その二十一 蘇りし王
「ああ、駄目なんだ。それだけは駄目だ!どうしして、どうしてこんなことに……ラミアは!ラミアはどこに居る!」
何だ、ガルアの様子が明らかにおかしい。
いや、たしかに魔力の供給が途絶えたことで焦る気持ちは分かる。
だが今のあいつの様子は焦りよりも何かを恐れている感じだ。
「ラミアが居ない!何処だ!どこに居るんだ!」
ガルアは必死にラミアを探し回る。
掛けておいたローブだけが残されていたところラミアは前からここを離れていた。
だとするとこれを止めたのはラミアなのか。
「まさか、ラミアあいつ!なんでだ、どうして俺の忠告を守らなかった!絶対に止めるなとあれほど言ったのに!」
「ガルアもう諦めろ。魔力供給も止まったんだ。もう終わりだよ」
その時今まで慌てふためいていたガルアが突如動きを止める。
すると何故か不気味な高笑いを始めた。
「はは、ははははは!終わり?終わりだと?何を言ってるんだ。お前は本当に何もわかっていないなかつ。ここから始まるんだよ。俺は絶対にお父様を復活させる」
そう言うとガルアは装置へと近付き何かを手にした。
それは拳銃のような形をしていて、その中にガルアは石を装填した。
そしてその銃口をこちらに向けるわけではなく自分の腕に押し当てる。
「お前何する気だ!」
「黙って見てろ!」
まずい、まだあいつは諦めてはいない!
俺はすぐにガルアの元に走り出そうとするが突如体が思うように動かなくなりふらつく。
何だ、頭が痛い、もしかして腕を切り落とされた時に血を流し過ぎたのか。
そうこうしている内にガルアはその銃の引き金を引いた。
一瞬ガルアは苦痛の表情を浮かべるがそのすぐ後に不敵な笑みを浮かべる。
そしてその石を腕から取り出すと血と共に紫色の石が現れた。
それは明らかに魔力を宿していた。
「何だよそれ」
「浜崎が俺の為に作った物だ。だがそいつはこれで死んだがな」
「浜崎!?そうか、あいつはやっぱり死んだのか」
「本当は心臓に打ち込まなきゃ魔力を十分に吸うことは出来ないが、これだけあればお父様を復活できるはずだ」
ガルアはその石を握りしめると装置を弄り始めた。
まずいこのままじゃ本当に復活されてしまう。
俺はふらつく体を支えながら何とかガルアの元に向かう。
「やめろガルア!そいつを復活させたらどれだけの人が不幸になるか分からないのか」
「情報だけを聞いただけでお父様を分かった風に聞くな」
「それでもラミアはお前の事を止めたがっていたぞ」
「あいつは何にも知らないんだよ!これはあいつの為でもあるんだ!早くしないと時間が無いんだよ」
どういう意味だ、ラミアの為?
ガイスを復活させることがラミアの為にもなるのか?
どういう事なんだ、ガルアの目的はお母さんを救う事じゃなくてラミアを救う事なのか?
それに時間が無いって何の時間が無いんだよ。
そんな考えをしている間にガルアは機械の中に魔石を入れる。
そしてガルアはレバーを手に取るとそれを思いっきりおろした。
「やめろーーー!!」
その叫び声もむなしく装置が音を立て始めると、一番最後のランプが光り出した。
まずい、復活する為の魔力が集まっちまった。
「やっとようやくこの日が来た!ついにお父様が復活するぞ!これでようやく俺の役割を全うすることが出来た」
まだ間に合うはずだ!魔法で装置を破壊する!
そう思い、魔法陣を展開しようとするが視界が霞んで上手く魔法陣を展開できない。
それに頭も痛くて集中が出来ない。
これはもう止められない!
