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半分獣の俺が異世界で最強を目指す物語  作者: 福田 ひで
第十七章 さよなら、ミノル
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その二十五 決意

「ただいま……」


俺は何度言ったか分からない、返事のないただいまを言うとミノルを部屋まで運び、ベッドで横にさせた。

そしてミノルを寝かした後、台所に行きコップに水を溜めて一気に飲み干した。


「はあ、はあ……っふう……」


俺は自分の気持ちを落ち着かせるために深呼吸する。

大丈夫だ、今までの不安はこれまでの経験からくるものだ。

悪い事が起きると悪い事を連想させやすい。

明日になったらミノルも目覚める、そうすればまた気分の悪いながらも晴れるはずだ。

大丈夫だ、何も心配ない。


「何も心配ないんだ」


俺はそのまま疲れた体を休める為にベッドに横になると、気絶したかのように一瞬で眠りに落ちた。

明日が良い日になることを願って。


――――――――――

「ん、もう朝か……」


窓から差し込む光で閉じていた眼を開く。

数回目を擦ると、頭が段々と覚醒していき今自分がすべきことを思い出す。


「そうだ、ミノル!」


俺は一瞬にして部屋から飛び出すと一目散にミノルの部屋に入った。


「ミノル!」


感動の瞬間、ミノルともう一度話、笑いあう事を何度も想像した。

それがやっと想像で終わらない、この瞬間まで本気で思っていた。

だが、現実はミノルは眠り姫のように永遠に目覚めぬ者となっていた。


「何で……何で目覚めないんだよ」


フラフラとした足取りで俺はミノルの元に行き、そして抱きしめた。


「起きてくれよミノル!お願いだから目覚めてくれよ!一緒に話したいよ!!」


溢れる涙、それはミノルの頬を伝っていく。

記憶の中のミノルは笑っていた。

それは常に新しくなっていく物だと思っていたが、それはもう過去のものとなってしまった。


「諦めないぞ、俺は絶対にあきらめない!」


俺は涙を拭い、自分に語り掛けるように何度も言った。

そう言わなきゃどうにかなってしまうからだ。

諦めたら俺はもう立ち上がれないからだ。


「先ずはあいつとの約束を果たさないと」


俺は昨日風間と約束したことを思い出し、覚悟を決めてその場所に向かった。

岩山の荒れ地帯、そこで風間と決着を付けるんだ。

一つずつじっくり達成していこう。

時間はないけど焦ったら何事も上手くいかない。

こういう時こそ冷静になるんだ。


「にしても遅いなあいつ」


待ってから一時間が経った。

さすがに忘れたという事はないだろうが、もしかして来ないつもりなのか?

いや、さすがにそれはないだろうあれだけ言って来なかったら、俺は本当にあいつの人格を疑う。

その時、奥から何かの気配を感じ取った。

この地帯にはモンスターはいない、つまり風間か?


「やっと来たかあいつ。おい、かざ……」


俺はその気配の方を見るとそれが何か理解した時、体が固まった。

風間ではなくそれはツキノだった。

嫌な予感がした、いや単純に来られないという伝言を伝えに来ただけかもしれない。

だけど無性に心がざわついた。

ツキノの表情は今まで見てきたどの場面よりも暗く、絶望していた。


「久しぶり……」

「あ、ああ久しぶり」


今にも消え入りそうなはかない声でツキノは挨拶をした。

そしてその手には紙のような物を握りしめていた。

かなり強く握ったのだろう、しわが寄っていてくしゃくしゃになっている。


「どう……したんだ今日は?風間はいないのか?」


やめろ聞くな俺!もう分かってるだろ!

明らかにおかしいこの今の状況を!


「風間は……来れなくなった……」

「どうして……?」


分かってるんだもう!もう風間は……


「風間は……」

「風間は?」


風間もうこの世に!


「私が殺した……」


居ないんだから!!


「え?」


思考が止まった、頭の中で鳴っていた警鐘が一気に静まり静寂が訪れた。

目の前の現実は俺の想像をはるかに超える物だった。

ツキノはそう言うと、赤く腫れた目でこちらを見据えてしわくちゃになった紙を渡してきた。

俺はまだ理解していない状況でそれを受け取ると、無意識に紙を開いた。


『この手紙を読んでるってことは俺はもうこの世に居ないだろう。この手紙を読んでいる人が絶対かつだと思いながら、俺は手紙を書く。かつまず最初に俺が何故お前をいじめたのかについて話したい。結果から言うと仕方がなかったからだ。小学生の頃はある程度グループが決まってしまっていた。それに入れなかった者はいじめの対象になる。理不尽だが一人で居る奴をどうしようが誰も悲しまないと思うのが、人の心理だ。そして俺自身もそう言ういじめる側のグループになっていた。そこに入ってしまったら、俺もそうせざる負えない、やらなかったら俺もいじめられるからだ。やるしかなかったんだ、自分の身を守るためにもいじめるしかなかった。そんな時お前がいじめられてると知った。それを知って俺は助けようとも思ったんだ。それは初めて会った時から友達になりたいと思ってたからだ。これは本当だ、俺はお前と友達になりたかった。だけど、お前がいじめられてるのを見て俺は足がすくんで動かなかった。自分はこうはなりたくないと思った。だから俺は逃げた、楽な方に逃げたんだ。自分が傷つかない様にいじめる側になったんだ。それからはお前とは最悪な形で会うことが多くなっていた。今更ごめんなさいと言っても無理だろう。せめて、お前が本当に追い詰められない様に根回しするつもりだった。だけどお前はそんな気遣いも必要が無いくらい、強かった。強い男だった。俺が持ってない者を持っていた。だからお前に託すことにした。俺は負け犬だ、死んだことを笑ってくれていい。だからこそ最後にこれだけは言わせてくれ。ごめんなさい』


