その十四 秘密の共有
「か、彼女って本当かよリドル!」
「はい本当ですよ」
「ななな、何言ってんのよ!だから私はリドルの彼女にならないって言ってるでしょ!ていうか、そういうのはもっとちゃんと」
「ほらまんざらでもないでしょ」
「——————っ!だから違うのー!」
そう言ってアイらと呼ばれる少女は顔を赤らめてリドルの事をポカポカと叩いていた。
たしかに雰囲気的にはまんざらでもなさそうではあるが。
「えーっとつまり、お前らは別に付き合ってないのか?それはリドルのただの妄想だと」
「かつさんその言い方はひどいなー僕は結構本気なんですけどね」
「だからそんな恥ずかしい事を言うなー!」
「何じゃ何じゃお主付き合っても居ないのに彼氏面をしているのか?かなりイタイ奴じゃのう。アイラに同情するのじゃ」
「でもでも、アイラちゃんもそんなに否定的じゃないみたいじゃない。結構押せば行けちゃうかもよ」
「何言ってるんですか!ていうか、あなた達は誰なんですか?リドルの友達とか?」
先程と変わらず動揺した様な口調で俺達の事を指摘する。
「俺達はリドルの仲間だよ。俺が絶対かつ、こっちの角が生えてるのがデビ、それでこいつがミノルだ」
「よろしくなのじゃ」
「よろしくね」
「あの人半獣じゃないんですか?もしかして悪魔とか?」
「よく分かったのう。妾は地獄の王デビなのじゃ!」
「ええ!?冗談で言ったつもりなのにまさか本当何て」
「まあ、俺達の紹介はこのくらいにしてアイラはリドルとはどういう関係何だよ」
この感じからして会ったばかりじゃなさそうだな。
リドルがあんな言い方をするってことは少なからず特別な関係な気もする。
俺達がアイラに興味津々なのを察したのか少し困った様子で頬を掻くと、自分の身分を話し始めた。
「えっと私は半獣のアイラって言って、今はリドルにお世話になってて。私が悪い人に襲われている時に助けてもらってそれで知り合ったんです」
「あ、ちなみにこの子は半獣ではありませんよ。僕が代わりの耳と尻尾を作ってそれを付けているだけです。ほら、全然動かないでしょ」
「ちょ、何でばらしちゃうのよ!」
この子がリドルのおもちゃみたいにされてて不憫に思ってしまう。
リドルはアイラの耳を掴むとそれを引っこ抜いた。
どうやらミノルの耳と同様にカチューシャみたいな形をしている。
わざわざ半獣に偽装してたのにあっけなくリドルにバラされてアイラは涙目になっている。
「大丈夫ですよアイラ。この人達は信頼できる人です。人間だからと言って差別したりしません」
「まあ、今の状態じゃ別に前みたいに人間を差別したりしないだろ。自分たちは元々人間だって思い出したんだから」
「それでも過去は消えません。確かに失っていた記憶は取り戻しましたけど、ここ十年間の出来事を忘れることは出来ないんです」
そう言えばそうか、今回起きたのは忘れていた記憶を思い出したというだけ。
別に記憶の上書をしたわけじゃないんだ。
今は良くても過去の出来事が彼女に深い傷を残してるんだよな。
「地下で行われている闇の商売。人間達はそこで売られて変われたらまるで物みたいな扱いを受ける。ガルア様が一斉排除を行い前よりは減少しましたが、完全に消えることはありませんでした。アイラはその行き残った奴らの商品になりそうなところを僕が助けました」
「そうだったのか」
未だにアイラは俺達の事を警戒している。
半獣にどれほどの仕打ちを受けたのか、この怯え方で想像は付く。
俺も一度は行ったことはあるがあそこは異常者のたまり場だった。
命を粗末に扱い、そして自由すらない。
するとミノルは付けていた耳と尻尾を取り外した。
「ミノル!?」
「ミノルさん?それって……」
「アイラちゃん、私もあなたと同じなの。沢山つらい経験をしたし、死にたい事もたくさんあった。だけどみんなに出会ってからはそんな思いも消えて、毎日が笑顔で終われたの。だから心配しないで。安心していいんだよ」
「ミノル……さん」
「ミノルでいいわよ」
「うわあああん!!」
そう言って今までの不安な思いが爆発したのか、アイラはミノルに抱きついた。
どうやら俺達の事を信じてくれたらしい。
俺はすぐにリドルの隣に立ち耳打ちをする。
「二人っきりで話したい事がある」
「分かりました。もう一つ部屋を借りているのでそっちに行きましょう」
「ん?お主ら何処に行くのじゃ?」
「ちょっとな。デビは2人の事を見守ってやってくれ」
