その十 旅飛び
「あー無理無理、今コウバの運航は停止してんだよ」
「え?どうして、やってないんだよ。時間が言ってわけじゃないだろ」
「先程ガイス様の遣いの人が来てな。街に人を出すなと言うお達しが来たんだよ。だから今は何処も行けないし、誰もこの街には来れないみたいだぞ」
やられた、俺たちみたいに逃げ出すような人をこの町にとどめようとしてるのか。
無理矢理コウバで出ることも出来るがそんなことをしたらこの人が罰を受ける可能性もある。
「コウバで行けないのならどうするのじゃ?歩いて行くか」
「いや、外に出さないことが目的なら町の周りを警備している奴も居るだろうし、無理だろうな」
「完全に八方ふさがりね。テレポートでならネッパニンスで直通は無理だけど近くの場所までなら行けるわよ」
「だとしてもそれから歩きだろ。なるべく体力は使いたくないし、だからこそコウバで行こうと思ってたんだけど」
こうなるとうかつに外に出ただけで罰を受けそうな気がするな。
目立った行動はなるべく避けたいところだけど、他に移動手段はないんだよな。
「それなら妾がお主らを運んでやろうか。妾の力なら造作もないぞ」
「それだと目立ちまくるだろ。それが出来たら俺だってワープで高速移動してるぞ。出来るだけガイスにはバレたくないんだよ」
「……あるかもしれない」
ミノルはしばらく考え事をしていると突然そんな事を呟いた。
「本当か!?それっとどういう方法だ」
「旅飛びって言う遠出をする時に使う店があるの。もしかしたらそれを使えば行けるかもしれない」
「でもそれってお店なんだろ。ガイスがそれを見逃すとは思えないけどな」
「じゃがそれしかないのじゃろ?ならば試しに行くだけでもよいじゃろ」
「まあそうだよな、物は試しかその場所に案内してくれ」
少しの不安を抱えながら新しい行き方を確かめる為に俺達は旅飛びの店へと向かって行った。
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「いらっしゃ——————あ、ミノルさん!それに、デビさん?お久しぶりです!見ない間に随分大きくなりましたね」
「成長期じゃからな!」
「久しぶり店主さん」
ここが旅飛びと言う店か、目の前の扉は魔法協会にある扉と同じ感じがする。
すると目の前の店主は俺を見つけるとお辞儀をして来た。
それにつられて俺もお辞儀をする。
「あ、そう言えばかつは来たことはなかったわね。店主さんこの人は絶対かつで私達のパーティーのリーダーよ」
「よろしく」
「そうでしたか、私は旅飛びの店主をしています。ププラです」
「そう言えばお主の名前を聞くのは初めてじゃったのう。ププラあの時は妾達を救ってくれてありがとな」
そう言ってデビはププラと名乗る女性の背中を叩いた。
そしてププラは少し恥ずかしそうに頬かく。
「何だ俺が知らない間に何かあったのか」
「モンスター討伐に行ってた時死にかけてね。その時にププラに助けに来てもらったの」
「そうじゃぞ。雪の中で一生目覚めないかと思った所こやつが助けてくれたのじゃ。まさに命の恩人じゃ」
「そんなに褒めないでください。照れてしまいますよ」
「デビがそう言うってことは本当に窮地を救ってもらったんだな。俺からも礼を言わせてくれ、ありがとう」
「いえいえ、やりたい事をしただけですから」
一通り自己紹介を終えると俺達は本題に入ることにした。
「ネッパニンスですか。確かに行くことは可能です」
「じゃが良いのか。誰かに口止め——————ふぐっ!」
俺は咄嗟に余計なことを喋ろうとするデビの口を押えた。
「はは、何でもないぞ気にしないでくれ!」
「何するのじゃ!妾の口を押える出ない」
「良いからお前は余計なことを喋るな」
この反応を見るにこの店にはガイスの息はかかってないみたいだ。
今日起きたことだしタイミングも良かったのかもしれない。
今の内にさっさとネッパニンスに行こう。
「直ぐにでも行けますが、どうしますか?」
「お願いするわ。結構急ぎの用があるから」
「分かりました。それじゃあ先に代金を頂いてもいいですか。ネッパニンスまでとなると一人一万ガルアです」
「ああ、分かった」
俺は財布から三万ガルアを取り出すとそれをププラに渡した。
ププラをそれを受け取ると目の前の扉のドアノブにカードをかざす。
すると扉に付いている何も書かれていなかったプレートにネッパニンスと文字が現れた。
「これで扉を潜れば目的地に到着することが出来ます」
「ありがとな、ププラ。それじゃあ早速行こうぜ」
「ちょっと待って、ねえあのスイッチはもう渡さなくなっちゃったの?」
「スイッチ?」
前ここに来た時は何か渡されていたのか?
するとププラは少し動揺するがすぐに首を横に振った。
「ごめんなさい、今その装置が壊れちゃってて渡すのを一時的にやめてるんです」
「ああ、そうだったのね。ごめんなさい、ププラがせっかく導入した物だしあるなら使いたかったんだけど。壊れちゃってるのなら仕方ないわね」
「なあそのスイッチって何だよ」
「気にしないでください!私が個人的にやっていた事ですから。それより急いでいるんでしょう。だったら早く向かった方が良いですよ」
何だ、この話を異様に避けたがっているみたいだな。
だけどまあ、別に気にすることではないか。
「何をしておる。先に行っておるぞ」
そう言ってデビは先に扉の中に入って行った。
「あいつもう行きやがった。それじゃあ、俺たち行ってきます。本当にありがとうございました」
「それじゃあね!」
「はい、行ってらっしゃい!」
そして俺達はネッパニンスへと繋がっている扉の中に入って行った。
そしてその直後誰かがその店の中へと入って来る。
「奴らはネッパニンスへと向かったのか」
「っ!?はい、言う通りにしました。これで私は元の島に帰れるんですよね」
「もちろんだ。これでお前も正式にガイス様の仲間だ。くれぐれも裏切るなよ」
そう言ってその男は店を離れると魔法陣を展開した。
「テレポート」




