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半分獣の俺が異世界で最強を目指す物語  作者: 福田 ひで
第十七章 さよなら、ミノル
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その二十三 タイムアップ

「ただいま……」


疲れ切った俺は重い足取りでそのまま家に帰宅する。

俺の声に返事をしてくれる者は誰も居なく、ミノルは相変わらずソファーで眠っていた。

本当に生きてるか確認しようとミノルの首に手をあて、脈を確認する。


「よかった……生きてはいる、けど」


起きるのはいつなんだ?

もしかしてこのまま一生目覚めないとか?

いや、これは魔法の可能性があるとあいつは言っていた。

体中から魔力が無くなってるってことは、最終的に魔力が完全に消えるのか?

その場合、ミノルは魔法が使えなくなるのか。

それとも魔力が消えた後は生命力を奪うとかなのか。


「ああ、駄目だ。じっと何かしてられない!」


俺はそのまま眠ってるミノルをおんぶする。

困ったらリツの店だ。

リツに聞けば何かしら知っているかもしれない、それにもし知らなくても今は誰かに会いたい。


「よし、それじゃあ行くぞミノル」


―――――――――

「くそ!今日は最低の一日だ!!」


俺は先程の出来事を思い出し、思わず愚痴をこぼす。

絶対かつの奴、生意気なこと言いやがって、俺の何が分かるんだ!


「ああ!イラつく!時間が無いってのにすべて台無しだ!」


とにかく一旦俺の町に帰るしかねえ。

ツキノに任せてたが上手くやってるんだろうな。

俺はツキノに任せた町の様子を見に行くためにテレポートでカルシナシティに向かう。

そこで俺はとんでもない光景を目にした。


「何だよこれ……」

「風間を許すな!!」

「悪魔の王を粛清しろ!」

「何が町の人々の味方だ!自分の事しか考えてねえじゃねえか!」


町の人々が風間の城の前で暴動を起こしていた。

城の周りには倒された警備と城に向かって投げたもので散乱していた。


「俺が居ない間に何が起きたんだよ!!」


俺は慌ててカジノ店に向かう。

カジノ店の建物は町の人々の手によりガラスは割られ、中の物も徹底的に破壊されていた。


「くそ、本当に何が起きたんだよ」


俺はすぐに店の中に入り、自分しか知らない秘密のルートに向かった。

どうやらさすがにその道はバレなかったみたいだな。

俺は壁の窪みを順番に押してルートを開く。

道が繋がりその道に沿って歩く。

こういう時の為に用意した道だったが、早速役に立ったな。

薄暗い道を駆け抜けるとようやく出口が見えてきた。

梯子を上り、上の蓋を外すとそこは城の中だ。


「ふう……」

「おかえり……」


声が聞こえた方向を見るとそこにはいつも通りのツキノが居た。

いつも通り、こんな状況にもかかわらずいつも通りのツキノに強烈な違和感を感じつつ、俺はツキノに質問する。


「これは一体どういう状況だ。俺が居ない間に何が起こった!」

「誰かが……流したの……風間の悪事……」

「悪事だと!?何のことだ!」


するとツキノは数枚の写真を取り出すとこちらに渡してくる。

そこには俺が闇の商人と取引しているところや金を渡しているところなどが写っていた。


「何だよこれ……」

「そういう物が……配られて……町の人達が怒り始めた……そして……表に出てこないから……我慢できなくなって暴れ始めた……」

「噂の発生源は分からないのか?」

「新聞を配ってた……受け取った人は……フードを被っていて分からない……」

「分からないんじゃないんだよ!!そんなの決まってるだろ!あいつが!ガルアの仕業に決まってる!」


俺は怒りをぶつけるように写真を床にぶちまける。

そしてそれを何度も踏みつけた。


「ツキノ仕事だ!すぐに誤解を解いて町の皆を落ち着かせるぞ。先ずはお前はこの情報を撒いた奴を見つけろ。本人じゃなくてもいい、それっぽい奴を捕まえて来い!」

「……」

「どうした」

「本当に……やってないの……」


俺はその言葉を聞いた瞬間、何かがはじけ飛んだ。

俺はこんなことをすると思われているのか。

俺はこんなことをする酷い奴に見えてるのか。

俺は自分が思っている以上にクソ野郎だったのか。

ポケットに手を突っ込んで時間を確認する。

時間はもうない。


「ツキノ、俺の部屋に来ないか。話がしたい」

「どうして……?」

「話したいんだ、頼む」


ツキノは俺の言葉にうなずいて俺の後について来る。

自分の部屋のドアを開けて俺はツキノを招き入れるとドアを閉める。

そしてそのままいつも座っている椅子に腰かけた。


「お前と一緒に街づくりをして2年位か。長いようで短かったな」

「そうだね……」

「正直言うと俺はお前と何かをするのが好きだった。素の自分で居られるというか、気が楽になった」

「……」

「ツキノは俺と過ごしてどうだった?ムカつくことも多かっただろうな、ため息ばかりつく毎日だったか?」

「私は……」


ツキノは少し困った顔をしていた。

それ以上は耐えられなくなり、俺はツキノの言葉を止める。


「まあいい、とにかく俺が言いたいのは。この世界も悪くなかったってことだ。ありがとなツキノ、お前のおかげだ」

「……っ!」


するとツキノは椅子に座っている俺を突き飛ばす。

俺はバランスを崩して床に倒れてしまい、さらにツキノが馬乗りしてくる。

その手には刃物があった。


「やっぱりそうか。はなからお前はガルア側だったのか」

「どうして……分かってたのに……逃げなかったの」

「どうしてか、どうしてだろうな。もう何もかもどうでもよくなったって言うか。もがく気力すらなくなった。俺は特別でも何でもない数ある命の中の一つだと気付かされた」

「……」

「お前は俺といて楽しかったか?やっぱり辛かったか?俺の命令を聞く毎日は苦痛か」

「どうして……今聞くの……」

「今だから聞きたいんだよ」


その時、俺の顔に涙が落ちる。

最初は感情を持たないと思っていた無表情のツキノに涙が零れていた。

涙を流していた、それは初めて見るツキノの表情だった。


「ありがとう」

「何が……」

「泣いてくれた。こんな俺にも泣いてくれる人が居るだけで、俺の人生は救われたよ。半分獣の人生はこれで終わりだ。次は現実と向き合う時だ」

「何を……」

「こういうことだよ」


俺はツキノを振り落としてナイフを奪い取る。

そしてそれを迷わず自分の胸に突き刺した。


「な、何を……」

「っぐふ!」


強烈な痛みと共に血が流れだす。

これは即死だ、数秒で死ぬ。


「かつに、手紙を渡してくれないか……場所は、カラット山脈だ」

「どうして……自分を……」

「これは俺のケジメだ……じゃあ、な……ツキノ」


そして俺は目の前が真っ暗になった。


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