その九 危険ゾーン
絶対かつが城の潜入を試みてる頃、ハイ&ローも城の中に入るための作戦を練っていた。
「……見つけたわ」
「了解」
俺はモノマネで警備員に変装すると茂みから体を出して、さりげなく近づいて行く。
「よお、どうだ何か異変はあったか」
「ああ、今の所はないな。まっそれはいつもの事なんだけどな」
「そうだよな。ガルア様の城にわざわざ侵入する馬鹿なんていないよな」
「まあそりゃそうだが、お前新人か?ここで会ったの初めてだよな」
俺は勢いよく警備の人の肩に手を回す。
「そんなことどうでもいいじゃないですか」
「な、何をしてるんだ。は、離せ!」
「気付いたところで意味無いしな」
「うぐっ!」
俺は瞬時に警備の人の首に腕で締め付けて気絶させる。
「もういいぞ。それじゃあ、ローはこいつの服にすぐに着替えろ」
「野外で生着替えって誰特よ」
「おばさんの着替えじゃ需要ねえよ」
「おい、それ以上言うなら私のフラッシュがお前の眼球を永遠に使えなくさせるぞ」
「ガチ目のトーンで怒るなよ。悪かったって」
ローは警備の人の服を剥ぎ取るとすぐに着替えを済ませる。
「よし、それじゃあ早速侵入を開始するか」
俺とローは姿を見られても大丈夫なような恰好をすると、早速食糧庫に向かう。
中は暗く明かりが無いため普通に考えれば、侵入は困難だ。
明かりを付ければ逆にそれで見つかる可能性もある。
だが俺達にその心配はいらない、暗がりの建物の侵入何て何度も経験している。
だからこそこのくらい食糧庫を進むなんて造作もない
「よし、開いたぞ。早く入れ」
俺は食糧庫を開けるとローはすぐに中に入り、それに続いて中に入る。
扉を閉めた瞬間、食糧庫は完全な暗闇に陥る。
だが俺達は迷うことなく前に進んでいく。
「前方階段よ」
「了解」
俺は先頭に居るローの言葉を聞きながら階段を上って行く。
そしてローは出口を見つけたのか目の前の扉を思いっきり押した。
隙間から光が漏れると視覚が一気に広がっていく。
「はあ、ようやく出れたな」
「そうね、とりあえずさっさとその部屋に行きましょ。そして私達が出来る怪盗だとあいつに教えてやるのよ」
「待てよ。俺達ってなめられてたのか。それはやば——————」
その時曲がり角で城を巡回していた警備と鉢合わせしてしまう。
それにより一瞬体が強張るがすぐさま自分たちの服装を思い出し、冷静を取り戻す。
「お疲れ様です」
ローは冷静に警備の人に成り切って対応している。
相変わらず憑依したかのような演技力だな。
「ああ、外の見回りの者たちか。報告ご苦労。引き続き任せたぞ」
「はい!」
「は、はい!」
俺達はしっかりと対応すると警備の人がその場から離れるのを確認して緊張を解く。
「ふう、危なかったな。それじゃあすぐに向かうか」
「そうね。えーっとガルアの部屋だったっけ。とりあえず地図の通りに向かいましょうか」
「よし、地図はすでに頭に入ってるだろうな。全速力で行くぞ!」
俺達はかつから貰っていた地図を頼りに目的の場所に向かう。
どうやら警備の巡回はあまり多くはないみたいだ。
大胆に動き回っているが最初以降遭遇することはない。
まあ、遭遇しないのならばこちらも向かいやすいからいいのだが。
ん?待てよ、向かいやすい……
俺は思わず足を止める。それを見てローもすぐに足を止めた。
「どうしたの?目的地までもう目と鼻の先よ」
「上手くいきすぎてないか?」
「え?確かに順調だけど、それは良い事でしょ」
「思い出してみろ。仕事をしている時いつも上手く行っている時は大抵」
「罠があるのが決まりだよな」
その声が聞こえた瞬間、廊下中を飲み込むほどの巨大な炎が俺達を襲う。
俺はすぐに体を捻らせて曲がり角に避難する。
俺が居た場所はすでに炎が通り過ぎ、廊下中焦げた跡が残る。
