その十七 永遠の地獄
「ん?あ、ああ……」
俺は痛むお腹を抑えながら何とか立ち上がる。
そしてゆっくりと周りを見渡して今の自分の状況を思い出す。
「ああ、そっか。たしか秘密の部屋に入ったらガルアにいきなり襲われて」
この殴られたような痛みは多分本当に殴られたのか。
魔法を補助に使って拳のスピードを速めたんだな。
そりゃそうだよな、最強の魔法使いと言われているガルアの一撃を喰らって俺なんかが生きていられるわけないよな。
「ああ、いててて……おいロー大丈夫か!ロー!」
俺が最後にローが気絶していた場所に向かったが、そこにはローの姿はなかった。
さらに周りを見渡すと謎の物体の前にローが立っていた。
「ロー何やってんだお前」
「これ、魔力吸引装置らしいよ」
「ま、魔力何だって?」
「そう言う機械らしい。ここに眠ってる人の魔力を吸い続けてるみたい」
「誰に教わったんだよ」
「ガルアよ。どうせ何も出来ないと言って一方的に説明したの」
ローはそう言うとじっとその機械を悲しそうな目で見ていた。
まさかこいつ。
「なあ、情でも沸いたのか?」
「ちょっとね。永遠に魔力を奪われるためだけに生かさせる人の気持ち理解出来る?」
「まあ、俺は理解できないな。実際にそんな状況に陥ったわけじゃないし
「私も。理解は出来ないけど、生き地獄だってことは理解出来る。それは死んでるのと一緒だって」
これはもう完全に情が移ってるな。
まっ確かに意味は違うが大きく見ればローも生き地獄を味わったような物か。
そのことも合ってこいつなりに助けたい思いが強くなったのかな。
俺はそっとガラスに触れた。
中に居る人は痩せこけていて死んだように眠っていた。
確かにこれを見ちゃ情の一つも沸いちゃうか。
「それじゃあどうする。この機械?って奴からこの女の人を出すか?」
「この装置には延命機能もあるんだって。無理矢理開ければ死んじゃうらしい」
「だけど、お前が言うにこれは死んでるのと変わらないんだろ。だったらいっその事解放してあげた方がこの人の為なんじゃないのか?」
「だけで私達がそれを決めていいわけじゃない」
「それはどういう意味だ?」
知らない人だからか?
いや、こいつの言葉にはもっと重い何かがあった。
「これもガルアから聞いたんだけど、この人お母さんなんだって」
「っ!?あいつの母親!?それなのに魔力を吸い取ってるのか?」
「そう、もうガルアは誰にも止められないわ。計画を達成する為なら家族すら利用しようとするやつよ」
「なるほどな。つまり俺達に出来ることは何もないってわけか」
無関係な人にこれを決めることは出来ない。
ましてや人の命が掛かっているなら、それは簡単に踏み込んじゃいけない領域だ。
少なくともそれを選択する権利は今の俺達にはない。
「とりあえず一旦休もう。とりあえず俺達の任務は達成した。後はかつを待とう」
「そうね、あー気持ち悪。ちょっと横にさせて」
ローは首を回しながら床に寝転んだ。
どうやらあいつもまだダメージが残ってるみたいだ。
俺も疲れたしゆっくり休むか。
かつの方は大丈夫なのか。
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「おわっ!あぶない!?」
「おいおい、避けてばかりじゃ俺は倒せないぞ」
強烈な攻撃魔法が俺をとめどなく襲い掛かって来る。
あの装置も魔法を吸収する結界が貼られている為壊れることはないらしい。
だったら結界の中で魔法を放てば大丈夫だが……
「そんなこと出来るわけないだろー!!」
あいつは確実にレベルの限界を超えている。
ならなおさらこの魔法全てが即死ってことじゃねえか!。
「アイスロック!ライジングサンダー!どうした!防御のために魔法を使い続けたらすぐに魔法なんて無くなるぞ!ファイヤーバインツ!」
「ワープ!ワープ!インパクト!はあはあ、そんなこと分かってるんだよ!」
しかも相次空中を飛んでやがる!
あいつの下に魔法陣があるってことは魔法を使って飛んでるのは確実だが、空中に居られちゃ攻撃が届かない。
かといって空中に魔法陣を展開すればこっちに向かってくる魔法の対処に遅れる。
ワープで空を飛ぶにしても魔法陣で先読みされちまう。
そもそもあいつの魔力抵抗が強すぎて俺の魔法が聞かない可能性もある。
だとしたらあいつを無視して装置を破壊したいところだけど
「何処に行くんだ絶対かつ!メガロックピル!」
鋭い岩が俺の目の前の地面に突き刺さって来る。
こうやって邪魔される。
やっぱりガルアの実力だとそう簡単にはやらせてくれないよな。
「ウインド十連!」
俺は自分の真下に風の竜巻を発生させて、姿を隠す。
これならこっちの出所は探れないはずだ。
「ツインロックスタンプ!」
2つ展開された魔法陣が竜巻を潰す様に巨大な岩が挟んできた。
「ワープ!」
俺は何とかその攻撃が来る前にガルアの後ろにワープする。
だがそれをすでに分かっていたのか俺が現れると同時に空中に魔法陣が大量に展開される。
「じゃあな、絶対かつ」
5つの魔法陣から魔法が放たれる。
普通ならワープも間に合わないから直撃を受けるしかないはず。
だけど俺ならこれを回避できる。
「カウンタ―!」
俺は全ての魔法を終結させてそれをガルアにぶつけた。
ガルアはそのまま地面に落ちて行く。
そして俺は次の攻撃を警戒しながらワープで地面に着地する。
「ぺっ!中々やるな。今の魔法も跳ね返せるとは、見た目からは分からない魔力量を秘めてるみたいだな」
「いまさら何言ってんだよ」
あれだけの魔法をぶつけても唇を切る程度なのかよ。
こりゃあマジでやばいかもな。
今のカウンターも魔力をごっそり持ってかれたし、本当に防御の為だけに魔法を使ってたらすぐになくなるな。
「諦めろ。お前がここまでできたのは運が良かっただけだ。これ以上戦っても結果は目に見えてるだろ。魔力の量も魔法も抵抗力も全てに終えてお前は負けてるんだよ」
「諦めない。お前は分かってるはずだ。自分が間違っていることを。それでもやるしかなかった。それはガイスの言葉が重りになってるんじゃないのか。憧れがお前を苦しめてるんじゃないのか」
「お前は本当にお節介だな。ラミアの時と言い余計なことに首を突っ込むのはお前の癖なのか」
「余計なことじゃねえよ。助けを求めてきたら助けるのは当たり前だろ」
「まあ、それでここまで生きてこれたんだ。間違いではなかったのかもしれないな。だけど、それもここまでだ」
その瞬間再び空中に魔法陣が展開させる。
「後もう少しで達成されるんだ。たかがレベル1の魔法使いに邪魔されるわけには行かない」
「絶対に俺はお前を止めて見せる。お前に教えてやるんだ。今自分がやろうとしてることは間違いだってこと」
「ははっそれじゃあやってみろよ!」
閃光のように素早い魔法が俺の頬を掠める。
それは再び魔法をぶつける戦いの始まりを意味していた。




