その十三 本気でやろう
ツキノと俺はお互いの実力を測るように魔法をぶつけていく。
このままじゃキリが無いな。
俺はすぐに攻撃をやめた。
それを見てツキノも動きを止める。
「やめだ。お前自身本気で戦わないのならこんな勝負続ける必要はない」
「そっか……それじゃあもう終わり……」
「ああ、終わりだ。こっからは様子見の勝負ではなく、本気で戦うぞ」
「だから……本気でやるつもり……ない」
そうか、やっぱりこいつは本気で戦う気が無いんだな。
それなら俺にも考えがある。
俺は明暗を思いつき思わず笑みをこぼす。
ツキノはそれを見てか少し警戒する。
「条件を提示すれば、お前も本気を出してくれるか」
「どういう……意味……」
「実はお前が風間を殺したとガルア様に報告した後、俺は確認のためにカルシナシティーに向かったんだよ。そこで風間の死体を確認した時、こんな物を見つけてな」
俺は懐から封筒を取り出す。
その封筒にはツキノへと書かれていた。
それを見た瞬間、ツキノ驚いて目を見開く。
「なに……それ」
「服の中に隠し持っていた。おそらくお前の為に書ていたが、途中で渡すのをやめたのかもしれないな。どうする?読みたいか」
「読みたい……」
ツキノはそう言って俺に歩み寄ろうとするが、俺はすぐにその封筒を懐に戻した。
「読みたいのなら、奪い取って見せろよ」
「それが……条件……」
「これならお前も本気で戦えるよな。元ガルア様の十二魔導士の本気の力見せてくれよ」
俺はすぐに魔法陣を展開させる。
そしてそれと同時にツキノも先程よりも高密度の魔法陣を展開させた。
「行くぞ!ファイヤーバインツ!」
「ウォーターウェーブスワロウ……!」
「うおっ!?」
これはまずい!
俺の魔法はツキノの水の魔法に飲み込まれ、その勢いのまま俺の体に直撃する。
そのまま後ろに大きく吹き飛ばされ、壁に激突する。
「さすがだな。これがツキノの本気か。なら俺も本気を出さないとな!」
その瞬間、俺はオリジナル魔法を唱えた。
全身が光に包みこまれていき、その光が消えて行くが姿に変化は見られない。
当然だ、これは俺自身の能力を変化させる魔法じゃないからな。
だが、ツキノはそれを見て目を細める。
「オリジナル……魔法……」
「さすがだな。そうだ、これは俺のオリジナル魔法やられたらやり返す。だが言えるのはここまでだ」
「分かってる……」
ツキノは警戒しながらも俺の動きをよく観察する。
やはり場数を踏んでいるのか知らないが勘が鋭いな。
このままだと俺のオリジナル魔法の性質を見破られる可能性がある。
俺のオリジナル魔法は後だしじゃんけんのような物だ。
相手の魔法をすべて分かってからすべてを出す。
だが、それを見破られればただのゴミとなる。
だからこそ、性質を見破られない様に立ち回らないといけないわけだけど、こういうのは本当に苦手だ。
どうしてガルア様はこのオリジナル魔法を俺にくれたんだ。
「どうして……攻撃しないの……もしかして……攻撃できない」
早速来たか、さてとどう切り抜けようかな。
「俺がそんな風に見えるか?だとしたらお前は随分とおめでたい頭をしてるってことになるぜ」
「おめでたい……頭……」
おっ反応ありだな。
意外とツキノは悪口に敏感らしい。
だがこれからどう展開していくか、このオリジナル魔法を使うたびにその場しのぎが得意になって行くな。
もしかしてガルア様はその力を付けるために俺に……いや考えすぎか。
「どうして……おめでたい頭なの……」
「そうだな、まあ俺はこうして無駄話している時間が俺の勝利にドンドン近づいて言ってるってことかな。これ以上は自分で考えろよ」
ツキノは頭が回る奴だ、だから少しの情報で答えを導き出せる。
だからこそ、その情報には偽りを少し加える。
そうすればツキノは勝手に想像するはずだ、俺のオリジナル魔法を。
ツキノは数秒間黙った後何かに気付いたように焦って魔法陣を展開させる。
来た、どうやらツキノは俺のオリジナル魔法を考え付いたみたいだな。
「ロックスタンプ!」
「うおっ!気付いたか、ツキノ!」
出来るだけ逃げるように行動する。
じゃないと、攻撃を受けた方がこっちに特があると気付いちまう。
避けられる攻撃はなるべく回避する、そして客観的に見ても避けられないような攻撃は……
「ウオーターガン……!」
「うぐっ!」
高圧力の水が俺の腕に貫通する。
よし、ここで俺は痛がる演技だ。
「うぐっああ!」
自分でも馬鹿らしくなってくるな、こんな騙すような戦い方で。
でもこれでしかこの魔法を最大限には使えない。
この魔法は穴だらけだが利点もある。
それは中の魔力だけでなく、外の魔力も使う場合だ。
俺の体に魔法が当たれば当たるほど、その魔法の魔力分の威力の魔法が放てるが、俺が持っている魔力量以上の魔法を放つときは外の魔力を一気に体の中に入れて放つ。
それがこの魔法の凄い所ではあるが、反動もデカイ。
だけど、やるしかねえこうなったら体の負荷なんて気にしてる場合じゃない。
「逃がさない……キルトルネード……グランドファイヤー……ウォーターガッチメント……ライジングサンダー」
ツキノの怒涛の攻撃を俺は全て受けきる。
体がはじけ飛びそうな攻撃を何度も受けて、それに耐えられず思わず苦痛の声を上げてしまう。
だけどまだ足りない、このダメージじゃあいつを倒せない。
後もう少し強力な一撃を喰らわないと。
「まだ、終わらねえぞ……俺はまだ終われない、あと少しなんだ、あと少しで……」
「もう終わり……これで決める……」
その瞬間、空気がズシリと重くなり空間に漂う魔力がその魔法陣に凝縮されていく。
魔法陣の大きさはその魔力の内容量を意味している。
天井を覆い隠す程の巨大な魔法陣は確実に今までよりも強力な魔法を撃とうとしていた。
そしてその魔法陣の模様からしてレベル魔法か。
「レベル魔法!リュートアグレッシブサイクロン……!」
「うおおおお!」
これを耐えれば俺の勝ちだ!
巨大な殺人的な渦は近くの物を破壊していき、衝撃で城の壁がどんどん崩れていく。
だが特殊な材料を使って作られたこの建物は何とか破壊することはなかった。
全てを切り刻む竜巻は俺の元に近づいて行き、そして俺はその中心入って行った。
「終わった……」
「俺の勝ちだ!!」
俺はその瞬間、ツキノの懐に飛び込んだ。
「やられたらやり返す!」
強烈な光と共に俺の最高の一撃はツキノに直撃した。




