その十一 生きる道
「……なるほど、魔法で防いだか」
俺の目の前には巨大な岩が出現していた。
どうやらローが魔法を使って炎を防いでくれていたみたいだ。
何とか助かったが、やはり純粋な魔法力ではハイトの方が上だな。
やっぱりここは一旦体制を整えた方が良いな。
「ロー」
「分かってるよ」
俺はローに逃げるぞとアイコンタクトを取るが、ローはそれを見たにもかかわらずハイトの方に向かう。
「おい、何やってんだよ」
「ここで逃げても意味ないわ。どうせあいつに捕まれて終わるだけよ」
「よく分かってるな。お前らをここで逃がすわけには行かないんだ。また侵入されても困るし、独房にでも閉じ込めておくか」
「殺さないなんて優しいところもあるわね」
「死ぬよりも恐ろしい目に合うかもしれないけどな」
ローは明らかに戦闘態勢に入っている。
もしかしてこいつ囮役になる気か。
それで俺を部屋に向かわせようとして、確かに2人で全滅よりかはマシな作戦ではあるが、危険すぎる。
「ハイこの活動をする時に2人で決めたよね」
「……何が合っても自己責任、お互いの足は引っ張らない、何よりも自分優先だろ」
「怪盗って言う正義でも悪でもある不確かな存在に私達は自らなった。だからこそ私達はいついかなる時も運命を受け入れると誓ったよね。これが私の生きる道よ」
「相変わらず普段とは別人だよな。そこがお前のいい所でもあるわけだが」
分かっている、長年共に過ごしてきたからこそ言わなくても分かるよ。
それが俺達だもんな。
俺達怪盗ハイ&ローだよな。
「捕まる覚悟は出来たか」
「俺達は捕まる覚悟何て一ミリもしたことない。俺がいつも覚悟しているのは死ぬ覚悟だ」
チャンスは一度きり、それ以上は時間をかけられない。
俺は警戒を解かずにじりじりとハイトの方ににじり寄る。
目標の扉まで約四メートル、隙を突いて走れば届かない距離ではない。
ローもタイミングを見計らっている。
お互いに妙な緊張感が走り、永遠に続きそうな時間の中それは訪れた。
「ゴー!」
「フラッシュ!」
俺の掛け声と共にローが廊下中を光で満たした。
俺はすぐさま廊下を走り始める。
それと同時に俺もハイトに向かって走り始める。
「フラッシュを使った所で俺からは逃げられないぞ!」
ハイトはすぐに扉へと向かう、ローに向かって魔法を放った。
「アイスロック!」
「ハイー!くそ、喰らえアグレッシブフルート!」
「遅いな!」
するとハイトはハイの腕を掴んで地面に倒す。
「残念だったな。悪いがこのまま独房に——————」
その時ハイトが驚いた表情をする。
それはハイトが捕まえた人がハイではなく、絶対かつの姿をしていたからだ。
「なっどうしてお前が——————」
「喰らえ!インパクト!」
「っ!?」
ハイトはその言葉を聞いて思わず目を瞑ってしまう。
だがハイトのみにその攻撃は届くことはなかった。
ハイトがゆっくりと目を開けるとそこには絶対かつの姿はない。
「嘘だよー」
「なっ!?」
その時ローは部屋の中に入って行く。
何とか上手く行ったみたいだな。
「騙したのか俺を」
「まあそうだな。元々あいつをここに残すつもりはないからな」
「なるほどはなからお前はここに残るつもりだったのか。驚いたよ、お前らの友情パワーに」
「友情じゃねえよ、相棒だ」
「そうかなら、お前の望み通りローは見逃してやるよ。代わりにお前が犠牲になるんだろ」
その瞬間、ハイトの片手に魔力が溜まる。
切り替えで俺に直接魔法をぶつける気か。
死ななかったとしてもただでは済まないな。
それでもこの道に後悔はしない、そうだよなロー。
「お前らは立派だったよ。それじゃあな」
俺はゆっくりと目を閉じる。
まっ終わりはこんなもんだよな。
悪運もそう長くは続かない、俺にしちゃ頑張ったよな。
「アイスガン……」
「っ!?」
巨大な氷の塊がハイトに向かって一直線に飛んでいく。
ハイトは何とかそれをかわし、その氷は廊下の壁に突き刺さった。
「ツキノ……どうして俺の邪魔をするんだ」
「ハイト……その人を傷つけないで」
誰だあいつ、いや俺は見たことがある。
確か島王選でカルシナシティの王の十二魔導士として出場してたな。
だけどそんな奴がどうして俺を助けたんだ?
「お前はどちら側にもつかない中立の立場だって聞いてたが。やっぱりお前はかつを選ぶのか」
「違う……私は私の正義に……従った」
「ははっまさかツキノがそんな言葉を言う様になったとはな。カルシナシティはどうなった?今頃大変なことになってるだろ。まさかマイトに丸投げしてるのか?」
「マイトが……行っていいって……言った」
「まじか、あいつ過労死しちゃうんじゃないか」
何だかよく分からないが、どうやらツキノは味方みたいだな。
俺はゆっくりと立ち上がり、ツキノの方に歩み寄る。
「えっと……ツキノさっきはありがとな、助かった」
「いえ……私は……かつに言われたから」
「ああ、あいつに言われてきたのか。何にせよ協力してくれるなら心強い。一緒にこいつを倒すぞ」
「それは……違うよ……」
「え?一緒に戦ってくれないのか」
予想外の返答に俺は思わず聞き返してしまう。
まさか戦うが協力はしない、自意識が強いタイプなのか。
見た目と違って意外な性格なんだな。
「別に……協力したくない……わけじゃない」
「へ?それじゃなおさら何でだよ」
「あなたは……やるべきことがある……それに集中して……」
「っ!そういうことか、分かったよ。それじゃあお言葉に甘えさせてもらうわ」
俺がやるべきことは部屋の中に入りその中に何があるのか確認すること。
そうだった、それは俺にもやらなきゃいけないことだった。
「私が……引き付けるから……早く言って」
「本当に助かった!ここは任せたぞ」
俺はツキノを信じて扉に向かって一気に走る。
「俺がそう簡単に行かせると——————」
「アイススピア……」
「ファイヤーウォール!」
鋭い氷の槍は炎の壁で溶けて行く。
その瞬間、さらに空中に魔法陣が展開される。
「ロックスタンプ……」
「くそ!」
ハイトは身をひるがえしてその場から避ける。
それにより扉から距離が離れたことで俺は止まることなく扉に着くことが出来た。
そして俺はすぐにその扉の中に入って行く。
「はあ、1人ならず2人も侵入を許しちまうなんて、これはガルア様にこっぴどく叱られるな」
「追いかけないなら……こっちも攻撃しない……」
「確かに今の俺達にはお互い争いあう理由はないな。だが、1人の魔法使いとしてお前と戦ってみたかった」
ハイトは空中に魔法陣を展開させて、戦闘態勢に入る。
ツキノもそれを察知して無言で魔法陣を展開する。
そして第2ラウンドが始まった。




