その十六 カノエの存在
「アイラが居ない?部屋の近くにも居なかったのか?」
「宿屋を探しましたがどこにも居ないんです。もしかすると連れていかれたのかもしれません」
「連れていかれたという事はそやつを追っている者が居たのか?」
「実はアイラは闇商人に売り飛ばされそうになったところを僕が助けたんです。もしかすると、そいつらが諦めきれずにアイラを探して捕らえたのかもしれません」
「とにかく緊急事態ってことだろ!よし、行くか!」
俺達はアイラを捜索する為にすぐに宿屋を出た。
だがその直後視界の端に探し人を捉えた。
皆も同様にその人物を捉えた為、足を止める。
「えっと……みんなそんなに急いで何かあったの?」
「アイラ、何処に行ってたんですか!」
「皆話してて邪魔するのも悪いし、やることも無かったからお腹空いてると思ってご飯を買いに行ってたの。もしかして心配かけちゃった?」
たしかにアイラの手に持っている袋の中には美味しそうな匂いが漂ってくる。
ご飯を買いに行ったというのは本当だろうな。
「そうでしたか。確かに一人にした僕の責任でもありますが、今度からは外出する時は必ず場所を教えてください。急に居なくなられたら心配してしまいますから」
「そうだよね。ごめんリドル、今度からそうする。お詫びに沢山ご飯買って来たから皆で食べて。リドルの好きなサラダも買って来てるから。あ、でもみんなの好みが分からなかったからとりあえず万人受けする料理を買って来たんだけど、好き嫌いとかある?」
「妾はなんでも食べれるから大丈夫じゃ!」
「私も大丈夫よ」
「俺も、リドルの料理を食べてから好き嫌いも無くなったしな」
「はは、それは料理した買いがありますね。部屋の中で食べましょう」
リドルはアイラを見つけたからか心底安心した表情を浮かべている。
本当に大切な存在なんだろうな。
「大切な存在かっ」
「ん?かつどうしたの?早く行きましょう」
「あ、ああそうだな」
俺は全てが終わった時どうしたいのだろうか。
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シアラルス 城の中の王室の間
扉をノックする音が数回に聞こえてくる。
巨大な椅子にふんぞり返っていたガイスはその態勢を変えないまま返事をする。
「入れ」
その言葉を受けて扉を開けて中に入って来たのはガルアだった。
ガイスはガルアが来ることを予想していたのか、その姿を見てガイスはほくそ笑んだ。
「どうした息子よ。何か問題でも起きたか」
「どうして自分勝手なことをするんだ」
「自分勝手?言葉の意味が分からないな。俺は王だぞ、誰かに命令されて動くことはない」
「勝手に仲間集めをして勝手にちょっかいを出しに行ったりして、俺には何も言わないじゃないか。それに負けて帰って来ただろ」
その言葉を聞いてガイスはゆっくりと立ち上がり、ガルアの元にゆっくりと歩み寄る。
「俺には俺のやり方があるお前なら分かってくれるだろ」
「俺の事は分かってくれないの」
「ちゃんと分かってる。お前にもちゃんと仕事をやるつもりだ」
「俺はお父様の駒じゃない。それに約束もまだ果たしてないのに、お父様の為に動くつもりはない」
「ラミアの事を言っているのか。何度も言っているだろう。来る時に備えての準備期間だと」
その言葉を聞いてガルアは拳を握りしめる。
「場所も力量差もあるのに後何の準備が必要なの」
「タイミングだ。すべてはタイミングが重要だ。お前が俺を復活させたタイミングも良かったぞ」
そう言ってガイスはガルアの頭を撫でる。
だがガルアはその手を払いのけガイスを睨みつける。
「お前がこうして俺に反抗するとはな。ガルアも成長したという事か。まっ反抗期はほどほどにしておけ。俺を不快にさせたらその約束もどうなるか分からないぞ」
「やっぱり約束を果たす気はないんじゃないか!俺はお父様の奴隷じゃない!やらないっていうなら俺1人でもやってやる!」
