その四 その名はデビ・ブロッサム
「うそ……どうしてここに居るの……デビちゃん!」
いつかは必ず会えると思っていた。
再開を誓い合ったし、また一緒に冒険できると思ってたけど、まさかこんな所で再開するなんて。
「久しぶりじゃのう、ミノル。会いたかったぞ!」
「デビちゃん……私も会いたかった、会いたかったよ」
目の前の景色が滲んでいく。
もっとしっかり顔を見たいのに何度も何度も拭いても止まらない。
「泣くなミノルよ。せっかくまた会えたのじゃ、お主の笑顔を見せてくれ」
「だって、だってだって!っ!?」
その瞬間強力な魔法がデビに向かって放たれる。
その風圧に吹き飛ばされそうになりながらも、私はしっかりとその目でデビちゃんを見た。
そこには確かに私が知っている姿のデビちゃんではなく、デビさんと言えるほどに急成長した仲間が居た。
妖艶かつすらりとした容姿、子供の頃とは違う大人の雰囲気と危険さを併せ持っているけどかつての面影を感じさせるその笑顔と言葉遣い。
そっか、なったんだね。
「これでも無傷か」
「何をするのじゃ。仲間との再会に水を差すのをやめんか」
「仲間だと?地獄の者がこの世界のただの半獣の仲間?ははっこれは面白いな!」
そう言って目の前のガイスと言う男は高笑いを始めた。
デビちゃんの魔力はすさまじいけど、あの男の魔力もすさまじい。
黒の魔法使いよりもガルアよりもすさまじい、でも今のデビちゃんなら大丈夫なはず。
「お主何者じゃ。なぜ妾の仲間を狙う」
「狙う理由はただ一つだ。そいつらが俺の邪魔をするからだ。だから殺すか」
「そうか、なら妾がすべきことは一つじゃな。お主を殺す」
その瞬間、デビちゃんは目の前男を軽々とぶん投げた。
ガイスは身動き一つとれずに天井にぽっかりと開いた穴を通って勢いよく飛び出た。
「ほお、面白いな。2人の王と対決か」
「デビちゃん!」
私はただその行方を見届けることしか出来なかった。
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「ははっ!すばらしい力だ!やはり地獄の者は魔力だけではなく身体能力もずば抜けているな」
ガイスは自分が吹き飛ばされたのにもかかわらず、楽しげに笑い声をあげる。
それを見てデビは不快に眉をしかめる。
「何が可笑しいのじゃ。お主は殺されるというのにそんなに愉快かのう」
「嬉しいに決まっているだろう。この時代にまともにやりあえる奴などもういないと思っていたのだからな。全力でやりあおうじゃないか!!」
その瞬間、一瞬にも満たない速度で高レベルの魔法陣が5個展開された。
デビはその魔法陣を全て視覚に収めると同じくその全ての魔法陣に自らの魔法をぶつけた。
「デビルサイクロン!!」
悪魔の鋭い爪のような切れ味の漆黒の竜巻がすべての魔法を切り裂いて行く。
だがガイスはそれを見ても笑顔を忘れずに魔法を次々と出していく。
「良いぞいいぞもっとだ!もっと俺に力を見せて見ろ!」
「偉そうに妾に指図する出ない!デビルバイティング!」
悪魔の鋭い牙がガイスに襲い掛かる。
だがガイスは焦ることなく、魔法を展開する。
「ギガントプレス!」
刺々しい巨大な岩が目の前の魔法を潰す。
2人の魔法の威力は均衡であり、その衝撃により魔法は消滅した。
「お主、ただの人間ではないのか」
「人間だと、俺をそんな劣化種族と一緒にするな。俺は半獣だ、そしてその中で最も優れた王なんだよ」
「はっはっは!王か、それは大層な称号じゃのう。じゃがお主は王としての器ではない。妾には分かるぞ。お主の中身は空っぽじゃ、王と言う名前を得ただけでその義務を何も果たしてはおらぬ。名ばかりの王じゃ」
「俺は自分のしたい事をすべて実現してきた。出来ないことなどなかった。だからこうして俺はいま生きている。何故ならすべては俺を中心にして回ってるんだ。王になるべくして生まれて来たんだよ」
「強さだけでは王は務まんぞ。王と言うのはそんな簡単な物じゃないのじゃ。じゃが今はそんなことどうでもよい。お主は妾の仲間を傷つけた、だから妾はお主を許さん」
デビは目を見開くと途端に巨大な魔法陣が出現した。
その魔法陣には高密度の魔力が込められていた。
ガイスもそれを見てさすがに先程までの余裕はなくなっていた。
