その四 ピンクの髪の女の人
「そこまで!これにて試験を終了させる!」
その声と共に閉じられた天井が開いて行く。
そして隠されていた扉が開き、それは上へと繋がる階段だった。
参加者たちは一斉に階段へと駆け上がっていく。
見たところ今回の試験で死者は出なかったみたいでよかった。
にしてもあのピンクの髪の女の人、何者なんだ?
「ふふっ」
「っ!?」
そのピンクの髪の女の人は俺の方を見て微笑むとモンスターから飛び降りて、階段へと向かっていく。
「本当に何者なんだあいつは」
俺はそんな疑問を抱えながら階段へと向かって行った。
階段を上がって上に戻るとあれだけ沢山いた参加者の姿が見えなくなっていた。
そしてその中でも一際目立つピンクの髪の女の人だけが残っていた。
「よく合格したな。お前らはそこらの愚民どもよりも役に立つ愚民としてビシバシ働いてもらうぞ」
「もちろん、宝物庫の警備は任せてください!」
合格しちゃえばこっちのもんだ。
本当は単独合格したかったけど、まあもう一人居たところで問題ないか。
「ははっ!中々意気込みがあるな。よし、お前にはこれが無事成功すれば私の護衛として正式に雇ってやろう!これで愚民脱却だぞ!はははは!!」
「ははは……」
誰が護衛になるか。
あんたの護衛になるならリツの店で仕事した方がマシだな。
「よし、ついて来い。宝物庫まで案内しよう!おい、お前ら通常勤務に戻れ」
「はっ!!」
そう言って男たちはそれぞれの仕事に戻るために散って行った。
俺は早速ハイガスに着いて行き宝物庫に向かう。
その時突然ピンクの髪の女の人がこちらに近づいてきた。
「え?あ、あの俺に何か用ですか」
「……」
さらにそのピンクの髪の女の人は顔を近づけて来る。
それはほとんどゼロ距離であり、ぶつかってしまう程だった。
な、何でこんなに近づいてきたんだ、やばい良い匂いがして来た。
すると女の人はニヤリと笑うと突然離れた。
「あなたとても危険なにおいがするわ。面白いわね」
「へ?どういう……」
「おい、何をしている!さっさと来い!」
「はい、今行きます」
そう言ってピンクの髪の女の人は何故か上機嫌に宝物庫に向かって行った。
「マジで何なんだあの人は」
目の前の出来事に戸惑いながらも俺は宝物庫へと向かって行った。
宝物庫は厳重な扉で閉ざされており、開けるにはハイガス自身の魔力を流すことで扉が開く仕組みになっている。
つまり、ハイガスでなければこの扉を開けることは出来ない。
無理矢理開けようとすれば警報が鳴る仕組みにもなっている為、リスクが高すぎる。
俺達は中に入るとそこには大量の宝が広がっていた。
「うわっすごいな。こんなにたくさんの物が置いてあるなんて」
「本当に素晴らしいわね」
「そうだろ。私のコレクションはすごいだろう。どれもこれも大金をはたいて手に入れた物だ。愚民どもには二度とお目にかかることはないだろうな」
相変わらず見下すような口調だがこんなに集められるのは普通の人には確かに無理だな。
にしても天井はものすごく高いな。
そして一番上には光を中に入れている窓がある、侵入するならあそこからが妥当かな。
もしあそこから入られるとこちらからは侵入することは出来ない。
捕まえるとしたら外で待ち伏せするのが妥当かな。
「それじゃあ、任せたぞ。もし一つでも私のコレクションが盗まれれば、分かってるな」
そう念を押すと、ハイガスは俺達を宝物庫から出してしっかりと扉を閉めた。
よし、こっからは自由時間か先ずはこの屋敷の構造をちゃんと把握しておかないとな。
窓から侵入する場合、どういうルートからくるかとかちゃんと調べないとな。
もしそれで接触の機会を逃したらもう俺だけでガルアの城に侵入するしかない。
「ねえ」
「え?あ、何ですか?」
「あなた何で今回の仕事に参加したの」
な、何だこの人。
もしかしてガルアの関係者か!
俺から情報をもぎ取ろうとしてるのか!
