その十七 互いの想い
「それじゃあ、今日は宿屋で休んでください。かつさん達もここの所色々あって疲れてますよね。宿屋の部屋は流石に急なので取れませんでしたが、女子と男子で部屋を分かれれば何とか休めると思うので」
「そうだな、とりあえずリドルとも再会できたし、目的は一応達成したからな」
「それじゃあ、この後はどうするの?ガイスと対抗するのにもそれなりの作戦が居るし、私達だけじゃ正直戦力差は絶望的よ」
「それに仲間集めも始めているしのう」
「そういえば、ここでも同じようなことをしてんだろ。他の町でも仲間集めが行われてるってことだよな」
この町に来た時、お店の人がそんな事を言っていたような気がする。
その言葉にリドルが頷いて答える。
「はい、突然ガイスの復活をカノエ様が公表して、島の外に出る計画に賛同する仲間集めを始めました。ですがあの出来事の後にしれっとカノエ様が現れているところも色々と疑問が残ります。やはりもうカノエ様はこの世に居なくガイスの傀儡として操作されているというのが正しいと思います」
「お前はその現場に目撃してそしてあいつらと一緒に逃げたんだろ。それじゃあ、あの2人は今どこに居るんだ?」
「現在は他の元十二魔導士にこの危機を伝える為に出て行ってしまいました。僕はその後ネッパニンスで何か起きた時の為にその2人に情報を伝える役割をしています。今も情報交換のためにこうして手紙のやり取りをしていますよ」
そう言うとリドルは棚の奥から今まで送られてきた手紙を取り出す。
だがそれは普通の紙とは少し違っていた。
「何か素材が違くないか?」
「ネッパニンスは火山口の近くにある町ですから。普通の紙だと燃えてしまうんです。ですから耐熱性に特化したモンスターの素材を紙として代用しているんです」
「へえ、そうなのね。それにしても結構なやり取りをしているのね」
俺はその内の一つを手に取り手紙の内容を詳しく確認する。
内容を見るにどの町も王がやられてしまったみたいだ。
てことはガルアは本当にすべての王をガイスの復活の為に利用したのか。
「ん?かつこれをよく見るのじゃ。どうやら一番嫌いな街が平和みたいじゃ」
「え?一番嫌いな街?」
俺はデビから手紙を受け取りその内容を確認する。
そこには一つの町の状況が書かれていた。
「何々、キンメキラタウンの王であるムラキの存命を確認。すぐにサラとガイに警告をして、町の警備を強化する旨を伝えた。しばらくはその町の魔法使いも緊急警備として配置するそうだ。俺達はガルアが何かしらの計画を企ててることを考えており、その作戦任務の拠点として現在王が行方不明となっている町カルシナシティを作戦拠点とする。何かあればそこに向かってくれ、か。恐らくだけどガルアはガイスを復活させるために魔力を集めていた。ムラキは魔力をあまり持っていなかったから、殺されなかったんだろうな」
「やはりそうでしたか。口封じをすることが目的としたらムラキ様が生き残るのはおかしいですからね」
「今も元十二魔導士の人達はカルシナシティに居るのかしら」
「そのようですね。他の町はカノエ様と同じような偽物が現れましたが、カルシナシティの王である風間様だけは行方が分からないみたいです」
「風間は死んだよ」
その言葉を聞いてリドルは驚いた様子を見せる。
だけど俺はそれを気にすることなく話を続けた。
「風間は自殺したよ。あいつも俺と同じなんだ。だからこそ、多分殺されるのが怖くて自殺した」
「そう、だったんですか」
おそらく風間の体はアキサが作った物だから操ろうにもその死体自体が消えてしまったんだろうな。
だからこそ風間だけは王が不在になってしまってるのか。
「何を暗い雰囲気をしておるのじゃ。次の目的が決まったじゃろ」
「え?目的?」
「決まっておるじゃろ。妾達と同じガイスをぶっ飛ばしたいと思う奴らがそこに居るのじゃろ?ならば妾達も仲間集めをするためにも一刻も早く合流すべきじゃ」
「確かにあの人達なら喜んで協力してくれるしね」
「たしかにそうだな。それじゃあ今日はゆっくり休んで明日行くとするか」
