その二十 ガルアとラミアの母
「なあ、これが終わったら一杯飲みに行くか」
「それもいいわね。目的達成の祝杯と行きましょうか。でもかつの方はどうなってるの。このまま音沙汰無かったらもしかすると……」
ローが言い切る前に突如誰かがこの部屋に入って来た。
目の前に現れたその少女は俺達を見て驚いた顔をしている。
当然俺もローもその少女を見て唖然としていたが俺はすぐにその少女が何者なのか知るために恐る恐る質問をした。
「お前誰だ?」
「私はラミアです。あなた達はかつお兄ちゃんの仲間ですか?」
ラミア?聞いたことのない名前だな。
だが、少なくとも絶対かつの知り合いみたいだが、あいつの事をお兄ちゃんと呼んでるのが気がかりだな。
あいつに妹なんて居たのか、まあ交友関係がそこまで深いというわけではないが、その事を俺達に伝えてないのが少し気がかりだな。
「かつお兄ちゃん?えっとラミアちゃんだったわね。あなたかつの妹ってことで良いのかしら」
「そうですね。でも厳密に血が繋がった兄弟はガルアお兄様です」
「ガルアの妹!?ちょっと待て、たしかにそんな話は耳にしたことがあるが、どうしてそんな奴があいつの事をお兄ちゃんと……いや、今はそれはどうでもいいな。とにかく、ラミアはガルアの兄弟ってことはこの部屋の事も最初から知ってたってことか」
「はい、それでは皆さんはかつお兄ちゃんの仲間なんですね」
「まあそう言う事になるわね。私の名前はローよ」
「俺はハイだ。それでラミアは何しにここに来たんだ。俺達を倒しに来たのか」
こいつは何を考えてるのか全く分からない。
先ずは情報を得るのが先決だな。
「い、いえ!むしろその逆です!ガルアお兄様を止めて欲しくてここに来たんです」
「ガルアを止める?お前ら兄弟なんだろ。なのに兄の敵になるのか」
「今のお兄様はおかしいんです。お母さまが永遠に魔力を吸われるだけの人生を送らなければならない人生と分かりつつ、お兄様はそれを止めなかった。そうまでしてお父様を復活させる理由が分からないんです」
どうやらかなり思い詰めているみたいだな。
これが演技だとしたら大したものだが、本当にガルアを止めたいだけなのかもしれない。
「ハイ、どうやらあの子は味方みたいよ」
「今の所はな。ラミア、お前の事情はよく分かった。ここに来たってことはこの部屋にガルアを止める何かがあるってことだよな」
見たところ、この巨大な装置とかいう奴で眠っているこいつらの母親以外は見新しい物はないが。
するとラミアはゆっくり頷きそのガルアを止める物へとゆっくりと歩き出した。
そしてその足を止めた場所はその装置の前だった。
「この機械を止める。そうすればお兄様の計画は阻止される」
「ちょっと待て、たしかガルアの話ではその装置を停止すれば中に居る人の命も尽きると聞いたぞ」
「それを分かったうえでラミアはそれをしようとしているのね」
「つまり母親の命と引き換えに止めるという事か」
ラミアは心苦しそうに頷く。
どうやら覚悟は出来ているみたいだな。
「私達もそれが出来たらガルアの計画を止められるとは知っていたわ。でも人の命が掛かっている選択だったから、私達は放置することにしたけどラミアがやるっていうなら止めないわ」
「分かってます。その為に来たんですから」
ラミアは確かな覚悟を持ってその言葉を放った。
家族である人が言ってるんだ。
その人がやるって言ってるんだからこれ以上言うのは野暮だよな。
ラミアはやり方を理解しているのか、迷うことなく装置を弄って行く。
そしてある程度装置に触ると今まで迷いなく動いていた手が止まった。
どうやら次の操作で本当にこの装置が止まるみたいだな。
ラミアの手はかすかに震えていたが、その手をぎゅっと握りしめた。
「お母さま、こんなことになってごめんね」
その声が聞こえたと同時にラミアの手は装置に触れていた。
ガラスにはラミアの涙が零れて行く。
すると機械は音を立てて光を失って行った。
「終わったのか?」
「はい……」
「そんなに落ち込む必要はないわよ。ラミアのお母さんもきっと感謝していると思うわ。これでガルアの計画も阻止できたしね」
「そうですよね。これでよかったんですよね」
自分の母親を自分の手で殺したような物なのか。
そう考えるとこいつは本当によくやったよな。