「意味が分からないな。なぜそこまでして仲間を守る。所詮仲間はただの他人だろう。この世界ならなおさら死など普通に起こりうる。ましてや地獄の者がなぜわざわざこいつらの為にここに降り立つ、なぜ自らの手で守る」
「決まっておるじゃろう、あやつは妾の大切な人じゃ。そして妾は仲間を絶対に見捨てないのじゃ!」
「大切な人だと!あの今にも死にそうなザコがか!俺には理解できないな、ザコに命を懸けるその意味を!」
「黙れ小童が。あやつはザコではない、特別なのじゃ。あやつの本質を理解できるような奴にこれ以上会話する必要はないのじゃ」
「特別だと?あれの何処が特別だ!一振りすれば消える脆弱な力しか持ちえない奴の何処が、特別だというんだよ!」
ガイスは対抗する様に空中に巨大な魔法陣を展開させる。
だがその言葉にデビは鼻で笑って見せた。
「地獄の王が惚れた男、それだけで十分特別じゃろ」
「何だと」
「よく聞け、小さき世界の王よ!妾は地獄の王、デビ・ブロッサム!その名と力をその身に刻むが良い!デビルオンインパクト!!」
「――――――――っ!」
紫色の閃光が島を照らす。
その一撃は確実に相手の息の根を止める一撃だった。
その光が収まるとその魔法を放った場所は跡形もなく消滅していた。
「この感じ、逃げたか。まあよい、これ以上関わるとお父様に引きずり戻されてしまうしのう」
そう言ってデビはミノルたちの居る研究所に戻って行った。
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「終わったのかな?」
すごい音がしたけど、急に静まった。
デビちゃんなら心配いらないと思うけど、ガイスを殺しちゃったらそれはそれで嫌だし、まだ目的も何も聞けてないからできれば生きててくれた方が良いんだけど。
そんな事を考えているとデビが軽快な足取りでこちらに戻って来た。
「デビ――――――むぐっ!」
「ミノル―!妾は会えて嬉しいぞ!耳と尻尾はどこ行ったのじゃ、イメチェンかのう」
デビちゃん、本当に色々成長してるわね。
抱きしめられると色々と当たるわ。
「デビちゃん、嬉しいのは分かるけどちょっと苦しいかな」
「ああ、すまんのう。妾成長し過ぎて苦しませてしまったみたいじゃな」
「デビちゃーん」
「ミノル怖いのじゃ。ちょっと冗談を言っただけじゃ、許してくれ」
「分かってるよ。お帰りデビちゃん」
「うむ、ただいまじゃミノル。それでかつはどうしたのじゃ。そしてその男は新しい仲間か?それとも妾見たいに成長したリドルかのう」
「違うわこの人はかつの左腕を治してくれてるブライドよ」
現在もかつの左腕を治しているブライドは紹介を受けるとかつを見ながら手を振った。
「よろしくねーていうかデビだっけ?驚いちゃったよ。まさか地獄の王女様とこうして生きて会えるなんてね。一生に一度あるか無いかの体験だよ」
「当然じゃろう。妾はすごいからのう、もっと褒めてもいいのじゃぞ妾が許可する」
「デビちゃん、偉そうに言っちゃ駄目でしょ」
「何を言っておるのじゃ。妾は実際にえらいのじゃ」
「ははっ面白いね。ところでさ、あいつの事本気で殺すつもりなの?」
その言葉を聞いた瞬間、先程まで楽しそうに笑っていたデビの表情が険しくなる。
「妾は世界に影響を及ぼすような出来事に参加する気はないのじゃ。もしそんなことをしてしまったら、妾はもう2度とこの世界に戻ることは出来ないのじゃ」
「それはお前の仲間が殺されたとしてもと、解釈してもいいのかな」
「その時はそやつを殺して妾は地獄へと帰る」
「デビちゃん……」
「そりゃおっかないな。よし、治ったぞ」
ブライドはそう言うと機械を動かすのをやめて立ち上がる。
沢山の機械の手はかつから離れると、その左腕は綺麗に元通りになっていた。
「数分後には目を覚ますだろうな。その後俺はもうお前らとはさよならだ」
「本当にありがとう。会ったばかりなのにここまでしてくれて」
「良いんだよ。それよりもこれからお前らはどうするんだ。あいつ次第なのか?」
そう言ってブライドはかつの方を指差す。
「分からない。まだ状況を完全に把握しているわけじゃないし、これからの事はじっくり話し合ってから決めるわ」
かつ、あなたは一体どんな使命を持って戦っているの。