「待てガルア!分かった、俺だって大事な娘を危険な目には合わせたくないんだ。今回の駒集めが終われば、早急にラミアを助けに行こう」
「本当?」
「ああ、約束だ」
「その言葉信じます」
そう言ってガルアはその部屋を後にした。
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「上手いのじゃ!この熱々マグマ鍋は絶品じゃのう!」
「ちょっと待て!俺の火鳥の丸焼きを食ったの誰だ!」
「ちょっと待ちなさい!私もその鍋食べてみたいから残しておいてね!」
「かつさんそのサラダは僕のですよ。変なソースを掛けないでください」
「あははは、皆落ち着いて食べてよ。まだまだあるからさ」
こうして久しぶりの仲間たちとの食事は夜まで続いた。
「ふう食ったな!お腹いっぱいだぜ」
「そうじゃのう。ここの町の料理もうなかったのじゃ」
「ふふっ」
「ん?どうしたんですかアイラ?」
「ちょっと昔のこと思い出しちゃって、子供の頃こんな風に友達と楽しく食事してたこと思い出したの。あの頃はこんな事になるなんて思いもしなかった」
そう言ってかつての思い出に浸るようにしてアイラはコップの縁をなぞった。
「それでも僕は今までの出来事を無かったことにはしたいとは思えません。過去にあった辛い事も今の幸せに通じているのなら、僕は結果オーライだと思ってます」
「ていうか、馴れ馴れしく彼氏面してるけど一度も付き合うって言ってないからね」
「大丈夫ですよ」
「大丈夫って何がよ!」
「おいおい、のろけもそこらへんにしとけよ。そろそろ現状の説明と行こうぜ」
「あの、私達別にのろけては」
「いつもの癖でやってしまいました。すみません」
「いつもやってないからね!それは信じてかつ!」
どうやらアイラも相当苦労しているようだな。
「まあ冗談はここらへんにして、話を始めましょうか。先ず僕がここに居る理由はこの島の王カノエ様に助けられたのがキッカケです。僕は旅の途中アイラと一緒に行動してたのですが、その道中モンスターに襲われてしまい、その時にカノエ様が助けてくれたんです。そこから色々とカノエ様に良くしてもらい元十二魔導士の方々に修行を付けさせてもらいました」
「なるほどな、そんな事が合ったのか。でもそれならどうしてあいつらの姿を見かけないんだ」
「カノエ様の様子も私が知っている者とはだいぶ違ってたわ」
するとリドルが少し言いにくそうに言葉を詰まらせる。
「恐らくもうカノエ様はこの世に居ないと思います。少し前の事です。突然ガルア様がカノエ様の城にやって来たんです。僕はちょうど城に修行をしに来ていたのでその現場に立ち会いました。今まで見たことのない必死の形相でカノエ様は僕達に逃げろと伝えてきました。彼らも決死の想いだったと思いますよ。それがカノエ様が彼らに下した最後の命令だったので」
「最後まで見てないのにカノエが死んだと思う根拠は?」
「先程の行動を見ればいやでもそう思ってしまいますよ」
そうだよな、あれが本物とは到底思えない。
しかもガルアは島の王たちをガイスの復活の種として使ったと言っていた。
あの時のガルアは何かを焦っていて正常な判断を出来ずにいた。
もしかしたら本当にやってしまったのかもしれない。
「それじゃあ、あの人は一体誰なの?カノエ様じゃないとしたら似ている人とか?」
「僕の予想では操られてると考えた方が妥当ですね。あの時のガルア様とカノエ様の表情は命を懸ける覚悟を持った人の顔でした。どちらかが死ぬまで戦ったと思います。それでガルア様が生きているという事はそう言う事なんでしょう。なのにカノエ様が生きていたというのなら死体を操る魔法を使ってカノエ様のふりをしているんじゃないんですか」
「そんな魔法存在するのかよ」
「存在自体は分かりませんがオリジナル魔法なら可能性はあります。なんせ英雄と呼ばれたガイスがこの世に蘇ったんですから」
ガイス、あいつは一体どこまで計画をしているんだ。