「なあ、ガルアとかつは今どこに居るのか知ってるか?」
「もう一つの秘密の部屋だと思います。恐らくお兄様と対峙しています」
「戦ってるのか。まさか王と1対1でやる何て相変わらずやってることがめちゃくちゃだな」
「まあ、あの子の事だからなんだかんだ言って生き残ってるだろうけどね」
「そうだな。だが本格的にこれ以上ここに居る必要も無くなった」
「それじゃあ、かつの元に向かいましょうか」
俺達はかつの元に行くと決めラミアの方を見ると、いまだに名残惜しそうにガラス越しで母親を見ていた。
そっとしておいた方がラミアの為でもあるか。
「行くぞロー」
「そうね、行きましょうか」
俺達はラミアをその場に残してかつの元へと向かって行った。
「え——————」
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「ここが……監視室……」
「ああ、おそらくこれを知ってるのは俺とガルア様だけだ。開けるから少し下がってろ」
ツキノは目の前の壁を監視室と言っている俺に不思議なまなざしを向ける。
まあ、そりゃそうだよな、はたから見たらただの壁だしな。
たしかガルア様に教わった通りの場所に魔力を注ぐと行けるんだよな。
俺はうっすらと見える魔法陣を見つけるとそこに手を置いて魔力を注ぐ。
それが条件であり、魔力が注がれた為その魔法陣が光り輝き仕掛けが動き始めた。
ただの壁だったそれは次第に入り口が現れていき、そして数秒後には立派な鉄の扉が現れた。
「これって……」
「この奥が監視室だ。先に言っておくとこの奥に何かがあるわけじゃない。ただの無駄骨になる可能性もあるがそれでも行くか?」
「行く……」
「そうか。それじゃあその魔法陣に手を当てて魔力を注いでくれ。登録しておかないと侵入者と見なされ攻撃されるからな」
「誰に……」
「機械にだ」
ツキノは恐れることなく魔法陣に手を当てる。
そして魔力を注ぎ込んだのか魔法陣が緑色に輝くとそのままゆっくり光が消えて行った。
「よし登録完了だな。それじゃあ早速中に入るか」
俺は重厚な扉に触れると自動で開き始めた。
そして人が入れるくらいに扉が開くと俺はすぐに中に入って行った。
そしてあとに続いてツキノも中に入って行く。
「ここが……監視室……」
中には大量のモニターとそれを操作するパネル、そしてモニターには島中の映像が流されていた。
「これ……なに……」
「島の中にあるカメラで撮った映像がここで流れているらしい。ちなみにこれは魔力を使われていない。電波と電気によって動かされているらしい」
「何それ……」
「俺も詳しくは分からない。いや、分からなくなったという方が正しいか。とにかくこれはそう言う機械だ」
ツキノはそれ以上質問して来ず、目の前のモニターを興味津々で見渡す。
この中にもこいつの馴染みがある場所が映し出されているだろう。
するとツキノは何か言いたげにこちらに振り返った。
「城の中……映像ない……」
「それぞれの王の城にはカメラは設置されてないんだ。それと新しく作られ建物にもないらしい。ここに映し出されてるのは元から設置されていたカメラだけだそうだ」
「元から……」
「まあ気になるよな。俺もそれをガルア様に質問されたが省かれた」
元から、おそらくその言葉の意味は本当にそのまんまだろう。
誰かが島中にカメラを設置してそれを最後に誰もカメラを設置していないという意味。
それが誰かって言うのが分からないんだけど。
するとツキノが一つの映像を指差す。
それは暗くじめじめとした場所でまさに牢獄という言葉が似合う場所だった。
「ここどこ……」
「ここは……っ!?なんだ!」
いきなり城が大きく揺れ動いたぞ。
今の衝撃は明らかに魔法を使ったもの物だな。
もしかしてガルア様とかつが戦ってるのか?
マジかよあいつ、まさかとは思ったがガルア様と戦うなんて本当に馬鹿なのか。
「今の……ハイトありがとう……それじゃあ」
そう言うとツキノは走り出した。
「おい、ちょっと待て!」
俺はツキノを追いかけるようにしてその場から走り出す。
その時、あるモニターの1つにこちらを見ている視線を感じ思わず顔を向ける。
だがそれはガルア様の城近くの町の映像であり、特に変わったところは見られなかった。
そのまま俺は気にすることなくツキノを追いかけた。