「因みに私はお金に困ってたから。私が欲しい服が少し高かったのよね。だからなるべき沢山貰える仕事とを探してたの」
「え?あ、そういうこと。俺もお金に困ってたからせっかくならと思って」
俺の考えすぎか。
色々あって疑心暗鬼になってるかもな。
「ふーん、あなたも私と同じね。お互い頑張りましょうね」
そう言ってピンクの髪の女の人は手を差し出してくる。
俺は少し戸惑いながらもその手を握った。
するとその手を一気に引き寄せられ、俺はそのピンクの髪の女の人に抱きしめられた。
「あなたとはもっと仲良くしたいと思ってるわ」
「ちょ、ちょっと!突然何をするんだ!あんた何者だよ!」
「あらら、困らせちゃったかしら。ごめんなさいね、私ちょっとスキンシップが過剰みたいなの。初めて会った人に忘れられるのは悲しいもの」
「それにしてもやりすぎだろ!とにかく、俺は一人で考えるからじゃあな!」
「あれれ、逃げられちゃった」
ふー何とかあの人から逃げられた。
よく分からない人だがとにかく一緒に作戦を考えるわけには行かない。
だって俺の作戦はあいつらを逃がすための作戦なんだから。
「よし先ずは外に出るか」
俺は屋敷の周りを確認する為に外に出る。
この屋敷はかなりの広さがあり、庭もある。
その分、警備が見回りを厳重にしているみたいだな。
だが、周りの屋敷と距離も近いから屋根伝いで行けば簡単に侵入出来るな。
となると侵入ルートは屋根が妥当かな。
だが、当然屋根を警備している者も居るだろうな、そうなると屋根伝いで行くのは難しくなる。
「あのすいません」
「は!何でしょうか」
「夜の警備の見回りってどうなってますか?」
「見回りですか。すみません、それは隊長が把握していますね」
「隊長?」
「どうした、何か合ったのか?」
すると他の警備達とは風格の違う男がやって来た。
こいつがさっき言ってた隊長なのか。
「隊長!夜の警備状況を聞きたいと」
「警備状況?ああ、君は確かハイガス様に雇われた日雇い警備員か。そうだな、本日は特別警備として厳戒態勢で見回るぞ。外に5人、中に3人、宝物庫の前に2人、空からの侵入を踏まえて1人は屋上からの警備を想定している」
隊長は紙を取り出して警備体制の説明をする。
「かなり厳重だな。俺の考えも話していいか?」
「何か策があるのか?」
「外の見回りの警備だけどそんなに必要なのか?おそらく侵入者は宝物庫から直通ルートで来ると思う。隠し部屋とか地面の穴を掘って中に侵入するとかな。もしそれで中に入られた場合、外に居たんじゃ対応に遅れるぞ」
「なるほど、隠し部屋は我々では知らないな。後ほどハイガス様に確認を取る。先程の話を踏まえると中の警備を増やした方が良いってことか?」
「そうだな、宝物庫の警備前は俺達が見守る。だから中の警備配置は隊長に任せるよ」
「だが、空からの侵入については警戒した方が良いだろ。侵入経路で窓からの侵入も考えられるだろ」
やっぱりその事についてもちゃんと考えてあるか。
「窓からの侵入も確かにあるがわざわざ見守る必要はないと思う。窓の近くに警報の魔道具を使えばすぐに分かるだろ」
「なるほど、分かった。城の中にも魔道具を仕掛けてあるから引っかからないようにな。これがその場所が書かれた地図だ。もう一人の子にも渡してあげてくれ。よし、これから作戦会議だ!行くぞ!」
「はい!!」
そう言って隊長と警備員は作戦会議をするために屋敷に戻って行った。
とりあえず、これで準備は出来たかな。
「そう言えばあいつどこに居るんだろ」
「私の事探してるの?」
「おわっ!?」
その時突如俺の後ろから声を掛けてくる。
俺は思わず驚いて飛び退いてしまった。
「今日に話しかけてくるなよ」
「あなたの姿が見えたから話しかけようと思ってね。そしたら私の話をしてたから気になっちゃって」
「別に特別用はないけど、ああそう言えばこれ貰ったぞ」
俺は先程貰った地図をピンクの髪の女の人に渡す。
「ありがとう。そう言えば警備の方たちと何の話をしていたの?」
「別に。俺は用事があるからそれじゃあな」
俺は急いでその場から離れる。
あいつに余計なこと喋ったら作戦に支障がきたすかもしれない。
とりあえず、あいつは放っておこう。
夜になれば本番開始だ。
それから時間が過ぎていき、夜が訪れた。
そして屋根の上には二人の影が合った。
「さて始めようか」
「世直しの開始だっちぇ」




