その二十 おんぶ旅
「マジかよリドル、たしかにすごい嬉しいし、そんな風に思ってくれてたことも含めてだ。でも、熟練度ってそう簡単には上げられないよな。同じ魔法を何度も使ってその魔法の理解を深めて行けばいくほど、伸びていく物だろ。それを風の魔法全てって大変だっただろ」
「そうですね。大変なんて言葉じゃ言い表せないほどでした。ネッパニンスでの修行を思い出すと体から変な汗がにじみ出て来て、体が小刻みに震えますからね」
そんな事を言いながらリドルの顔は真っ青になり、小刻みに震えていた。
本当に大変だったんだな。
「ていうか、リドルは全ての風の魔法を極めたのよね。だったら魔力レベルは十ってこと?」
「はい、カノエ様のご厚意ですぐに試験を受けさせてもらったんです。本当はちゃんとした準備をしてから試験は受ける物ですが、失敗してもまたすぐに受けられるという事でギリギリでしたが何回も繰り返して受かることが出来ました。そのあとはひたすら修行ですね」
「リドルかなり厳しい修行を付けさせてもらってて、それを毎日してたから死んじゃうかと思ってた」
「なんだかんだ言ってアイラは毎日僕の世話をしてくれましたからね」
「その話は良いから!」
その時からリドルはアイラとそう言う関係だったのか。
まあアイラ自身それを認めてない節があるけど。
「それは分かったけど私達いつまでおぶられなきゃいけないの」
「何を言っておるのじゃ。元々は目的地を付くための時間短縮の為じゃろ。それをあのバカ者に止められただけじゃ」
「まあ確かにそうなんだけど、この恰好はどうにならないのかと言う話で」
「まっいいじゃないですか。デビさんはもちろんなことかつさんも体力を節約できますしね。交代でずっと走り続けることが出来ますよ」
「きゃあ!?ちょっとリドル、いきなりおんぶしないでよ!」
よく分からないが本当にこれしか出来なさそうだな。
まあリドル自身アイラをおんぶしたいだけかもしれないが。
「それじゃあ捕まっておれ!一瞬にして目的地に到着するぞ!」
「やめろ(て)デビ(ちゃん)!!」
「ええ、何で止めるのじゃ。お主らも早く付きたいじゃろ」
「お前のスピードで行ったら体が壊れるから!ていうかミノルはもうただの人間なんだぞ!」
「そ、そうよデビちゃん!だからスピードはリドルに合わせてくれる」
「ちぇ仕方ないのう。ほらリドルさっさと走り始めるのじゃ」
「分かりました、それじゃあ僕に付いて来てくださいね」
そう言ってリドルは走り始めた。
それに合わせてデビも走り出す、適切なスピードで目的地へと向かって行った。
道中何度かモンスターに出くわしたり、おんぶする人たちを交代しながら何とかネッパニンス地帯を抜けることに成功した。
「ここからは少し遠回りになりますが、砂漠地帯から行きましょう。すこし熱いですがネッパニンスほどじゃありません」
「ていうかよく考えたら一つの島でこんなに気候が変化してるのはおかしいよな。異常気象すぎるだろ」
「昔はそんなことなかったんですけどね。ある日突然気候のバランスが崩れて一部だけ温度が急激に低くなったり、上がったりしておかしくなってしまったんです」
「モンスターの仕業とかかしら、気候を変化させるほどのモンスターが居るとは思いたくないけど」
「そんな奴が居ても妾は一発で倒してやるぞ」
そう言ってデビは俺の背中の腕で自慢げに語る。
ていうかこいつ何で俺がおんぶしているのだろう。
こいつが一番疲れてないだろうに。
「そろそろ日が暮れてきましたね。今日はこの辺で寝泊まりしましょうか」
「ここでか?見晴らしがよすぎてモンスターに見つかりそうだけどな」
「それなら交代で見張りをしましょう。僕とかつさんとデビさんで、もちろんお二人は休んでください」
「ごめんなさい、本当だったら私も力に成れたのに。その代わりそれ以外の事なら力になるから」
「私も力以外でなら何とか頑張るわ。そうだ、寝床を作るわね。ミノルも手伝ってくれる?」
「ええ、もちろんよ」
「寝床が僕が使っていたものがあるのでそれを使いましょう。皆さんの分もちゃんとありますよ。やり方はアイラに聞いてください」
そう言うとリドルは前に背負っていたリュックを下ろして中から寝床を取り出す。
その他にもいつでも調理できる器具もあり、まるでキャンプセットのようだった。
ミノルはアイラからそれらの道具の使い方を教わって行く中リドルは残った俺達を集める。
「それじゃあ、僕達は食糧調達でもしますか」
「いいのう、食べたい分だけ取ればいいんじゃろ」
「つまり俺達はモンスター討伐係ってことか」
「そう言う事になりますね、それじゃあお二人の邪魔をしない様に離れてモンスター狩りをしましょうか」
そう言って俺達は食糧を確保する為に少しミノル達と距離を取った。
しばらく歩いた後何もない砂漠の所でリドルは足を止める。
「どうしたんだ?まだモンスターは居ないぞ」
「まさか砂を食えというのか。さすがの妾もそれは引くぞ」
「違いますよ。言ったでしょ、お二人から離れた方が良いと。お目当てのモンスターはこの下に居ます」
そう言ってリドルは俺達が立っている砂を指差した。
「この下にモンスターが埋まってるってことか?」
「そう言う事になりますね。ここに住んでいるモンスターは夜になると地中の中で眠ってしまうんです。だから無理矢理起こします」
「つまりこの下に食料があるという事じゃな。妾に任せろ、この砂漠事掘り起こしてやるのじゃ」
「やめろ、俺達まで巻き添えを喰らうだろう!」
「かつさん、この砂に向かってインパクトを放ってもらえますか?」
「へ、この下にか?まあいいけど」
「デビさん、僕達は少し離れましょうか」
リドルはそう言うと俺から少し距離を取る。
何か嫌な予感がするが、とりあえずやってみるか。
それは地面に手を付いて魔力を込める。
「インパクト!」
強烈な衝撃波が下の砂を吹き飛ばして大きな穴が出来る。
その時、強烈な鳴き声が響き渡った。
「ウギャギャギャ!」
「っ!?うるさ、てうわあ!?」
その瞬間、空いた穴を中心にして砂が飲み込まれていく。
そしてその中心に居たのは不気味な口を開いたモンスターだった。




