その十二 ミレイの信念
「ギガサンダー!」
「ファイヤーボール10連!」
お互いの魔法がぶつかり合い爆発が起きる。
俺はすぐに空中に魔法陣を展開させて反撃のチャンスを伺う。
すると煙の中からミレイが飛び出してきた。
魔法陣を展開している様子はない、ただの捨て身の特攻か?
いや、違う!
ミレイはその瞬間、手をこちらに突き出してきた。
「ライトニングアロー!」
「っ!」
俺は事前に予測していた為、反射的に体が光の矢を避ける。
その時、真上から魔力が感じ取れた。
上を見た瞬間、魔法陣がこちらを見下ろしていた。
「アイスドーム!」
「ワープ!」
俺は何とかワープでその場から回避する。
俺が居た場所は巨大な氷で包み込まれていた。
あそこで捕まってたらやばかったな。
「さすがだな。危機感知能力は今までの経験でかなり培われたみたいだな」
「そりゃどうも」
十二魔導士じゃないからって余裕で勝てるわけじゃないな。
隙を突こうにも全体に警戒網を張っていて、不要に近づけないな。
だけどこれ以上時間はかけられない。
ガルアはどこに居るか分からないけど、ガルアに見つかったらいよいよ絶望的だ。
「ん?何だその恰好は、まさかごり押して進むつもりか?」
「ああ、これ以上時間もかけてられなくてな。この狭い廊下じゃ、広範囲の魔法を避けられないだろう」
「それはこっちのセリフだ。私の広範囲魔法も絶対かつは避けられないだろう」
「試してみるか?」
その言葉を聞いたミレイは魔法陣を展開させる。
どうやら本気で俺を殺すつもりらしい。
ガルアの護衛としては立派な行動だと思うが、その忠誠心はある意味狂気に近いな。
まっ俺も似たようなこと言えないか、1人の仲間の為にここまで命がけで来てるんだからな。
俺は左手を隠す様にして魔力を込める。
そして最初に繰り出したのはミレイだった。
「キルトルネード」
強烈なカマイタチを纏った暴風は廊下中の壁を抉ってこちらに近づいて来る。
人が通れる隙間もなく確実に逃げ場のない魔法。
普通なら直撃は避けられないが、俺はその魔法に向かって左手を突き出した。
「カウンター!」
「っ!?」
その魔法はさらに強化された形でミレイに襲い掛かって行く。
そして続けて俺は魔法陣を展開させる。
「インパクト!」
俺は追い打ちを掛けるようにミレイに向かってインパクトを放つ。
廊下が衝撃で歪み、近くにあった扉がすべて吹き飛ばされる。
「すまないなミレイ。俺にはやらなきゃいけないことがあるんだ」
流石のミレイも今の魔法は避けられないだろう。
俺はすぐに目的の部屋に向かう。
「ウォーターガン!」
「っ!?あぐっ!」
その瞬間、横の部屋からミレイが魔法を飛ばしてきた。
突然の事で避けることが出来ずに俺は足に魔法が貫通をしてバランスを崩して、そのまま床に倒れる。
「ファイヤーバインツ!」
「くそ!」
休む暇も与えずに倒れた俺に向かって魔法を放って来る。
俺は何とか痛まない方の足を動かしてその魔法を避ける。
それにしても何であいつ無事だったんだ。
ああ、そうか部屋の中に入ってやり過ごしてやがったのか。
「今の攻撃はさすがだな。私を完全に殺しに来ていた。だが、私はこんな所で倒れるわけには行かない!」
「いい加減にしてくれよ。これ以上は足止めをしてる場合じゃないんだよ。俺は知らないといけないんだよ、この島の真実を!」
「私もここを通すわけには行かないのだ。それが私がここを守る意味だ。通りたければ、私を殺していけ!」
その気迫は今までのミレイとは比べ物にならないほどの覚悟が込められていた。
マジで殺さないと通してくれなさそうだな。
でもそうするわけには行かない、そんな事をして助けてもミノルは喜ばないだろう。
だけどどうする、どうすればあいつを倒せるんだ。
「迷っているのか?私を殺すかどうか。ふっ所詮はその程度か。私を殺す決断も出来ない弱者が自分の思い通りに行かせることなんてなるわけないだろ」
「殺すことは強者なのかよ。殺せない奴は弱者なのか?それなら俺は喜んで弱者になってやるよ。本当の強者は自分の信念を曲げない奴なんじゃないのか。ミレイの信念は人を殺す事なのか」
「短絡的だな。私の信念はガルア様を命を懸けて守ることだ」
「それだったら今のお前がしていることはガルアを守る行為なのか。ここで命を落とすのはただの無駄死になんじゃないのか。ミレイはガルアに死んでも守れって命令されたのか」
「愚門だな。私はガルア様の命令を必ず実行しなければならない。命令を守れなければ、それは死と同等だ」
駄目だ、全く聞く耳を持たない。
本気で死ぬまで俺と戦うつもりか。
俺も覚悟を決めないといけないのか、いやでも俺は……
「サンド10連!ウィンド10連!」
俺はその場で巨大な砂嵐を出現させる。
ミレイが砂嵐で視界が見えにくくなっている隙を突いて一気に間合いを詰める。
ミレイは俺がインパクトを放つのを警戒して切り替えをしようとするが、俺はその場で足を引っ掻ける。
予想外だったのかミレイは呆気なくその場に倒れる。
俺はその瞬間、ミレイの上に覆いかぶさり右手に魔力を込めた。
「インパクト!」
「っ!?……?何のつもりだ」
「今のが入ってたらお前は死んでた。だからもう負けを認めろ」
「っ!ふざけるな!こんなの認めるわけないだろ!」
「簡単に死ぬなんて言ってんじゃねえよ!お前が死んだら誰がガルアを守るんだよ!」
「っ!?」
「ガルアはお前に死んでほしくてそんな命令をしたんじゃないんだぞ。護衛だったら主残して勝手に死ぬなよ。それこそお前の信念に反してるんじゃないのか」
ミレイは先程までの血走った目が収まり、いつも通りの瞳になった。
それはミレイの頭に上った血が冷えたことを意味していた。
「ははっはははは!私の負けだな。ガルア様を守るためにも私がこんな所で無駄死にすべきじゃないか。全く痛いところを付いてくるな貴様は」
「それじゃあ……」
「後で罰を受けるだろうが、甘んじて受けるよう」
「はあ……そうか、ありがとうミレイ」
俺は安心してミレイから離れる。
そしてついに目的の部屋へとたどり着いた。




