その一 託した真実
「この本の中にケインが託した物があるのか」
俺は机の上に本を広げて先程貰った石を手に取る。
色々言いたいことは合った、まだまだ話したいことは合った。
だけどそれはもう二度と出来ない。
だからこそケインは何も喋らず俺に本を見ろって言ったんだよな。
「よし、見よう」
確かな覚悟を決めて俺はライトを手に取る。
そしてそこに魔力を込めてライトを付けた。
「確か石に明かりを当てればいいんだよな」
俺はそのまま意思をライトで照らす。
すると石から青白い光が現れそれが本に当たると見えなかったものが浮かび上がって来た。
「これって!?」
俺は浮かび上がった物をじっくりと見る。
そこは元々手書きの魔法陣が描かれた物だったが、新しく浮かび上がって来たのはそれよりも正確な魔法陣だった。
俺は次々とページをめくる。
その全てに新たな魔法陣が浮かび上がっていた。
「日本でいうところのブラックライトみたいなものか?にしてもこれで全部の魔法陣をちゃんと覚えられるな」
でもどれもこれも魔法陣が複雑すぎる。
俺のインパクトや風間から貰った複製の魔法陣もかなり複雑だが、ここに描かれてる魔法陣も同じくらい複雑だ。
そう簡単に覚えられそうにないな、最低でも一ヶ月下手したら数年かかるかもな。
俺はそう考えながらページをめくっていく。
すると、白紙のページにたどり着いた。
「そう言えば、後半のページは全部白紙だったな」
ここまでケインの事について知る機会はなかった。
もしかしたら白紙のページに何か書かれてるのかもしれない。
俺は急いで白紙のページを照らした。
すると手紙のような内容が浮かび上がって来た。
「これがケインが言っていた物か」
俺は早速それを読み始めた。
「これを読んでいるという事は君は少なからず俺が信頼できる者だと思う。そしてそれを託したという事は俺はもうこの世には居ないのだろう。これを書いた経緯は俺がこの世から自分という存在を消されるからだ。俺はカルシナシティの王ルナカルド、ガルアと約束を誓った者の一人だ」
「っ!?カルシナシティの王だって!あのケインが!?」
確かに元カルシナシティの王が居なくなってその後継ぎとして風間が選ばれたとは知ってたけど、その元王がルナカルド、つまりケインだったってことか。
あいつそんなすごい身分だったのか、それを自分自身忘れていたのか。
「俺はここに俺が知る限りの真実を書き残そうと思う。まず初めにここに居る者たちは過去に悲惨な経験を歩んでいる。俺達すべての者がこの島出身ではないのだ。その事実をある男によって消された。ゆえに今いる者たちはこの島から生まれ自らを半獣という生物だと勘違いしている。だが真実は違う。生まれも育ちもここではない外の世界から来た者たちが集められ、俺達はある組織により半獣化されたのだ。俺達は半獣などではなく人間だ」
「っ!これってかなりやばい情報だよな」
人間だった、半獣はこの島にいる人間と同じ。
いやむしろ同じ生物だったのか。
しかもこの島は元々は普通の島じゃなかったってことだよな。
人間を半獣化させる実験島だったのか。
「この俺もその実験により半獣化されてしまった。その実験は過酷なもので思い出すだけで頭がどうにかなりそうだった。目の前で何人もの人間が死に何人もの人間の精神が壊れて行く姿を見てきた。だが、半獣化に成功した者が多くなってくると、俺達は自由を得る為に研究者たちを皆殺しにした。そして捉えられた人間達を解放し、俺達は自由となった。だが俺達は生まれた場所に帰ろうとはしなかった。正直言うとこの島の潮の流れは複雑で頑丈な船が無ければ大破してしまい、誰かが意図してこない限り絶対にたどり着くことが出来なかった。だが一番の理由は帰る場所が無いからだ。この実験に参加した者たちは身寄りもない者やホームレスや親に売られた者、施設で育ったものなど皆帰るべき家が無い者たちだった。さらに島の周りを取り囲む特殊な機械のせいで島の外に出ることも困難だった。何よりも半獣化した者が外に出たところで気味悪がられると考えた半獣は人間と共にこの島で生きと行くことを決めた」
この島に人間と半獣が居たのはそう言う事だったのか。
だけど共に生きていくと決めた割には格差が激しかったよな。
今の現状は完全に人間に厳しい目を向けてる奴が多いし。
「最初の頃は共に助け合っていた。だが次第に関係がズレてきた。この島に閉じ込められてることを不満に思う者が出てきのだ。そしてその関係悪化し、島に出る者と島に残る者に分かれ両者は争うようになってしまった。その争いは一年ほど続き最終的には両者のリーダー格であるガイスとゼットの決着によりその戦争は終わりを迎えた。その後ガイスは自分の体の回復まで勝手な行動をさせないために、この島の半獣の記憶を全て奪い、この島に残ることを強制させたのだ。そしてその魔法に耐えた者たちを集め、余計なことを喋らないことを条件に王になる権利を授けたのだ。それが俺が王となることになった経緯とこの島の消された真実だ。近いうちに眠っていたガイスは目を覚まし、外の世界を自分の物とするだろう。そうなればこの世界に平和など二度と訪れないだろう。俺はもうそれに耐えられなかった。だからこそ真実を皆に伝えようとしたが、ガルアには勝てなかった。記憶を消され、自我を失っても俺は君にこれを託すことに意味があると思っている。この真実を知りこれを読んでいる者が何をするのかは自由だ。だが、生きて欲しいそれを切に願っている」
これがこの島の真実そしてケインが王となった経緯。
ケインは全部知ってたんだ、全部知っていたからこそ皆に伝えようとしたんだ。
だけどそれをガルアにバレて記憶と半獣の力を奪われてしまったのか。
ケインが人間になったのは耳と尻尾を切り落とされたからだ。
辛かったろうな、あんなにやさしかったケインが皆を騙して王として生きなきゃいけないなんて。
「ようやく分かった。俺がすべきことはガルアを止めることだ」
あいつは全部知っているんだ。
多分記憶を消す魔法にかからなかったわけじゃなく、最初からかけられてない。
ガイスって言う奴の仲間なんだ。
そしてまず間違いなく、あの城にはガイスが眠っている。
そしてガルアはガイスを目覚めさせようとしている。
止めないと、ガイスが何をしようとしているのか分からないけど少なくともケインはそれが良くないことと思っていた。
数ページめくった時新たに浮かび上がって来た。
「これってガルアの城の見取り図か!?」
秘密の部屋の場所とそれを開ける為のやり方も書かれてる。
これは行ける、これなら次は確実に辿り着ける。
「そのためにもあいつらの協力が必要だ」
俺は本を閉じると棚に石と共に本をしまった。
そしてそのままある人を探しに行くために家を飛び出した。




