その十六 復活のカウントダウン
一方その頃ツキノとハイトの勝負も決着がつきそうになっていた。
「お前、何だよそれ」
俺が放った一撃は確かにツキノに直撃した。
だが当たったツキノの体はボロボロと崩れて行った。
それを見て俺は思わず後ろに後ずさる。
「まさかお前ただの半獣じゃ——————」
「化け物……みたいに……言わないで」
すると目の前で崩れて行っているツキノとは反対の方向にツキノが突如現れた。
そのツキノは俺が知っているツキノだった。
つまり偽物には見えなかった。
「ど、どういうことだよ!何でツキノが2人も……何がどうなってんだ」
「もちろん……魔法だよ……」
「魔法だと!?だけど、そんな魔法なんて聞いたことも見たことも、あ」
そうかそう言う事か。
俺は瞬時に目の前で起きている出来事を理解した。
これがあいつのオリジナル魔法か。
「そうだよ……これが私……オリジナル魔法」
そう言うとツキノは2つの魔法陣を地面と空中に展開させる。
その間が光り輝くと新たなツキノが現れた。
「自分の姿を増やすことが出来るオリジナル魔法か!そんな強力な魔法を持ってた何てな。そりゃ勝てないわけだ。俺が倒したツキノも偽物だったってことか」
「ちょっと……違う……この魔法……風間の物だった……」
「風間、カルシナシティーの王か。そうか、その人から貰ったオリジナル魔法と言う事はもうすでに……ガルア様は本気で王の方々を殺したんだな」
いくらガイス様を復活させたいという思いが強いからと言って、本当に王を殺すなんて。
いや、俺なんかがガルア様の想いを理解出来るわけないか。
「ハイト……これからどうするの……」
「俺は負けたからな。もうガルア様に与えられた任務は全て終わらせたし。ここでゆっくり休ませてもらうよ」
「それなら……私と一緒に……来て……」
「ん?どこに行くつもりだ」
「この城の……秘密の場所に……行きたい」
ツキノのその言葉に俺は思わず鼻で笑ってしまった。
「そんなこと出来るわけないだろ。負けても俺はガルア様の右腕だ。それなりの誇りと覚悟は持ってるつもりだ。ガルア様を裏切れないよ」
「教えてくれないと……気絶させる……」
その言葉を聞いた俺は我慢できずに吹き出してしまった。
「はははっ殺さないでくれる何て優しいなツキノ。それが脅しのつもりなら大したもんだな。まあ、ここで抵抗しても負けるのは目に見えてるしな。命を懸けてまで守りたい物も今はないからな」
「それじゃあ……」
「もう使う必要のない場所がある。そこなら言ってもまあ、怒られることはないだろうな」
俺はツキノの圧に負けて隠してあった秘密の場所へと歩き出す。
それを見てツキノは少し頬を緩めるとピッタリとこちらについてきた。
「どこ……行くの……」
「監視室だ」
————————————
「何でこんなことしたんだよ。いつものお前らしくないじゃねえか」
目の前のガルアはいつもと違う雰囲気を纏っていた。
いや、それはあいつの行動を見ていても分かる。
今のガルアは俺の知っているガルアじゃない。
「ラミアは俺とは違って暴力が苦手だからな。今から起きることをこいつに見せるわけには行かない」
「だからってラミアを傷つける何て、やっぱりお前らしくないぞ」
「まっお前がどう思おうが勝手だ。とにかくよく来たな絶対かつ、歓迎するぞ」
俺はラミアにローブを着させて床に優しく寝かせた。
そして再び周りを見渡す。
「随分と余裕だな。襲われることを覚悟してきたんだけど」
「せっかくここまで来たんだ。手荒い歓迎じゃなくてちゃんと客として、迎えてやるよ。まっ他の仲間はちょっと眠らせたけどな」
ハイ&ローはやられたか。
まあ、あいつらは武闘派ってわけでもないしやることはきっちりやってくれるはずだ。
「それにしてもいつもの仲間はどうした?てっきりあいつらが来ると思ったが、まあいいか。それよりお前はどれくらい知ってるんだ」
まあ、その質問は来るよな。
ここは正直に答えた方が良いよな、わざわざ嘘を付くことも無いし。
「ある程度の歴史は知れた。この島の住人が魔法で記憶を奪われていて、半獣はもともと人間だったこと。そしてこの島が実験島として使われていたこと」
「なるほどな。それでその情報は何処で知ったんだ」
「ある本から見た」
「本?歴史書はすべて処分したはずだけどな。だとすると誰かがまた新しき書き記したのか。その人物も大方見当はつく。まっそいつはもうこの世にはいないけどな」
その言葉を聞いて俺は思わず拳を握りしめる。
「何でそんな事をした。やっぱりお前変だぞ。お前は人を傷つけることなんてしないはずだ」
「何でそう決めつけるんだ。本当の俺をお前は知らなかった、それだけだろ。それよりもこれを見て見ろ」
ガルアは実験実のような部屋で一番目立つ巨大な装置を指差す。
そこにはガイスらしき人物が眠りについていた。
そしてそのカプセルに付けられているランプが9つ点灯していた。
「もう少しでお父様が目覚める。そうすれば俺の責務も果たされる」
「ガルア、それは沢山の人を犠牲にしてでも果たすべきことなのか。大切な人を生き返らせたい気持ちは分かる。でも、そのせいで誰かが不幸になるのは違うんじゃないか」
「理解してくれとは言わねえよ。ただこれは俺が果たすべき責務だ。命に代えてでもやらなきゃいけない。例え悪魔に魂を売ってもな」
本気の覚悟ってことか。
これはどう考えても説得には応じてくれなさそうだな。
やるしかねえのか。
「後残り数分ですべてのランプが点灯すると、生き返るための魔力が溜まる。その瞬間、この蘇生装置がお父様の体に一気に魔力を注ぎ入れて心臓が再び動き始める。そして念願のお父様の復活が果たされるってことだ」
「それをしてどうなるか分かってるのか。そいつはこの島を支配しようとしてるんだぞ!本当にガイスの事を想うなら復活させない方が良いと思わないか」
「お父様にはお父様の考えがある。俺はそれに従うだけだ」
「まるでロボットだな」
「お父様の望みを叶えられるのなら、俺はロボットにも何でもなってやるよ。俺はお父様にとって一番の存在にならなくちゃいけないんだ」
やっぱりこいつの異常な執着心は俺が説得できる者じゃない。
ラミアには悪いけど、ここでやるしかない。
強引でも何でもいい、ミノルの為にも隠された真実を全て知るためにやるしかねえ。
「どうしても駄目なんだな」
「何が何でもお父様は復活させる」
「なら俺ももう手加減しないぞ」
「まさか俺に勝負を挑みに来るなんてな。いいだろう、かかって来いよ」
やるしかねえ、どんなに敵が圧倒的でも俺は戦わなきゃいけないんだ。