「まさか、この城にネズミが2匹侵入してるとはな」
「嘘つくなよ。わざと侵入させたんだろ。俺達の目的の場所を見極める為に」
「怪盗ハイ&ロー、最近貴族たちから目の敵にされてる2人組だったな」
「嬉しいわね。王様の護衛の人に知られてるのは」
「ん?お前は誰だ?女が居るのは知ってたが、噂では妙な語尾を使う奴だと聞いてたが」
「残念だけどそれは仮の姿よ。一流の仕事には一流のやり方で対応してるの」
何かっこつけてんだ、そのキャラが本命だったくせに。
それにしても確かこいつはガルアの右腕のハイトだったな。
それなりの実力者だと知ってはいたが、これはまずいな。
「それでお前らが何であの部屋に行こうとしてるんだ」
「俺達は怪盗だ。宝物を盗むのは当然だろ」
「俺の記憶ではこの先はガルア様の部屋で宝物庫ではないぞ。それともお前らの情報網は正確な部屋すら分からない、程度の低い物なのか?」
「言ってくれるわね。こっちは真剣にやってるのよ。部屋の場所が1つでも違うだけで命に関わるの。半端な仕事はしないわ」
「それじゃあ、分かったうえでここに来たわけか。それじゃあなおさら理由が気になるな」
どうやらハイトは俺達の目的を探ってるみたいだな。
だがこの感じはすでに気付いてるみたいだな。
てことはこの話の結末は……
「理由はもう既に分かってるんだろ」
「なるほど、そういうことか。つまりお前らは深入りし過ぎたってことだよな」
その瞬間、周りの魔力がびりびりと肌に伝わって来る。
戦闘態勢、やっぱりこうなるのか。
まずいな、俺とローは武闘派ってわけじゃない、真正面からの勝負はこちらが圧倒的に不利だな。
「ちょっと待って私達は別に何かしようと思ってるわけじゃないわ。ただ依頼を受けただけで」
「絶対かつからの依頼だろ」
「っ!?……だったらどうなんだよ」
こいつ想像以上に危険なやつかもしれない。
早いとこ逃げた方が良いかもしれないな。
俺はローにアイコンタクトを送る。
ローはそれを見て俺の考えを読み取ったのか。軽く頷いた。
「それはもう答えを出してるようなものだぞ。だがまあそうだな。これ以上深入りするなら、容赦はしねえぞ」
「そうか、それは確かに遠慮したいな。だからこそ……逃げるが勝ちだ!」
「フラッシュ!!」
俺達は後ろに飛んだ瞬間、廊下中を光が包み込む。
そして俺はすぐにその場から離れる。
「光魔法か。ただの目くらまし魔法、確かに泥棒にはお似合いの魔法だな」
「ハイト様!大丈夫ですか!ものすごい光でしたが」
「ああ、大丈夫だ。お前はすぐに警備に戻ってくれ。それと城の中にネズミが2匹紛れ込んでる。探し出し次第、俺に報告しろ」
「分かりました!」
「ああ、ちょっと待て首元にゴミが付いてるぞ」
「え——————がはっ!?」
首元を見る為に顔下に向けた瞬間、ハイトは思いっきり首を絞めた。
「お前お得意のモノマネだったか。確かに大した魔法だが墓穴を掘ったな。既にこの城の警備は誰一人いない。全員外で待機してもらってる」
「うっあぐ、あっ!」
苦しい、してやられたまさかこいつが俺のオリジナル魔法を知っていた何て。
奇襲をするつもりが逆にこっちがやられちまった。
「それじゃあ、先ずはサクッと1人目をやるか」
俺の首を掴んでいる手に魔力が込められる。
これはまずい、死ぬ流れだ。
解こうにも苦しくていまいち力が出ない。
「じゃあなハイ」
「くそ……こっんなどころで……」
「ハイ!!」
ロー!?あのバカどうして出て来たんだ!
「ふっ待ってたぞ!」
「っ!?」
ハイトは俺をローに向かって思いっきり投げやがった。
それによりローと正面衝突してしまう。
「グランドファイヤー!!」
「しま――――――」
その瞬間、視界が真っ赤に染まった。




