その七 自由な世界
「こうやってみんなと外に出てご飯食べに行くのも久しぶりだな」
「そうね、ゆっくりご飯何て行ってる時間無かったし」
「場所は何処じゃ?まあ何となく分かっておるが」
自分から質問しといて率先的に前を歩いてる所、本当に場所の見当がついてるんだろうな。
にしてもぱっと見あまり周りに人が見えないな。
いつのならこの時間帯は町は活気が合ったりするもんだが、よくよく見てみるとお店に人もいないな。
防犯魔道具は仕掛けてある所、意図的に居なくなってるんだろうけどどうしてだ。
俺がそんな事を考えていると目的の場所に到着していた。
「魔法協会に来るのも久しぶりじゃのう。皆元気にしておるのか」
「何気に私も久しぶりね」
「そう言えばルルさんとか俺が一人で来てたから心配してたな」
「やっぱり心配させちゃってたか。それだったらきちんと挨拶して安心してもらわないとね」
デビはご機嫌に扉の取っ手を握ると、それを思いっきり引っ張った。
そう、押すことで開く扉を引っ張ったのだ、それにより扉はデビの手によって引き剥がされた。
「あ」
「おおおい!何扉ぶっ壊してんだよ!弁償しなきゃいけないじゃねえか」
「いやあ、力加減がよく分からなくてのう。久しぶりに戻って来たから間違えてしまったのじゃ」
「ご、ごめんなさい!あとで弁償しておくので……あれ?」
ミノルは目の前の光景を見て固まってしまった。
それを見て俺はすぐにミノルが見ている先に視線を移す。
それは今起きている事よりももっと不思議な状況がそこには合った。
「誰も居ない?」
そこには誰一人としていなかった。
お客どころか受付にも誰も居なく、中で開かれているお店にも人っ子一人見当たらなかった。
「何じゃ誰もおらぬのか。それは都合がいいのう。これなら怒られずに済むぞ」
「そう言う問題じゃないだろ。誰一人いないなんて明らかにおかしい。もしかして俺達が知らない間に何か起きたんじゃないか」
俺は何か情報が無いかと魔法協会の中に入って行く。
で簿も壊れたドアを壁に立てかけて中に入って来る。
争った形跡もなく、食べ残しや店の商品も綺麗に並んだままの状態となると最初から魔法協会には誰も入って無かったってことか。
まてよ、もしかすると。
俺は魔法協会の扉の元に行き壊れてない方の扉を開けようとするが開くことは出来なかった。
やっぱり鍵が掛かってるのか、てことは元々開いてなかったってことだよな。
「かつ!これ見て!」
ミノルは何か見つけたのか、掲示板に貼られていた紙を指差す。
そこにあった一つのお知らせと書かれた紙を手に取り、俺はそれを読み上げた。
「『おしらせ、明日三時にガルアの城の前に町の人々は必ず集まること。これは命令であり、もし既定の時間通りに来なかった者には相応の処罰を覚悟する様に』まさかこのお知らせを受けてみんなガルアの城に集合してるのか?」
「時間は二時五十分じゃのう。まだ間に合うがどうするのじゃ」
「もちろん行くわよ」
「処罰が怖いのか。それなら安心するのじゃお主らの事は妾が守ってやるぞ」
「そう言う問題じゃないだろ。これほどの大事、何かあるに決まってる。無視は出来ないぞ」
それにガルアの城と言うのが気になる。
ガルアの城となると確実にガイスも絡んでるはずだ。
現時点であいつはこの島どころか世界を支配しようとする悪人、そしてブライドの半獣は皆殺しと言う発言と近々始まる何か。
それがこの事なのかもしれない。
「行こう。ガルアの城へ」
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この城に来るのはもう何度目だろう。
最初は招待されたのが始まりだった、まあ俺はその招待状を紛失してしまい行けなかったがラミアとの出会いでガルアと知り合うようになったんだよな。
それからラミアと遊ぶために何回か城に通ってたっけ、最近ではそんな楽しい用事じゃなくて自分の為に行くことが多くなった。
どうしてこうなったんだろうな。
「着いたわ。やっぱり町の人達はガルア様の城に集まってたのね」
ガルアの城の前には大勢の町の人達が集まっていた。
皆何事かと困惑している様子であり、まだこの集まりの理由を説明していないのが見て取れた。
その時ガルアの城から一人の男が出てきた。
それを見つけた人がその事を皆に知らせそれが一気に広まって行きその男に視線が向く。
そしてその男は集まっている人たちにとっては初めて見る者だった。
