノルを起こしに行った。
「おいミノル、起きろ〜もう行くぞ」
「むにゃむにゃ……あと5分だけ〜」
「あと5分じゃないよ。俺はもう1秒もここにいたくない。ほら起きろ」
俺はミノルの頬をペチペチ叩いた。
「ん……ふわぁ〜〜んーー、あれここどこ?」
目をこすりながら俺に尋ねてきた。
「寝ぼけてんのか。まだ森だよ。もう帰るぞ」
「あーーまだ森か〜。………え?森!」
「やっぱり寝ぼけてたか。もう帰るぞ。俺は早く出たい」
「分かってるわよ。完全に寝てたわ。えっと、あった!クエストの紙」
「それじゃあ帰るかって、ミノルはここが帰れる場所なのか」
「えっと……ちょっと待って」
そう言うとミノルはキョロキョロ辺りを見渡した。
しばらく周りを見渡してから確信がついたのか戻ってきた。
「うん!間違いないわ」
「今何を見てたんだ?」
「木よ。目印のため印を付けておいたの。ほらあそこ」
ミノルが指差した方向には木にバツ印が付いてあった。
「なるほど」
「それじゃあもう行きましょう」
「そうだな。ガイそれじゃあなって聞こえてないか」
俺はクエストの紙に文字を書いて地面に置いた。
〘クエスト終了を確認。テレポートを開始します〙
久しぶりにテレパシーのように脳内に直接聞こえる機械音だな。
そして、俺とミノルは飛ばされた。
「そういうことか!ということは……おい絶対かつ!俺と勝負しろ……てあれ?あいつどこ行った」
ガイがかつの方を向いた時には既にテレポートが完了していた。
――――――――――
魔法協会 扉前
「ふー疲れたー。当分は安全なクエストをやろう」
「そうね。結構体力使ったしね」
なんか魔法協会がいつもより静かだ。
俺はあまり大きい声を出さないようにミノルに耳打ちした。
「何かいつもより静かじゃないか」
「確かにそうね。何かあったのかしら」
すると目の前からキチッとした服を着こなしている女性が近付いてきた。
後ろには鎧を着た人が2人いた。
その女性が歩くのに合わせて皆前を開けている。
「何だあれ?どっかの偉い人か」
「知らないのかつ。あれ警察よ、警察」
「え!?この世界警察とか居るのか!?」
「当たり前でしょ。いなかったら治安悪過ぎじゃない」
確かに当たり前だよな。
確かによく見ると少し警察みたいな服装してるな。
やっぱりここの知識を付けるために1度図書館とか行って勉強するか。
「あなた名前は?」
そう言って俺の目の前で女性警察官が立ち止まったと同時に鋭い眼光がこちらに向く。
何かおっかないなこの人。
「名前は絶対かつ」
「そちらの方は?」
「ミノルです」
「あなた達は新種のモンスターのクエストをやりましたか」
「はい……」
何だもしかして黒の魔法使いについてか。
だとすると面倒くさいな。
絶対長い時間自重聴取されるじゃん。
「このモンスターに見覚えはありませんか」
懐から取り出した紙には新種のモンスターが書かれていた。
「見たことありますよ」
その瞬間周りがざわめき始めた。
何だ何だどうしたんだ?
「あなたはこのモンスターを見つけた後どうしました」
「倒しました」
その瞬間またさっきよりも外野の声が大きくなる。
どういうことだなんかまずい事でも言ったのか。
「倒したという事は、ちゃんとそのモンスターの一部を持ってきましたか」
「いやなんか跡形も無く、消えたみたいで」
「跡形もなく消えた!?」
「ええ、だよなミノル」
「そう……ね」
何だそのためらった言い方。
ハッキリ言えばいいのに。
「分かりました。やはりそうだったんですね」
「?何がですか」
すると腰から手錠のようなものを取り出した。
「え?あのそれは」
「17時20分重要モンスター殺害容疑で逮捕する!」
「へ?」
「え?」
気づいた時にはもう既に手錠が掛けられていた。
「連れてけ!」
「え!?ちょ、ちょっと待てどういうことだ!意味わからん!誰か、誰か助けてーーー!!」
「―――――っ!?かつ!ちょっと待って下さい!私も倒しました!だから私も連れてって」
「ミノル……」
なんて良い子なんだ!
こんな状況で助けてくれるなんて。
「そうですかなら……」
女性警察管は何やら後ろの人に指示を出している。
指示された鎧の人は後ろから機械を持ってきた。
「これでもさっきの事言えますか?」
「それは……」
その機械は見覚えがある。
俺がこの異世界生活を終了間際まで追い詰めた機械だ。
「嘘発見器」
「そうこの嘘発見器ならあなたの証言が本当かどうか分かります」
「………分かったわ」
いやまずいだろ。
ミノルは直接的には攻撃して無いつまり嘘だとすぐバレる。
「いいわ。いつでも質問して来て」
「結構自信たっぷりですね。ためらうかと思いましたが分かりました」
確かにすごい自信だ。
何か秘策があるのか。
「それでは質問します。あなたは新種のモンスター殺しましたか」
「はい!」
かなり自信満々に言ったな。
これはもしかして本当に……
皆の視線が機械に集まる。
「こっこれは!赤ですね」
「全然普通じゃんかよーー!」
「連れてけ!」
「離せーーー俺は無実だー!」
「かつーー!!」
こうして俺は為す術なく連れてかれた。




