その二十四 消えた黒い建物
「ごめん!ちょっといいか!今大変なことになってて」
俺はリツにミノルの容態を確認してもらおうと、ミノルをおんぶしたまま店の扉を勢いよく開く。
そこにはいつも通りリツが出てくると思っていたが、その予想は次の瞬間呆気なく砕かれた。
「いらっしゃ……あれ!どうしているんですか!」
「いや、それはこっちのセリフだよ。マキノのリツに用事があるのか?」
「いえ、私はここで働いてますよ」
「え?働いてるのかここで!?」
驚いた、てっきりただのお客だと思ったらまさか従業員だったなんて。
しかも何故かリツの店だなんて。
「数日前からここで働かせてもらってるんですよ」
「え?何で?」
「いやあ、前回作った魔力を倍増するポーションが無くなってしまったので、風間さまとの約束を守れなくて、見せなくなっちゃって。それで、路頭に迷ってるところをリツに拾ってもらったんですよ。そうですよね!」
そういうと、マキノは店の裏に居るリツに話しかける。
どうやらリツは部屋の中に居るみたいだな。
「なるほどな。それじゃあ、ちょっとリツ呼んでくれないか?」
「あー今リツは料理作ってますよ!てんちょーう!絶対さんが遊びに来ましたよー!」
「いや、遊びに来たわけじゃないんだけど」
「ほんと~ちょっと待ってね~」
まあ、どっちにしろ来てくれるなら何でもいいか。
とりあえず、一旦ミノルを椅子に座らせた方が良いよな。
俺は近くの椅子にミノルを座らせる。
「ミノルさんどうかしたんですか?もしかして、モンスターに気絶させられたとか?」
「いや、ちょっと違くてな。俺にもよく分からないからリツに見てほしくて」
「ふーん、結構やばい感じなんですか?」
「多分……」
俺はいまだに眠っているミノルをじっと見る。
まだ起きる気配はない、これからも起きることはないのか?
そんな不安ばかり考えてしまう。
「お待たせ~あ~ぜっちゃんだ~それと……ミっちゃん?」
リツは椅子に眠っているミノルを見て何か異変を感じ取り、すぐに駆け付ける。
するとリツはミノルの体を触り始める。
「昨日から眠ったままなんだよ。何しても起きなくて、俺、どうすればいいのか分からなくて」
「原因は?」
「多分、黒の魔法使いの仕業だ」
その言葉を聞いてリツは驚いた顔をする。
「え?だって黒の魔法使いとは縁を切ったはずじゃ。もう関わらないって決めたんじゃないんですか?」
「決めたよでも、あいつが押しかけてきて。黒の魔法使いのリーダーって言ってきて」
「もしかしてシント!」
リツが俺言うより先にその名前を口にした。
俺はその質問に無言でうなずいた。
「何があったか、最初から説明してくれる?」
「分かった」
俺はミノルが目覚めなくった経緯をリツに説明した。
リツはその間にも無言で俺の話を聞いていた。
マキノも同様に難しい顔をしながらも黙って話を聞いていた。
話していくうちに俺も心が少し落ち着いてくるのを感じた。
誰かと共有することにより、少しだけ楽になれた。
そして話が終わると、リツは大きく息を吸って吐いた。
「それは~ルール違反だね~」
「え?」
「何でもないよ~こっちの話だから~ミっちゃんは明日には目覚めるはずだよ~」
「ほ、本当か!?」
「本当だよ~」
俺は喜びのあまり腰を抜かしてしまう。
それにより思いっきり尻もちをついてしまった。
「ちょっと何してるんですか!?」
「いや、安心したらつい。ありがとう」
俺はマキノが差し出した手を取り何とか立ち上がる。
「まあ、私はよく分からなかったですけどよかったですね」
「ああ、ありがとうリツ。ずっと心配だったからどうなるかと思ったよ」
「それにしても~大変だったね~そんなことになってるなんて知らなかったよ~」
「まあ、突然だったからな。でもこれで俺は理解したよ。黒の魔法使いは完全に信用できないってな」
やっぱりあいつらを信用するとろくなことにならない。
これからはもう二度と関わることはないだろうけどな。
俺は話が終わったことで家に帰るべく、ミノルをおんぶする。
「ありがとなリツ。色々頼っちゃってごめん」
「謝らないで~2人の役に立つなら~何だってやるから~」
「私も出来る事なら協力しますよ。ちなみに絶対さんもこの店の売り上げに協力してくれると助かるんですけど」
「はは、また今度買いに来るよ。リツなんか合ったらまた来るよ。じゃ」
そう言って俺はリツの店を出た。
「絶対さん大丈夫ですかねー」
「う~ん、大丈夫だと思うよ~でも今はちょっと~グレーかな~」
「え?」
「それじゃあ~昼食にしよっか~」
――――――――――
俺はミノルを抱えたまま町を歩く、この町にも随分と慣れた。
最初の頃は見知らぬ場所で戸惑ったけど、今じゃもう見慣れた町だな。
果物屋も道具屋もそしてこの黒いたて……
「あれ?黒い建物が無い?」
ここには確かに黒い建物があったはずだ。
それが無くなってる、いや別の建物になってる。
「どういうことだ、何で」
意味が分からない、あんな目立つ建物が無くなった。
見間違うはずがない、無くなったんだ。
その時俺は風間の言葉を思い出す。
そうだあいつはたしか先に帰ったと言っていた。
まさか、その意味って!
「っ!」
俺は勢いよく扉を開けた。
「いらっしゃいませ!お好きな席にどうぞ!」
中には沢山のお客と従業員が居た。
手には料理の皿が握られており、どうやら飲食店の様だ。
「あのすいません、ここっていつ頃出来たんですか?」
「え?あー大体2週間前くらいですかね」
「そんな前から……前の建物って知ってますか」
「ああ、あの黒い建物ですね。何か使われなくなったから解体したみたいですよ」
「そう……ですか」
俺はそのまま店の外に出る。
店員が声を掛けてきていたが俺はそれを気にしている余裕がなかった。
そして胸の中で何かもやもやした物が現れた。
それは不安、とても小さな不安だった。
だけどこの瞬間、それが大きくなっていくのを感じた。
「大丈夫だよな。明日は約束の日だ」
俺はそう信じて自分の家に戻って行った。




