その九 ネッパニンスを目指して
「まあ扉の件は今回は許すとします」
「本当か!いやあ助かるよ、ありがとうルルさん」
俺は正座させられていた体勢から立ち上がりルルの手を取り感謝を伝える。
「それはそうとミノルさん、大丈夫ですか?なぜ耳と尻尾が無くなって居るんですか。まさか、ミノルさんは人間だったとか」
「ちょっと色々あってね、今は人間に戻ってるの」
「私が見ない間に本当に色々あったんですね。それとまさかガイス様が生きていた何て。今になって自分が何者なのか思い出すことになるとは思いませんでした」
そうか、ルルさんも元々は人間だったんだよな。
辛い実験の末に半獣になった被害者の一人か、この島の人達が全員辛い過去を持っているのか。
ルルさんを見ると手が少し震えていた、ルルさんもやっぱり親に売られてきたのだろうか。
いや、これを聞くのは野暮ってもんだよな。
「ルルさん、これから魔法協会でご飯食べようと思ってるんだけどいいかな?」
「はい、どうぞ沢山食べてください!」
俺たちは魔法協会に入りさっそくご飯を食べ始める。
そしてデビはいつも通り大量の飯を一気に平らげていく。
「うーん、久しぶりのここでのご飯は格別じゃのう。おかわりじゃ!もっと持ってまいれ!」
「相変わらずだな。ていうかお金のことも考えてくれよ。これから遠出するんだ。ある程度の資金の余裕は持っておきたいしな」
「そうね。ネッパニンスは言ったことない場所だからテレポートじゃいけないしね。行くとなったらコウ馬かしら」
「だな、とりあえずそう言う事だからこれ以上頼むのは」
「これとこれと後これを頼むのじゃ!早めに持って来るのじゃぞ!」
駄目だこいつまったく人の話を聞いてねえ。
「おい、ちょっといいか?」
すると突然ウルフがこちらに手招きしてくる。
何だ、俺を呼んでいるのか?
「ちょっと行ってくる」
「ええ、分かったわ。あっデビちゃん、それ私のよ!」
「お主がぼーっとしておるからいけないんじゃろうが。大きくなった分食欲も倍増しておるんじゃから、少しくらい許せ」
俺は2人の騒がしい声を背に受けてウルフの元へと向かう。
「いきなり呼んでどうしたんだよ」
「ここじゃあれだから休憩室で話すぞ」
俺はウルフに連れられ休憩室の中に入る。
そこにはアカリの姿が見えた。
「やあ少年。来たみたいだね」
「アカリ?何だ何だ、何を始める気だよ。すごい嫌な予感がするんだけど」
大体アカリが関わるとろくなことにならないからな。
「そんなに警戒しなくてもいいよ。ただちょっと相談したい事が合ってね。少年の意見が聞きたいのさ」
「相談?」
このタイミングの相談ってことはもしかしてさっきの事についてかな。
するとウルフは神妙な面持ちで相談事を離し始めた。
「かつもさっき聞いただろ。ガイス様の演説、正直あいつらが賞賛している所私はあんまり賛成できなかったんだよ。ガイス様は自由を私たちに与えるとか言ってるけど、正直外の世界には興味ないんだよな」
「つまりガイスの掲げる思想に賛同は出来ないってことか。それは分かったけど相談事って何だよ」
「ガイス様は今日同じ目的を持っている者たちを集めているだろう。少年からしてみて、それに賛成すべきかどうか意見を聞きたいんだよ」
「なるほど、これは俺の個人的な意見だけど、自由がどうとか置いといて形だけでも仲間にはなっておいた方が良い」
「やっぱ仲間にならなかったら罰が下るのか?」
「罰なんてもんじゃない。最終的に殺されるかもしれない」
それを聞いて二人は思わず唾を飲みこむ。
当然だ、仲間にならなければ殺されるという理不尽な選択を迫られればそんな反応になる。
「少年、私の知る限りのガイス様は確かに力を求めることに以上に固執していて、危険な人物だというのは理解しているよ。だからこそ懐に入れば危険なことにはならないと思う」
「だな、でも正直私は大丈夫だけどルルをそんな危険な場所に行かせたくないんだよな。まあ仲間になった方が安全だと思うけどよ」
「俺はガイスの全てを理解しているわけじゃないし、もしかしたら仲間の中でも使える奴と使えない奴で分ける可能性もある。確実に危険が無いとは言い切れないけど、戦える力がないのなら素直に従った方が賢明だ」
「少年はどうするのかな?」
アカリは純粋な疑問をこちらにぶつけて来る。
俺はどうするべきか、仲間になるつもりもないだけど現時点では敵対をするほどの力もない。
だから俺が今すべきことは……
「確かめたい事があるんだ。友達がどうしてあいつに従ってるのか。目的は何なのか知りたい」
「へ、何かよく分かんねえけどなんかあればいつでも言えよ。かつはいつもボロボロになって魔法協会に来るからな」
「まあ、魔法協会に来る人達はモンスター討伐を終えている人も居るからボロボロになるのは当たり前だけど、少年!私も力になるよ」
「ありがとう。それじゃあ早速今回の飯代を無料にしてくれたりは」
「「それは無理!!」」
こうしてデビの大量の飯代を払い資金がそこに付きそうになりながらも一度家に帰り、必要な物を取りに行った。
「うーん、この本は持って行くか」
「妾は服が欲しいのう。ここにある服は子供の服ばかりじゃぞ。妾のように気品あふれた服が欲しいぞ」
「我慢してデビちゃん。ただでさえ、お金が少ないんだから」
自分たちの部屋にある物をカバンの中に詰めていく。
そしてある程度持ち物が集まった時、机の引き出しの中にある物を見つけた。
「これって……」
俺はそれを手に取ってミノルの元へと向かう。
「ミノル、ちょっといいか?」
「ん?どうしたの」
「ちょっとジッとしててくれないか?」
「うん、別にいいけど」
俺は手に取った物をミノルの頭に付ける。
「よしいいぞ!ほら、鏡を見てみろ」
「え?これってネコミミ!?」
「ああ、昔ある人から貰ってな。今は半獣が元々人間だってことを思い出したけど、それでも耳が合った方が何かと都合がいいだろ。ほら尻尾もあるぞ」
「ありうがとうかつ。これで一時的にも半獣に戻れたかしら」
「何いちゃついているのじゃ!お主らがそれをすることしか能がないのか!」
「な!?ちげえよ!いちゃついてないからな!」
俺はからかってくるデビの元へ駆け出していき、その様子をミノルは笑っていた。
そして必要な物を全てカバンに詰めて俺達は屋敷を出て鍵を閉める。
「それじゃあ、早速行くとするか」
「リドルを探しに行くぞ!」
「おー!」
こうしてネッパニンスを目指して旅に出た。