俺とリドルは部屋を出るとすぐに隣の部屋に移動した。
そして俺とリドルは向かい合うの用に座ると早速話を始めた。
「まず初めに一ついいですか?」
「ああ、何となく聞きたい事は分かるけどな」
「ミノルさんは元々は人間だった。それは分かってるんですけど、どうして今人間に戻ってるんですか?さすがに最初から人間でしたと言う事はないと思いますが」
「まあ俺も完璧に理解しているわけじゃないが、簡単に言うとミノルがそれを望んだみたいだ」
「望んで慣れるものとは思えないのですが」
「もちろんそうだ。実はお前が居ない時にこんなことが起きてな――――――」
俺はリドルに黒の魔法使いとの出来事を話した。
その話を聞き終えるとリドルは驚いた様子を見せる。
「かなり大変だったみたいですね。そんな事が合った何て」
「正直今こうして生きていること自体驚きだよ。だけどミノル自身黒の魔法使いに生き返る魔法みたいなものを掛けてもらったみたいだ。その結果が今のミノルってわけだ」
「なるほど、にわかには信じられませんが実際に目の前で起きているんですしそうなんでしょう」
「それで俺がお前に聞きたい事は一つだ。この世界の本当の歴史を教えて欲しい」
「っ!かつさんは記憶を取り戻したんじゃないんですか?」
そう来るよな。
もうずっと隠し続けるのも考えた。
言った所で信じてもらえないだろうし、わざわざ言う必要があるのかと。
それを言って関係性にひびが入る可能性もある。
最初はそれが怖かった。
でも今ならその心配もないよな、覚悟は出来た。
「実は俺は……本当は、この島の人間じゃないんだよ」
「え?」
「生まれはここじゃないんだ。もちろん他の場所から連れて込まれたことも無い。俺は日本ていう別の世界から来た人間なんだよ」
「それって——————」
「ちょっと待って!」
すると突然ミノルとデビがこの部屋に入り込んできた。
「お前ら聞いてたのか!?」
「ミノルさん、アイラは」
「部屋で待ってるわ。気を利かせてくれたの。それよりも今の話、私もそうなの」
「え?」
「私も日本から来たの。日本って言う国からやって来たのよ!」
その目は確かな覚悟を持った目だった。
そうかミノルは俺を一人にしない為に自分の秘密を言ってくれたのか。
「今まで騙してごめん。これが俺達も秘密だ」
「私が半獣だったのも黒の魔法使いに体を無理矢理帰らされてたからなの。本当にごめんなさい」
「そうですか。まさか、いえ普通の人ではないと思っていましたが、なるほど。そうですね、僕は前々気にしてませんよ」
「え?」
「正直妾もこの島出身ではないからのう。日本と言う場所はよく分からないが、場所が違うからと言って何かが変わるわけがないじゃろ。妾も気にしないぞ」
「そうですよ。むしろ話してくれてありがとうございます」
「皆、ありがとう」
そうだ、こう言う風になるのは予想していた。
場所は違くても仲間と言うのは変わらない。
それは分かっていたはずだ、でも違うんだよ。
俺は今までずっと日本に帰るために頑張って来たんだ。
それをちゃんと言わないと、俺が今からやらなきゃいけないことは全てこの島から出る事なんだって。
「かつさん」
「っ!?」
「何があっても。僕たちはかつさんの味方です。それを忘れないでください」
そうか、そうだった。
俺達は仲間だった。
何も心配することはなかった。
「俺はこの島でやらなきゃいけないことがある。もしかしたらガイスと戦うことになるかもしれない。そしてそれがすべて終われば俺はこの世界から居なくなる。日本に家族が居るから戻らなきゃいけないんだ。だから、俺が日本に帰るのを協力してくれないか?」
身勝手なことだ。
これは俺の目的のために命をかけてくれと言ってるような物だ。
普通なら断る。
だけど目の前の仲間たちは怒るわけもなく、笑っていた。
「いまさら何言ってんのよ。それくらいお安い御用よ」
「そうじゃぞ、お主の為ならたとえ火山の中やあら狂う大海の中でも駆け付けてやるわい!」
「このパーティーのリーダーはあなたです。だから僕たちはかつさんに着いて行きますよ」
「良いのか?」
「じゃなくてついて来いとか、言えないの?私たちのリーダーなんだからもっと堂々としなさいよ。これはかつが作ったパーティーなのよ」
「へへ、そっか。それじゃあ、よろしくな!」
こうして俺は今まで貯め込んでいた秘密を仲間たちと共有することが出来た。