それが最後に風間が俺に伝えたかった事だった。

その手紙を読み終えた俺は胸の中である物が沸き上がった。

怒りだ、体が熱くなるほどの怒りを感じ、俺は勢いよく目の前の手紙を破った。


「っ何……してるの」

「ふざけんな!何がごめんだ!何が友達になりたかっただ!」


俺はちぎった紙を思いっきり投げ飛ばして、踏みつけた。


「手紙なんかで俺の気持ちが収まると思ってるのか。何が強い奴だよ……俺だって辛いに決まってるだろ。泣きたくなる日だって沢山あったよ」


追いつかない感情を胸に俺はその場でうずくまった。


「かつ……」

「俺は絶対に許さねえ。必ず謝ってもらうぞ、手紙なんかじゃなくて直接謝ってもらうからな!」


俺は覚悟した、このままずっくりと様子を伺っても意味が無いと。

すると、ツキノがもう一つの紙を俺に渡してくる。

その紙はしわ一つなく新品な状態と思う程の紙だった。


「風間が……これを」


俺はそれを無言で受け取ると、真っ白い紙を裏返した。

するとそこには複雑な魔法陣が描かれていた。

それが何の魔法なのか俺はすぐに理解した。


「はあ、謝罪の気持ちのつもりかよ。こんなもの使えるわけがないだろ!」


俺はそれを破ろうと手に力を込めた時、ツキノが俺に体当たりをして来た。


「っ!!」


俺は思わぬ衝撃でバランスを崩してその場から倒れる。


「駄目……切らないで……お願い」

「ツキノ……お前は何で風間を殺したんだ」

「それが……目的だった」

「最初から殺すつもりだったのか。でも本当に殺せたのか?もし殺せたとしてもあいつがそう簡単に死を受け入れるとは思えない。お前にこの手紙を渡したってことは死を受け入れとなおかつ、お前に手紙を託したってことだろ?殺された奴にそんなこと普通頼まないだろ。本当にツキノは風間を殺したのか」


その質問の答えを言うべきか言わないべきか、そんな葛藤がツキノの表情に現れていた。

俺はツキノが殺したと思わない、恐らくあいつは自分で自分を殺した。

自殺だ、それをしたのも多分体の活動時間が無かったんだろう。

ガルアの城にいきなり大胆にも潜入したのも、時間のなさから来た焦りなのだろう。


「私は……」

「もういいよ。辛い事を思い出させて悪かったな。ツキノは優しいから、全部分かってるよ」


するとツキノの瞳から大粒の涙が零れ落ちる。

そして今まで聞いたことも無いほどの感情が溢れ出した声を出し、涙を流し続けていた。

しばらくしてツキノは気持ちを整えて、すっきりした面持ちで今後の行き先を語った。

それはガルアの城に戻るという事だった、そこで何を言うかは教えてくれなかったが、今のツキノならきちんと答えを出しているだろう。

そして俺はすぐにリツの店に向かった。


「リツ!」


俺は昨日と同様に勢いよく扉を開いた。

それに棚の整理をしていたマキノが驚いて手に持っていた商品を落としそうになっていた。


「ちょ、ちょっと!急に開けないでくださいよ!びっくりしたでしょ」

「悪い、それよりリツは!」

「私なら~ここだよ~」


リツはそう言うと休憩スペースでお茶を飲んでいた。

俺はすぐにリツの元に駆け寄り、伝えたい情報を簡潔に言う。


「ミノルが目覚めないんだ!」

「え?それは本当?」

「俺が嘘つくわけないだろ!なあ、今日目覚めるんじゃなかったのか?」

「それはおかしいな~もしかすると~私が知らない~魔法なのかも~」

「知らないってことは対策が立てられないってことか?」

「それはまだ何とも言えないね~」

「いや、もういい。色々頼んで悪かった。後は俺が何とかする」


俺はリツの言葉を聞いて再度覚悟を決めた。


「え?何とかするってどうするつもりですか」

「俺は間違ってた。ずっと待ってたって何か起きるわけじゃない。この世界は待ってるだけで答えをくれる程、優しい世界じゃないってこと」


俺はそう言って拳を握りしめた。

それはこれから先の出来事をどう自分がしていくかの覚悟だ。

もう誰かに頼るのはやめた。

俺はそのまま、リツの店を出ようと扉を開ける。


「ぜっちゃん!!」


その時リツが俺の事を呼び止めた。


「無茶だけはしないでね」

「無茶をしなきゃ、何も守れないだろ」


俺はそのまま振り返ることなくリツの店を出た。

そして俺はある人を探しに向かった。


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