「静粛に!混乱する気持ちは分かるが先ずは集まってくれて感謝する!本来ならこういった強引な手段を取るべきではないと思っているが、緊急事態だという事で許してもらいたい。さてと、ここに居る者たちのほとんどはこう疑問に抱いているだろう。こいつは誰だと?だが安心してもらいたい、この城を乗っ取ったわけではない。その証拠に、ほらこっちに来い」
その男は手招きをすると奥からこの城の本来の王、ガルアが顔を出す。
そして皆に手を振って自分が自らここに居ることをみんなに示した。
「この通りガルアも警戒を見せることなく、ここに立っている。さてと長々と話していたが俺が何者なのかそろそろ宣言するか。俺の名はガイス、この島の本来の王だ!」
その言葉に周りの人達は動揺を隠せないでいる。
そりゃあ突如現れてた奴がいきなり王と名乗れば混乱するのも無理はないよな。
だが周りの人達の反応を見るに王と言うよりもなぜ生きているかが疑問に出ているみたいだ。
ガイスはその周りの反応は全て予想通りなのか流暢に話し始める。
「さらなる混乱を招いてしまったかな。だがお前たちがそう混乱するのは記憶を失っているからだ!なぜ記憶を失っているのかも記憶を取り戻せば分かること、それでは話をスムーズに進める為にも封じた記憶を解放するとしようか!」
「記憶を封じてる?どういう意味だ」
「何を言っているのか分からんのう。と言うかあやつ敵じゃろ。なぜそいつがガルアの城で偉そうにしておるのじゃ」
「デビ今その話は置いとけ」
ガイスは空中に手を広げるとその瞬間、この島を覆いつくす程の魔法陣が展開された。
その魔法陣は到底一人で練りだすことは出来ないほどの魔力が込められていた。
「な、何だあの魔法陣は!」
「かつこれってもしかしてまずいんじゃないの」
「これくらい妾でも余裕じゃぞ。と、言いたいところじゃが確かにこれはまずいのう」
「それでは行くぞ!蘇りし記憶!」
その言葉を放った瞬間その魔法陣が輝きだし、その光は島中を包み込んだ。
その眩しさから思わず目を閉じて数秒間瞼の裏から光を見続けそして光が収まるとゆっくり目を開いた。
「んっ……何が起きたんだ?」
周りを見るがそこには何か大きな変化が起きてる様子はなかった。
空の魔法陣はすでに消えていてその役割を終えたことが分かった。
特に身体的にも精神的にも変化が起きてるわけもなく、周りの建物や自然の変化も見られない。
一体どういう事なんだ、あの魔法には一体何の意味があるんだ。
「ねえかつ。何か変わったかしら?」
「ミノルも変化はないのか。デビは……」
「何か眩しかったのじゃ。目がしょぼしょぼしてるぞ」
「特に変化はなさそうだな。どれじゃあさっきのは一体」
「思い出した……」
「え?」
誰かがそんな事を呟いたのが聞こえた。
するとそれに同調するかのように周りの人達が口をそろえて思い出したと言い始めた。
「かつ、これって」
「ああ、間違いない。今の魔法は皆が忘れていた記憶を思い出す魔法。記憶を無くしている人には聞くけど俺達みたいな失ってない人には効かないのか」
でもこの様子だと俺たち以外のほとんどの人は記憶を取り戻したってことか、その記憶も恐らく俺があの本で知ったことだよな。
「これで俺が王だということが理解出来ただろう!俺こそが真の王であり、俺が復活をするまでにお前達には記憶を消してもらうことにした。それはもしお前らが外に出たいという気持ちが現れることを危惧したからだ。だがこの俺が蘇った暁にはすぐにでもこの島を離れ、外の世界を自由に歩けることだろう。俺達は人間などと言う劣化種族ではなく半獣と言う一つ上のステージに居るのだ。それなのになぜ、こんな所に閉じ込められなければならない、なぜこんな鳥かごのような思いをしなければならない。俺達はもっと自由であるべきだそうだろう!」
これはまずい、記憶を取り戻したことでガイスの存在はすでに気にならなくなっている。
皆があいつの話を聞いている。
これは嫌な予感がする。
「力があるなら振るえばいい!叶えたい願いがあるのなら叶えればいい!俺達を縛る者は全て切り落とし、新たなる世界へと飛び出そうじゃないか!俺達は元々そう言う生き物だったはずだ!もしその想いがあるのなら俺について来い。必ずお前らをこの島から出し、そしてこの島の外で何不自由なく暮らせることを約束しよう!こんなちっぽけな島で一生を過ごすような惨めな人生なのではなくより刺激的でより変化を求めた生活を送ろうじゃないか!このガイスが宣言しよう!俺は世界の王となりお前らを導くと!さあ、ここから始めよう、俺達の時代を!」
その時空気が震えるほどの歓声が響き渡った。
それは新たな時代の始まりを意味していた。




