その五 モノマネ
各々が準備を進めていくなかついに日が沈み夜が訪れた。
「いよいよか」
「絶対かつさんこちらはすでに警戒態勢で見回りをしています。不審な者を見つけ次第即捉えることとします」
「ああ、中は任せたよ。俺は一旦外を見回って来るよ」
ハイ&ローの予告では夜に来るというだけで詳しい時間帯は書かれてなかった。
まあ、あいつらの性格からしてそんなに遅くまで来ないことはないと思うけどな。
極度の目立ちたがり屋だったし、妙にかっこつけようとしてたから来たとしても何かしら合図はあるはずだ。
そして警備体制も前の物とは違い中を重点的に見回るようになっている。
これで外の警戒も薄くなったし、屋根伝いで侵入しやすくなっただろう。
もちろんすぐに逃げられても困るので、宝物庫の窓に付けておいた魔道具は事前に細工をしていて、中に入る時は鳴らずに出てくる時に鳴るようになっている。
これで奴らが無事に任務を終わらせたと分かるだろう。
「あら、こんにちは。随分と上機嫌ね」
すると何故か外にピンクの髪の女の人が居た。
「え?何でこんな所に居るんだよ。宝物庫の扉前の警備を任されてたはずだろ」
「代わりに警備してくるって言う兵隊さんが居たから交代したの。それにしても今日は星空が綺麗ね。こんな広い庭で花に囲まれながらゆったりするのってロマンチックだと思わない」
「いや、今はそんな話をしているわけじゃなくてだな」
その瞬間、突然警報音が鳴り響いてきた。
それは間違いなく宝物庫の窓から聞こえてくる物だった。
「まじか!俺はすぐに上に行くから、お前は宝物庫に行っててくれ!」
俺はすぐさま瞬間移動で窓に向かう。
いつのまに侵入してたのか、にしてもそんなあっさり行くのかよ。
とりあえず出てきたところを捕まえるしかない。
だが、近くに行っても窓から出て来る気配が感じられなかった。
「ん?もしかして!?」
俺は嫌な予感がしてすぐに宝物庫の中を覗き込んだ。
そこには誰の姿も無かった。
「どういうことだ。何で誰も居ないんだ」
「おい!何でだ!ドアを開けろ!」
その時、大勢の警備員が屋敷の扉を激しく叩いていた。
俺はすぐに下に降りて状況を把握する為に話しを聞く。
「何が合ったんだ!」
「騙されたんだよ!俺達は外に出た時誰かが扉に鍵をかけやがった!」
やられた!あの警報は囮だったのか。
もうすでにハイ&ローは中に居るんだ!
ちょっと待てよ、今考えてみると宝物手に入れたらテレポートで逃げればいいじゃん!
まずい、このままだと逃げられる。
先に宝物庫で待ち構えてるか、その方が確実だしな。
俺はすぐに窓に戻り中に入ろうとする。
その時、宝物庫の中の壁に見たことない物がくっ付いていた。
「っ!!」
俺は瞬時にその場から回避すると巨大な網が窓に付着する。
「な、何だあれ!」
窓が網により塞がれてしまい中に入ることが出来なくなった。
「まさかこれも罠?しかもこれ妙に接着性が合って触れたら終わりだな」
中の様子は……くそ!暗くて見えずらい!
これじゃあ中にワープできない!
まずいな、こんな所でもたもたしてたらハイ&ローに逃げられちまう。
「くそ!」
俺は再び窓から離れて扉に向かう。
「退いてくれ!俺が扉を破壊するから!」
「駄目だ!城の物を破壊したら俺達が首になっちまう!」
「宝物を盗まれるよりかはマシだろ!」
「絶対に許さんぞ!俺達が食い止める!」
「分かったからそこを退いてくれ!」
扉が開かないのなら仕方ない。
俺は近くの窓から屋敷の中を覗く。
よし、中は宝物庫と違って明かりがあるから見えやすい。
「ワープ!」
俺は何とか中に入ることが成功するとすぐに宝物庫に向かっていく。
大丈夫だ宝物庫の前にはあのピンクの髪の女の人が警備をしている、何かあっても時間は稼いでくれるはずだ。
「て、ちょっと待てよ。あいつ外にいるじゃん!」
そういえば、他の警備の人に任せたとか言ってたよな。
何て人任せな奴だ、今がどういう状況か分かってないのか。
そんな事を考えながら宝物庫に向かっているとハイガスと警備員が急いでる様子が見えた。
「あの、どうしたんですか!」
「お前は!一体何をして居るんだこの愚民が!私は言ったはずだぞ、命を懸けて宝を守れと!簡単に侵入を許す馬鹿が居るか!」
「すみません!それよりも今からどこに行くんですか」
「宝物庫の宝を確認したいと言うので、急いで向かっていたんです」
「そんな説明をしている場合ではない!早く行くぞ!」
扉はまだ開かれてないのか?
てことはまだハイ&ローは屋敷のどこかに居るってことか?
「見つけたぞ!ああ、やられてるではないか!」
宝物庫の前には数人の警備員が倒れていた。
もう既に宝物庫にたどり着いてたのか、もしかして中に居るのか。
もしそうだった場合、時間が無いな。
「ハイガス様、すぐに宝物庫を開けてください!」
「この私に命令するな!そんなこと分かっている!」
いや、ちょっと待てよ!
これは明らかにおかしい!!
「おい、動くな!これ以上動いたら魔法を撃つぞ」
俺は目の前の警備員に向かって魔法陣を向ける。
「な、何のつもりだ!愚民ごときが私を脅すのか」
「違う。俺はそこの警備員に言ってるんだ。なあ、一つ聞きたいんだがお前はどうして宝物庫にハイ&ローが居ると思ったんだ」
「それは先程の警報音が聞こえたので」
「そうだとしても宝物庫の扉は普通じゃ開かない事は分かっていたはずだ。それにここまで来るまでにも罠として魔道具が置かれていたはずだが、警備員が倒れてるってことはその罠を全て避けてここまで辿り着いたってことだよな。つまりすでに罠の位置を把握してたってことだ」
「情報が漏れたのではないか」
警備員はこちらを振り向かず端的に答える。
だがこれだけで俺の抱いた違和感は消えない。
「あんな短時間で作った計画がすぐに漏れるわけがない。漏れるとしたらその場で聞いてたかしかないんだよ。そしてハイガスの魔力が無ければ扉が開くことはないと知っていたからこそ、あの窓に罠として魔道具を設置したんだ。あんたはたしか警備の状態を最初に理解してなかったよな。おかしいと思ったんだよ。予告が来た時点で警備状態を全員に伝えるのが普通だ。なのにお前はそれを理解してなかった、いやお前は知らなかったんだ。だってお前は警備員なんかじゃなくて怪盗だろ。なあ、ハイ」
その言葉を言った瞬間、目の前の警備員はニヤリと笑みを浮かべた。




