その一 忘れた記憶
「半獣を絶滅って何言ってんだよお前!」
ハイはブライドと名乗る男の言葉に驚きを隠せずにいた。
そりゃそうだよな、助けてくれた奴がいきなり殺すって言ってるようなもんだよな。
「そのまんまの意味だけど」
「お前だって半獣だろ。まさかその耳も尻尾も飾りだなんて言うんじゃないだろうな」
「そりょもちろん自前の耳に決まってるだろう。触って確認してもいいぞ?」
その言葉を聞いてさらに先程の発言の本気度が伝わって来る。
飄々とした態度でいるから真意が読み取りずらい、でもおそらくその理由は何となく分かる気がする。
同じような目的を持って行動していた奴もいたしな。
「助けたのって私達をその手で殺すためなの」
「いやいや、今回は単純にお前らを助けただけだぞ。そこに真意も何もない!」
その言葉を聞いてもみんなの疑いの視線は無くなることも無く、ブライドは何かを考えるように口元に手を添える。
「もしかしてお前ら、自分たちが元々何なのかまだ思い出してないのか?」
「どういう……意味……」
「はい、ここで分かるよって人は手を上げろ」
誰か手を上げている人は居ないかと皆は周りを見渡す。
まあ、ここで黙っていてもいいんだけどブライドの真意を探るためにも手を上げるか。
俺はゆっくりと手を上げると、そこに視線が集中しているのをひしひしと感じた。
まあ普通に考えたらそうなるよな。
「なるほどね、因みにそれは全部か?それとも一部?」
「そもそも全部を知らないから、俺が知っている情報が全てかどうか分からないな。でも半獣が元々は——————」
「あ~ストップそこまでだ。分かったからもういいぞ。わざわざここで言わなくてもどうせ後で全部思い出すし、二度手間だろう」
「二度手間?思い出す?さっきからお前ら二人で何の話をしてるんだよ。俺達にも分かるように説明してくれ」
俺とブライドの会話内容に疑問を抱いたハイはブライドに詰め寄る。
だがブライドは二ヤリとほくそ笑むと立ち上がり部屋を歩き出す。
「まあまあ今は気にしなくていいから。とりあえず分かる奴にだけ説明するとだな。俺が半獣を絶滅させ理由はただ一つ。存在自体が悪だからだ」
「悪?どういうことだよ。もう少し詳しく言ってくれないか?」
「後は自分で考えろよ。半獣の正体に気付いてるなら分かることだけどな」
正体に気付いてるなら……俺が知っている情報だと半獣は元々人間なんだよな。
そいつらが悪だっていうなら何か悪い事をする理由があるってことだよな。
一番に考えられるのは同意もしていないのに無理矢理半獣にさせられた恨みからくる。
「復讐ってことか?」
「正解ー!まあ正しく言うと素っ裸王と一緒にこの世界を支配しようとしているだな」
素っ裸王ってハイガスの事だよな。
「復讐ってどういう事よ。世界を支配するとか急に言われても意味が分からないんだけど」
「ああ、さっきも言ったけどこの話は分かる奴だけ聞けばいいから」
そう言うとブライドは手を叩き高らかに宣言した。
「まっそう言う事だからこれにて解散な。送ってってやるよ、行きたい場所教えて」
「え?解散?もう?」
「当たり前だろ。もう話すことも無いし、それに悠長にしてる暇もないからな」
そう言ってブライドは切り落とされた俺の左腕を持つ。
「ああ、かつ腕無くなってるじゃん!どうしたの」
「ロー今更かよ。確かにローブで隠れてたけどさ」
「お前それガルアにやられたのか」
「ガルア様に!?お前それでよく片手だけで済んだな」
「かつ……大丈夫……」
何か一斉に心配されると妙な気恥しさがあるな。
「ああ、何とか大丈夫そうだ。血も止まったみたいだし」
「さすがだね」
「え?」
何だ今の流石ってどういう意味だ。
この人の真意はマジで読めない。
「それじゃあ、時間もないし早めに済まそうか。戻りたい場所指定が無いなら適当に送るけど」
「それじゃあ、俺達は魔法協会に送ってくれ」
「任務も達成したしお酒をがぶ飲みするわよ!」
「おっけーそれじゃあお前らはどうする」
「いまさら城に戻ったところで殺されるだけだろうしな、カルシナシティーに送ってくれないか。ツキノ、お前もついて来い」
「分かった……」
「よーし、それじゃあテレポート開始するぞ!邪魔またどこかで会おう!」
ハイ達の足元にそれぞれ魔法陣が出現する。
え?ちょっと待て、もしかしてテレポートの魔法陣2つ出してる。
何か平然と凄い事してるんだけどこの人。
ハイ達の魔法陣が光り輝くと次の瞬間、もうみんなの姿はなかった。
「さてとそれじゃあ俺達も行くか」
「何処に行くんだよ。どこって研究所に決まってるだろ。かつの左腕を治すんだよ」
「え?これ治せるのか?だからわざわざ左腕持ってきたのか」
「当たり前だろ。現代の科学技術をなめるな」
そっかこの切れた左腕も治せるのか。
それならミノルの症状も治せるかもしれない。
「その前に行きたいところがあるんだ」
「なるべく時間は有効に使った方が良いけど、何処に行きたいんだ」
「俺の家に連れて行ってくれ」
「かつの家か。いいよ、具体的な場所を教えてくれ」
俺は自分の家の場所を細かくブライドに伝える。
粗方伝え終えるとブライトは大きく頷いた。
「なるほどね。それじゃあすぐにでも飛ぼうか。時間も無いしな」
「ああ、任せた」
その瞬間、先程と同じように地面に魔法陣が展開される。
そして目の前が光り輝いた。