するとアイラがよそよそしく部屋の中に入って来る。
「寝る部屋の布団の準備が出来たわ。いつでも休めるわよ」
「当然アイラも一緒に同行させます。良いですよね?」
「ああ、別に構わないぞ」
「え?話がよく分からないんだけど、明日何処かに行くの?」
「カルシナシティに行きます。いつも手紙をくれる人に会いに行くんです」
「あ、そういえばそんな事も言ってたわね。分かったわ」
「それじゃあ、とりあえずもう寝るか。それじゃあリドルあっちの部屋に行こうぜ」
「はい、皆さんおやすみなさい」
俺達は自分たちの寝る部屋に行くためにミノルたちにおやすみを言って部屋を後にした。
そして寝る部屋に向かうとすでに布団が敷かれていた。
「アイラだっけ?気が利くし、丁寧だしいい子だよな。お前が好きになる理由もわかる気がする」
「かつさんだって好きな人がいますよね」
「っ!?お、お前突然何を言い出すんだよ!」
「いまさら隠す必要はありませんよ。それに僕は居ないうちにもう付き合ってると思ってたんですが、まさかかつさんがこの島の人間じゃなくて別の世界の人物だとは思いませんでしたよ。それだとかつさんはこの世界を離れてしまうんですよね」
そうだ、俺はこの島を出なくちゃいけない。
それは分かってるけどそれでも心残りはある。
「どうするんですか?その気持ちは伝えないんですか」
「まあな……ていうか、もう寝るぞ!」
俺は布団の中に潜って明かりを消した。
「分かりましたおやすみなさい」
そう言ってリドルも布団の中に入って行った。
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「はあ、俺どうしたらいいんだろ」
その後俺は寝付けずこっそり部屋を出てベンチに座って夜風に当たっていた。
正直この気持ちをどうすべきかは迷っている。
俺は日本に帰りたいし、でもこの島にも残りたい。
最初にアキサに言われた時は帰りたい想いが強かったのに次第に残りたいという想いも強くなった。
「はあ、俺って優柔不断だなあ」
「何が優柔不断なの?」
「おわっ!ミノル!?どうしているんだよ」
「いちゃ悪いの?私だって夜風に当たりたい時はあるわよ。横座るわね」
そう言ってミノルは俺の横に腰を下ろした。
まさか今一番会っちゃまずい奴と二人っきりになる何て。
「ねえ」
「な、何?」
「かつは日本に帰っちゃうの?」
「そうだな……今の所はそう思ってるかな」
「あの時は皆が心を一つにする場面だったから少し心の奥にとどめておいたんだけどね。本当は居なくなってほしくないと思ってる」
「え」
何だ、この雰囲気は。
ていうかミノル少し頬が赤くなってないか。
「本当はこんなこと言っても、迷惑なだけだとは分かってる。だけどこの先様々な困難が押し寄せて来るんだって思ったら今しかないと思って」
「ミノル……」
ミノルは何かを覚悟した様な目でこちらに振り向く。
その時間は息をするのも忘れる位、釘付けになっていた。
「私はかつの事がす——————」
「ちょっと待って!」
「え?ご、ごめんやっぱり迷惑」
「俺が言う!」
「へ?」
俺はミノルの肩を掴んで覚悟を決める。
「俺から言わせてくれ」
「う、うん」
心臓のドキドキが止まらない、こんなの生まれて初めてだ。
でも不思議と心地よい。
「俺はお前の事が……大好きだ!初めて誰かを好きになれたんだ!ずっと一緒に居たいとそう、思えたんだよ!」
「っうん……!」
「大好きだ、ミノル。大好きなんだよ、でも俺はその気持ちを伝えられてもその気持ちに自分が答えることが出来ない。こんなこと言っておいて最低だけどさ」
「ううん、すごく嬉しい。だって両想いって分かったんだもん」
そう言ってミノルは満面の笑みを見せる。
そして俺の小指にミノルの小指を絡ませて来る。
「約束するわ。必ずかつの目的を達成して見せる。かつが無事に帰れるように、ね」
「ありがとう、ミノル」
そう言って俺達は指切りをした。
だけどそれは本当に正しい事なのだろうか。