その瞬間、ガラスを突き破るように手が突き出される。
そしてゆっくりと装置に手を掛けると体を起こし始めた。
ああ、止められなかった。
復活させてしまった、最悪の王を。
「お父様、分かりますか?俺ですガルアです」
その男は体をほぐすように伸ばしたり、首を回したりしながら辺りを見渡す。
そしてガルアの方を見ると無表情だった男は微笑んだ。
「そうか、ついに俺を復活させたか。息子よ」
「はい、約束は果たしました。次はお父様が約束を果たす番です」
「まあそう慌てるな。それに今の俺は裸だ。着る物を寄こしてくれないか」
「着る物ならお父様の部屋にあります」
「そうかならことを急ごう。城の構造は俺が眠りに着く前から変わってないのか」
分かる、感じる。
あいつの体からそこが見えないほどの魔力を。
この島のマナを全て取り込めるほどの魔力を感じる。
こいつはやばい、やばすぎる。
一回でも魔法を向けられたら死ぬ未来しか見えない。
それ程の実力差だ。
その時、ガイスと視線が合った。
それにより体が強張る、呼吸が出来ないほどの緊張が走った。
「あの片腕男は何者だ」
「ああ、あいつはお父様の復活を邪魔しに来た男です。ですがもう終わった事ですから」
「なるほど、つまりカスという事か。邪魔だな、消すか」
「え?いや、そこまでしなくても——————」
それはほんの一瞬だった。
目の前でガイスが消えたと同時に体中から死を感じ取った。
ほんの数秒、いや0.1秒のその時間の中で目の前に魔法陣が展開された。
「っ!!」
ガイスはその魔法陣に直撃すると大きくのけ反って、その魔法を放った人物の方を見る。
俺は何が起きてるのか分からずにただ呆然と目の前の光景を見ていた。
何が起きたんだ、全然理解が出来なかった。
ただ間違いなくこの後死ぬだろうという本能を感じ取った。
だけど、ガイスは何故か攻撃を受けていて、そして俺は生きていてどうなってんだ。
「いやあ、危なかったぜ。危機一髪ってところだな」
その声が聞こえてきた方を見ると大きな風穴があいていた。
そしてそこに一人の男が佇んでいた。
「なぜお前がここに居る。お前は海底牢獄に閉じ込めていたはずだぞ」
「そうだな。随分と長い事閉じ込められたよ。だがよ、俺には優秀な仲間が居るんだよ」
「仲間だと?旧世代の奴らは全てこの島を出て行ったか、記憶を失っているはずだがまあいいだろう。今度こそ息の根を止めてやろう」
何だ何だ何が起きてんだ。
こいつは何者なんだよ、ガイスとは何かしらの関係があるってことか。
それにわざわざ魔法でガイスを攻撃したってことは味方で良いのか?
するとその男はゆっくりと降り立ち俺の元に向かっていく。
「大丈夫かって見たところかなりやられちゃってるな。左腕は……あそこか」
「え?あ、あの」
その男は俺の左腕を見つけるとその左腕を取りに向かった。
「これで良いの——————」
その男が左腕を手にした瞬間、一瞬で魔法陣が展開され強力な一撃がその男を襲った。
「いつまで俺抜きで話を進めている」
「やめなって病み上がりなんだし、そんなに無茶するもんじゃないでしょ」
その男は埃を払うかのように服をはたきながら傷一つ付いていなかった。
「お前も同じだろう。出なけれあ俺を真っ先に殺しに来ないのは不自然だな」
「ご名答、今すぐにお前を殺したいところだが今はそれよりも優先しないといけないことがあるんでね」
その男は俺の左腕を手に取り俺の元に戻って来る。
すると俺の近くにその左腕を置いた。
持てってことなのか?
何か自分の左腕を手に取るってすごく気持ち悪いな。
「俺がお前を心から逃がすと思ってるのか」
「出来るぞ。すっぽんぽんの今のお前なら魔法を使わなくてもな」
「ははっははははは!面白いな!面白いぞ!すばらしい冗談だな、目覚めた時にお前と出会えてよかったよ」
な、何だ急に笑い始めたぞ。
もしかして見逃してくれるのか?
「どうやら数年経っただけで忘れてしまったみたいだな。俺がどれだけ強いのかを」
めちゃくちゃ怒ってるんですけど!
血管も浮き出て魔力も溢れかえってるんですけど!
まずいまずい、まさかここで戦いを始めるのか。
今の状態じゃ自分の身を守ることも出来ない。
一触即発の状況で突然扉が開いた。
「おい、かつ大丈夫か!」
「ハイ&ローが加勢に来たわよ!」
「助けに来た……」
「おいおい、勝手に行くなって言ってんだろうが!」
そこに居たのは間違いなく魔の悪いタイミングで入って来たハイ達だった。
「何だ、あの男の他にもこんなにネズミが入り込んでいたのか。ガルア、お前は少々雑な仕事をし過ぎたみたいだな」
「っ!確かに侵入者は多いですが、俺はすべきことをしたはずだ!」
「まあいい、殺せばいないような物だろう」
まずいな、ガイスの矛先があいつらに向かってしまった。
何とかして助けないと!
「なあ、あいつらはお前の仲間なのか?」
「え?あ、はい」
「そうか、なら助けてやるよ」
え?今何て言った。
助けてくれるって言ったのか。
助けてくれるのか。
「ちょ、ちょってタイミングが悪いみたいね。あいつかなりやばそうよ」
「ああ、俺も感じる。長年怪盗やってると危機察知能力も磨きがかかるんだ。今回は絶対関わるなと体が拒否反応を起こしてるぞ」
「……」
「おい、ツキノ。お前何戦う気満々になってるんだ。あの男は別次元の存在だ。関わったら本当に死ぬぞ!」
「さてとごみ処理は迅速に済ませないとな。一欠けらも残さずに消そう」
まずいってあいつら一欠けらも残さずに消えるぞ!
これ本当に助かるのかよ!
その時男はゆっくりと地面に手を付いた。
その瞬間、地面に巨大な魔法陣が展開された。
「っ!?な、何だこれ!」
「小癪な」
「さて行こうか」
ガイスは一瞬男の方を向くがすぐにツキノ達の方に向き直り、魔法陣を展開する。
「テレポート!!」
だがそれより早く地面に展開された魔法陣は光り輝くと目の前が見えなくなった。




